- 2019年08月13日 17:15
アメリカの若者が「肉食」を嫌がる切実な言い分
1/2肉や卵などの動物性食材を食べない「ヴィーガン」が、ニューヨークの若者を中心に広がっている。なぜ、彼らは肉を食べないライフスタイルを選んだのか。NY在住ジャーナリストのシェリーめぐみ氏がその背景に迫った――。(第2回、全4回)

「総人口の40%が肥満症」の危機
筆者が住むニューヨークの黒人コミュニティー、ハーレム地区のレストラン「シーズンド・ヴィーガン」のオーナーシェフ、ブレンダ・ビーナーさんは、お肉や卵、魚などの動物性たんぱく質を一切とらない「ヴィーガン」を続けて12年になる。夫も息子も、さらに孫までもが同じライフスタイルを送っており、3代に渡るヴィーガンファミリーだ。
そんなブレンダさんがシーズンド・ヴィーガンをオープンしたのは5年前。大豆や穀物が原料で、鶏肉、エビ(ザリガニ)などと味や食感もそっくりなヴィーガン食材と、野菜を豊富を使った料理を揃えた。
「この地域の人々は伝統的に肉食でほとんど野菜を食べません。そんな彼らに新しい選択肢を持ってほしかったのです」とブレンダさんは語る。
ハーレムの住民に限らず、アメリカ人は基本的に肉食だ。日本と比べても肉の消費量は2倍以上にのぼる。しかし、野菜の消費は日本をわずかに上回るだけで、食生活は偏っている。
その影響でアメリカでは肥満が進行している。アメリカ人の7割が太り過ぎで、総人口の4割は心臓疾患や糖尿病などの深刻な病気を併発する肥満症という危機的状況だ。
一方で、食物アレルギーの問題も大きくなった。子供の13人に1人が食物アレルギーを持ち、患者数は1997年から2011年の間に1.5倍に増えたといわれている。
こうした問題が深刻化する中、大ブレイクしたのがオーガニック食品だ。アメリカ人の間で自分たちが何を食べているのかに関心が高まったのだ。
国民皆保険がない国の新たな予防法に
「ある子供は、トマトやジャガイモは工場で作られていると思っていた」というジョークがある。アメリカは巨大な農業国だが、どの食品がどこから来ているのかについて注意が払われることはあまりなかった。
それを一変させたのがオーガニック・ブームと言っていいだろう。有機栽培表示にこだわるのと同時に、スーパーに並ぶ野菜や肉がどこから来たかに関心が持たれるようになった。
「ホールフーズ・マーケット」というオーガニック食品スーパーが台頭し、オーガニック、ローカル、グルテンフリーといった表示が並び、「ファーム・トゥ・テーブル(農場から食卓へ)」のコンセプトがもてはやされるようになる。ミシェル・オバマ夫人がファーストレディー時代に、ホワイトハウスの庭に農園を作って話題になったのもこの頃だ。
人々は食品を買う前に、産地や食品成分表を熱心にチェックするようになり、こうした情報がネットに上がると、若者たちの間を駆け巡ることになる。特に熱心なのはデジタルネイティブのミレニアル世代&Z世代(1981年~2010年くらいまでに生まれた世代)だ。
もう一つ重要なポイントは、アメリカは国民皆保険ではないことだ。このため保険料の負担を嫌って健康保険に入らない若者がたくさんいる。アメリカでは病気になるとお金がかかる、だから食生活を気にすることは、ジムに行って体を鍛えるのと同じように、病気にならないための予防でもあるのだ。
インスタ映えする「サラダボウル」が爆発的ヒット
そんな流れに乗って今度は、4~5年前からニューヨークをはじめとした都市部でサラダ専門店が大ブレイクする。

中でも急成長を遂げているのは、さまざまな具材たっぷりのサラダを目の前で作ってくれるファスト・カジュアル・サラダチェーン。パンやライスの代わりにキヌアやカリフラワーライス(カリフラワーを米粒のサイズにカットしたもの)などをベースに大量の野菜、さらに豆腐や、ヴィーガンではない人はサーモンなどのプロテインも乗せて、バランスのとれたサラダランチが手軽に食べられる「ボウル」を売り出している。
工夫を凝らしたドレッシングで味付けされた野菜や豆腐は、多くがローカル(=地元の農場)や自主農園から運ばれるオーガニックフードだ。アメリカの若者たちは野菜のおいしさに目覚めたと言っていいだろう。その中に豊富なヴィーガン・メニューが含まれていたことも見逃せない。
こうした「ボウル」はカラフルでインスタ映えするため、あっという間にソーシャルメディアに広がった。さらに業界トップのファストカジュアル・チェーン「スイートグリーン」は、ヒップホップのスーパースター、ケンドリック・ラマーとのコラボメニューなどを打ち出し、女性的なイメージが強かったサラダを男性にとっても魅力的でエキサイティングなものに変えた。
こうした店にはおしゃれなIT系や、アンダーアーマー、ルルレモンなどのスポーツアパレルに身を包んだジム帰りの健康的でセクシーな男女が立ち寄るイメージが定着。ニューヨークではヘルシーなランチとしてファストフードに取って代わっている。
全米で話題を呼んだ畜産ドキュメンタリー
野菜のイメージはアメリカで飛躍的にアップしている。しかしヴィーガンとして肉をやめようという発想は、どこから来たのだろうか?
筆者は、今年5月に開催されたヴィーガンとベジタリアン食品の見本市「NYベジタリアンフード・フェスティバル」を訪れ、14歳からヴィーガン生活を続けているという運営者のサラ・フィオリさんにこの疑問をぶつけてみた。
サラさんはこう答えてくれた。
「大きなインパクトを与えているのは、SNSでシェアされている家畜に関するビデオや、ネットフリックスなどで見られるドキュメンタリー映画だと思います。私たちが口にする肉がどれほどひどい状況で育てられているかが克明に描かれています。
『ファクトリーファーム』と呼ばれる窓もない施設で牛が育てられているなんて、それまで全く知らなかった。これまでアメリカ人が全く知らされていなかった真実が、初めて白日の下にさらされたのです」
サラさんの言うドキュメンタリーとは、「フード・インク」(2008)、「カウスピレイシー」(2014、レオナルド・ディカプリオがプロデューサーとして参加)「フォークス・オーバー・ナイブス」(2011)といった映画のことである。

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