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8月15日に読む - 友森敏雄 (「WEDGE Infinity」編集長・月刊「Wedge」副編集長)

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フランシスコ・ローマ法王が手に持つこの写真は、『焼き場に立つ少年』として知られる。昨年、ローマ法王が「戦争が生み出したもの」として、カードにして配ったことで、再び注目された。従軍カメラマンのジョー・オダネル氏によって撮られた写真だ。『トランクの中の日本』(小学館)には、写真と共に撮影した状況が綴られている。

敗戦後の長崎、10歳くらい少年が死んだ弟を背負い、焼き場の前に立っていた。少年は弟が焼かれる間も直立不動の姿勢を崩さず、そのまま立ち去って行ったという。

オダネル氏は、こう語っている。


『トランクの中の日本―米従軍カメラマンの非公式記録』(小学館)

「少年は焼き場のふちまで進むとそこで立ち止まる。わき上がる熱風に動じない。係員は背中の幼児を下ろし、足元の燃えさかる火の上に乗せた。まもなく、脂の焼ける音がジュウと私の耳にも届く。炎は勢いよく燃え上がり、立ちつくす少年の顔を赤く染めた。気落ちしたかのように背が丸くなった少年はまたすぐに背筋を伸ばす。私は彼から目をそらすことができなかった。少年は気を付けの姿勢で、じっと前を見つづけた。一度も焼かれる弟に目を落とすことはない」

オダネル氏は、少年のそばにいってなぐさめてやりたかったが、「もし私がそうすれば、彼の苦痛と悲しみを必死でこらえている力をくずしてしまうだろう」と思ったという。

オドネル氏の言う通り、何か外部から接触があれば、少年の張りつめた糸が切れてしまうような、そんな表情である。

この少年は、どういう状況でこの焼き場にやってきたのだろうか。両親を亡くし、たった一人で肉親である弟も失ってしまったのか。それとも、病気、あるいは負傷して動けない母親(父親)が火葬場までいくことができないため、たすき掛けに死んだ弟を背負わせてもらい、一人でやってきたのか……。

もし彼の両親がこの光景をもし見るようなことがあれば、それこそ地獄の苦しみだろう。敗戦後、戦災孤児は12万人にも上ったとされる。この少年がこの後どうなってしまったのかは、いまだに分かっていない。

日本では74年前の悲しい出来事であるが、世界に目を向ければ、このような惨劇が日常的に起きているのである。こちらの写真を見てほしい。

『They were screaming and crying at the top of their lungs… SY24』

シリアのニュース社「SY24」が撮影したものだ。7月25日、シリア政府軍によって空爆され、崩壊した自宅の瓦礫に埋もれた少女(5歳)が、1歳にも満たない妹を片腕でなんとか支えている。この後、姉のほうは亡くなったという。絶望の表情で二人を見る男性は父親なのだろうか。この記事からそれは分からない。

74年前に弟を失った少年、そして先月、妹を助け自らは命を落とした少女。子どもが被害者になる再生産は今も続いている。


『戦後経済史』 (日経ビジネス人文庫)

いまだ健在の1940年体制

74年前、4歳だった野口悠紀雄氏。東京大空襲で九死に一生を得るという経験をした。しかし、出征した父親は帰ってこなかった。こんな原点を持つ野口氏は、『戦後経済史』(日経ビジネス人文庫)のなかで、敗戦後の発展の背景には「1940年体制」があると指摘する。

これは、1940年代に、岸信介など革新官僚と呼ばれる人たちが、戦争遂行に向けて「総力戦体制」を構築すべく「産業の国家統制」をはじめたことを振り出しに、金融統制(直接金融から間接金融へのシフトによって、銀行による企業支配を強める)、源泉徴収の導入(所得税徴収の強化)などへ統制が広がった。

さらには、自動車製造事業法によって、自動車の製造を許可制として、フォードなどアメリカ車を日本国内から実質的に追放した。電機においては東芝、日立が、そして日本製鐵もそれぞれ合併して誕生した。

