記事

アメリカの若者が「肉食」を嫌がる切実な言い分

2/2

動物が好きなのに殺して食べるのは偽善だ

例えば「フード・インク」では、ファクトリー・ファームで自分の糞尿に足首まで浸かって育てられる肉牛、日光が全く当たらない屋内で成長を早めるために抗生物質などを与えられ、骨の成長が追い付かないために歩けなくなった鶏など、これまで見たことがないような衝撃的な映像が次々に出てくる。安く豊富に供給される肉の裏側に隠された真実だ。

こうした映像のパワーが、もともと動物好きなアメリカの若者の心を直撃した。これまで何も考えずに食べていた肉と、劣悪な環境で育ち屠殺(とさつ)される肉牛とが初めてつながったのだ。情報は猛スピードでネット上を駆け巡った。

「あれを見てしまってからもう肉は食べられないと思うようになりました」と話すのは、ニューヨーク在住、ヴィーガンになって1年という23歳の女性。

肉や魚を食べるということは、生き物を殺すことになる。そこまでして肉を食べる必要があるのだろうか? という疑問が、アメリカの若者の間で頭をもたげ始めたのだ。

ベジタリアン歴8年の20歳の女性は、「自分は動物が大好きなのに、生きているものを殺して食べるのは偽善だと思ったのです」と話し、またヴィーガン歴7年という24歳の女性は「子供の頃クジラが大好きで、よくテレビでクジラの生態などのドキュメンタリー番組を見ていました。ところがそのクジラを食べる文化があることを知ってショックを受けました。その時に、私たちも牛や豚などの動物に対して同じことをしているのだと感じたんです」

こうした動物への思いとともに、人々が関心を払い始めたのが、肉食生活が人の健康に与えるリスクである。

大学や研究機関も“肉ばかり”の生活に警鐘

肉食のリスクと植物性の食事のメリットを訴え、若者に最も大きな影響を与えているのもやはりドキュメンタリー映画だ。

「フード・インク」では劣悪な環境で育てられる牛による大腸菌への感染リスクや、抗生物質の大量投入による人体への影響などが警告されている。

また「フォークス・オーバー・ナイブス」では、肉をやめてプラント・ベースト・フード(植物性の食品)、ホールフーズ(加工や精製されていない食品)を食べることで、肥満症や生活習慣病を予防、治癒することができたという内容で、大きな支持を得ている。

一方で、牛肉を中心とした赤身肉自体の健康リスクはかなり前から言われていたが、2012年にハーバード大学が発表した大規模な研究結果では、赤身肉の食べ過ぎが糖尿病、心臓疾患、ある種のがんとの関連があることが示されている。

また世界保健機関(WHO)は2015年、ハムやベーコンなどの加工に使われる化学物質には発がん性物質が含まれ、多く食べるとがんになるリスクが上昇すると発表。

今年、医学誌『ランセット』で発表された研究結果では、肉と砂糖の摂取量を半分にするだけで、世界で心臓病や糖尿病で亡くなる人の数が毎年1000万人減らせるというもので、大きな注目を集めた。

食べるものを変えたら便秘や頭痛がなくなった

逆に植物性の食生活に切り替えることのメリットも多く研究されるようになってきている。アメリカの栄養学の専門誌『アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリション』に発表された研究によれば、ベジタリアンの食事は食物繊維や葉酸、ビタミンC、E、ポタシウム、マグネシウムが豊富。特に動物性食品を一切とらないヴィーガンの人はコレステロール値も血圧も低いとしている。

こうした情報はネット上でいくらでも見つけることができ、若い世代の食に影響を与え続けているのだ。

では実際にヴィーガンになったミレニアル世代やZ世代は、自分たちの健康をどう感じているのだろう?

前出のヴィーガン歴7年の女性は、「1番よかったことは、自分が食べているものに対して非常に注意を払うようになったことです。これまで食べていたものを見直すことで、なぜ便秘や頭痛、疲労などの症状が起きていたのかを知りました。こういった症状はヴィーガンになって全てなくなりました」

「不健康になる」と周囲から大反対も

また、ヴィーガンになって1年という女性は「食べ物だけでなく、スキンケア製品なども全てヴィーガンに変えました。その結果以前よりエネルギーが出るようになったし、肌や髪もみずみずしくなった気がします」と話す。

それ以外にも、体だけでなく心もクリアになって、もっと自分や自分の周囲で起こっていることに意識が及ぶようになった。何を食べるかに注意を払うことで、以前よりセルフコントロールできるようになった。痩せるつもりはなかったが、結果として痩せることができたなどの声が聞かれた。

どうやらメリットは多くても、健康面でのデメリットはまずないと感じているようだ。しかし、別の意味での難しさはまだまだあるという。

ヴィーガン歴7年の女性はこう言う。「ヴィーガンになると決めたら、周囲の大反対に遭いました。友達も家族も、そんなことをしたらプロテインとカルシウムが不足して不健康になってしまうと言うのです」

ヴィーガンに関して、おそらく最も大きな論争ポイントの一つはここかもしれない。(続く)

----------

シェリー めぐみ(しぇりー・めぐみ)

ジャーナリスト・ミレニアル世代評論家

早稲田大学政治経済学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。ラジオ・テレビディレクター、ライターとして米国の社会・文化を日本に伝える一方、イベントなどを通して日本のポップカルチャーを米国に伝える活動を行う。長い米国生活で培った人脈や米国社会に関する豊富な知識と深い知見を生かし、ミレニアル世代、移民、人種、音楽などをテーマに、政治や社会情勢を読み解きトレンドの背景とその先を見せる、一歩踏み込んだ情報をラジオ・ネット・紙媒体などを通じて発信している。オフィシャルブログ

----------

(ジャーナリスト・ミレニアル世代評論家 シェリー めぐみ)

あわせて読みたい

「ヴィーガン」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    何をやっても批判される「老夫婦とロバ状態」の日本

    内藤忍

    08月02日 11:52

  2. 2

    コロナはインフルエンザ程度?インフルエンザで死ぬかと思った24歳の時の話

    かさこ

    08月01日 09:14

  3. 3

    新型コロナ感染者数が過去最多も 病院のひっ迫状況を強調するだけの尾身茂会長に苦言

    深谷隆司

    08月01日 17:19

  4. 4

    コロナ軽視派「6月で感染者数減少」予想大ハズレも、重症者数が大事、死亡者数が大事とすり替え

    かさこ

    08月02日 10:29

  5. 5

    「幻の開会式プラン」を報じた週刊文春が五輪組織委の"圧力"に負けずに済んだワケ

    PRESIDENT Online

    08月02日 10:36

  6. 6

    日産の小さな高級車「ノート オーラ」に中高年の支持が集まる理由

    NEWSポストセブン

    08月02日 10:43

  7. 7

    五輪もパラリンピックも中止にするべきではない。強いメッセージは経済対策・法改正で出すのが筋

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    08月02日 08:25

  8. 8

    「日本人の給料はなぜ30年間上がっていないのか」すべての責任は日本銀行にある

    PRESIDENT Online

    08月01日 16:13

  9. 9

    男性視聴者の眼福になっても女子選手が「肌露出多めのユニフォーム」を支持する理由

    PRESIDENT Online

    08月02日 15:27

  10. 10

    この1週間を凌げば、オリンピックが終わります。もうしばらく我慢しましょう

    早川忠孝

    08月02日 14:37

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。