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少年Aが繰り返し観た映画・書籍の実名リスト

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1997年、神戸市須磨区で起こった連続児童殺傷事件。その加害男性「少年A」は、観た光景をそのまま記憶する「直観像素質者」であった可能性が高いという。少年Aの作文から、読書・映画遍歴を、当時週刊文春記者だった森下香枝氏(現・週刊朝日編集長)がたどった――。

※本稿は、松井清人『異端者たちが時代をつくる』(プレジデント社)の第6章「『少年A』の両親との20年」の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/duncan1890

■少年Aの「懲役13年」はあまりに文学的

森下香枝・週刊文春記者(当時。現在は週刊朝日編集長)にとって、少年Aの両親の独占手記を『週刊文春』に掲載できたことは、大スクープではあっても、決してゴールではなかった。少年Aとは何者なのか、まだまだわからないことが多すぎると思っていたからだ。

たとえば、先に引用した「懲役13年」という作文は、難解なレトリックを駆使し、文学的な表現に満ちている。何人かの識者が、ダンテの『神曲』や、ニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』の影響を指摘していたほどだ。

家では漫画ばかり読んでいて、通信簿には2と3しかない14歳に、なぜこの作文が書けたのか。少年Aの自宅には、ダンテもニーチェも一冊もない。

謎を解明するヒントは、少年Aが「直観像素質者」であることだった。Aは鑑定医に対して、こう話したという。

「(興味のある本を書店で立ち読みするだけで)頭にスーッと入ったページを覚えていた」
「いろんなものから抜き出して、順番を入れ替えて書いた」

■「魔物とサイコパス」の相関関係

森下記者は、猟奇犯罪や犯罪心理学に関するさまざまな文献、資料を読み漁り、二冊の翻訳本にたどり着く。『FBI心理分析官』(ロバート・K.レスラー著)と『診断名サイコパス』(ロバート・D.ヘア著)。少年Aは、この二冊の前扉に引用されている文章を孫引きし、あの作文を書いたのだ。

まず、Aが書いた「懲役13年」の真ん中あたりを見てみる。[ ]内は、『診断名サイコパス』の前扉に引用された、ウィリアム・マーチ『悪い種子』の原文だ。

〈3.大多数の人たちは魔物を[まともな人たちはサイコパスを]、心の中と同じように外見も怪物的だと思いがちであるが、事実は全くそれに反している。
通常、現実の魔物[モンスターたち]は、本当に普通な彼”の兄弟や両親たち以上に普通に[ノーマルな彼らの兄弟や姉妹たち以上にノーマルに]見えるし、実際、そのように振る舞う。
[彼ら]は、徳そのものが持っている内容以上の徳を持っているかの如く人に思わせてしまう……
ちょうど、蠟で作ったバラのつぼみや、プラスチックで出来た桃の方が、
実物は不完全な形であったのに、俺たち[私たち]の目にはより完璧に見え、
バラのつぼみや桃はこういう風でなければならないと
俺たち[私たち]が思いこんでしまうように。〉

この一節は「悪い種子」の、ほぼ完全な孫引きであることがわかる。

■殺せようのないものは殺せない

次に、「懲役13年」の最終章。

〈5.魔物(自分)[怪物]と闘う者は、その過程で自分自身も魔物[怪物]になることがないよう、気をつけねばならない。
深淵をのぞき込むとき、
その深淵もこちらを見つめているのである[だ]。〉

この部分は『FBI心理分析官』の前扉にある、ニーチェ『ツァラトゥストラかく語りき』を、ほぼそのまま写したもの。ニーチェの「怪物」を「魔物(自分)」に替えているだけだ。

もっと言えば、冒頭の一文も、映画『プレデター2』の日本語字幕とほぼ一致することが明らかになった。

〈いつの世も……、同じ事の繰り返しである。
止めようのないものはとめられぬし、
殺せようのないものは殺せない。
時にはそれが、自分の中に住んでいることもある……
「魔物」である。〉

少年Aのオリジナルは、「時にはそれが、自分の中に住んでいることもある……」という部分だけだ。

森下記者の探求心は尽きることがない。犯行声明文に添えられていた、あのナチスの鉤十字のような奇怪なマーク。これは、少年Aが繰り返し観たホラー映画『13日の金曜日』の、殺人鬼ジェイソンがつけている仮面であることも突き止めた。

「直観像素質者」だけをヒントに、ここまで掘り下げていく——私は舌を巻くしかなかった。

■手記出版に思わぬ反発

少年Aの両親の手記を出版するにあたって、私たちは慎重に準備を重ねた。何より大切なのは、被害者遺族の理解を得ることだ。

森下記者は、亡くなった土師淳君と山下彩花ちゃんの遺族にも、ずっと接触を試みていた。本の見本ができると、少年Aの両親を伴って両家を訪れた。しかし、インターホンにも応答はない。やむなく玄関の前に本と菓子折りを置いて帰り、翌朝改めて訪問すると、置いたままになっている。それでも繰り返し足を運んだ。

印税の全額を賠償に充てるといっても、人の生命は金銭に代えられるものではない。

結局、遺族の承諾はもらえなかったが、消極的な黙認は得られたという感触はあった。三家族とも、印税を受け取ってくれることになったからだ。土師さんは、損害賠償を求める裁判の動機にもあったように、犯行状況ではなく、少年Aの精神構造や成育歴を知りたがっている。本の内容は、その気持ちにわずかでも応えられるのではないかと思えた。

ところが発売直前、予想もしないところからクレームが入る。ほかならぬ文藝春秋の営業局だ。局長がやってきて真顔で言う。

「大手書店チェーンのひとつが、こんな本は売らないと言っている。私も、文藝春秋がこういう本を出すのはどうかと思う。あれだけの事件を起こした犯人の親の、弁解みたいな内容ではいかがなものか」

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