「40年体制は、50年代、60年代の資源・資金不足の局面において、戦略的な産業部門に資源配分を優先的に行うことを可能にし、それによって戦後の復興と日本の工業化を助けました。それして70年代においては、石油ショックという外からの危機に対して、日本経済全体にとって最適となる対応を可能にするという、大きな機能を発揮したのです」

こうした成功体験によって、いまだに「日本礼賛=40年体制礼賛」が根強く残っていると、野口氏は指摘する。1990年代以降、情報通信革命などによって、外部環境が大きく変化しているにもかかわらず、その状況に対応した経済体制を構築することができていない。

日本がアメリカの自動車産業や半導体産業をキャッチアップしてきたように、韓国、中国勢によって、日本がキャッチアップされるのも当然なのだ。だからこそ、新しい経済体制、成功体験が必要で、それを認識している人も少なくないように思えるが、いまだに次の展望は見えてこない。

野口氏は「豊かになるには、まじめに働くしかない」という。ただし、その方向性が間違っていれば意味がないわけで、産業構造を世界経済の条件に適合させる必要がある。「日本の経済政策は将来において日本を支える産業を生み出すことに集中しなければなりません」と指摘する。

「経済政策を転換させなければ、『焼夷弾が落ちても、バケツリレーと日本精神で消火できる』と言っていた戦時中の指導者たちと同じように、無責任なことになります」

これまで日本経済を支えてきた自動車産業も、電動化、MaaS(Mobility as a service)など、その根底からひっくり返されるよう状況が進展しつつある。電機業界においては、スマートフォン、テレビなどのコンシューマー商品など、日本勢の存在感はなくなってしまった。次の時代「この国は何で食っていくのか?」、早急に考えなければならない。

総力戦体制の実態とは?


『昭和経済史への証言』(毎日新聞社)

総力戦体制という形はあっても、それを運用するにもあらゆる「物資」が不足していた。『昭和経済史への証言』(毎日新聞社)を読めば、その実態を知ることができる。上中下の3巻からなるこのシリーズの「中巻」において、『軍需生産の崩壊』として、海軍や商工省で物資動員を担当した岡崎文勲氏(海軍大佐)に聞いている。

戦前における日本の国力(各種生産力)のピークは、昭和12(1937)年だったという。この年、日中戦争を開始しているが、日中戦争が泥沼化していき、国力が落ちた段階で、さらに太平洋戦争を開始しているのである。

「米・英・蘭・仏から輸入がストップした場合、わが国の貿易は七割以上縮小する」  「日米間の昭和16(1942)年における物的国力の差は78対1」

など、日米の国力の差は当時も明らかであり、それにもかかわらず、戦争に突入した。その背景にある最も大きな要因が、ガソリンだった。

「戦争を開始して1年半以内に南方から石油が入ってくれば、戦争は続けられるんじゃないか。そうせずに座っておいても訓練もしなければならんし、民間にもある程度流さなければならない。こうしてなし崩しに石油がなくなってしまえば、肺病やみが野たれ死にするようなことに国がなるんだ。だから一つ撃って出て、南方の石油を確保できれば」

これが、戦争にふみきった根本理由だという。

一方、『帝国陸軍と航空機工業の崩壊』では、航空兵器総局長官だった遠藤三郎氏(陸軍中将)に聞いている。

戦争の主役が航空機であることは、日本海軍が真珠湾攻撃や、イギリス海軍のレパルス、プリンスオブウェールズを沈めたことで、世界に知らしめたが、その後、日本は後手に回ってしまった。その航空機生産においては、陸海軍の型式多種不統一(陸海軍合計で、90種の基本形式と164種の変種がつくられた)によって、生産性が悪かったという。

以上「8月15日に読む」、3冊を紹介した。終戦から74年。日本の歴史上最大の失敗とも言える敗戦から得られる教訓は多い。

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