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北朝鮮が中国を捨てトランプを選んだワケ

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北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が、中国を見限り、アメリカのトランプ米大統領との関係を優先しつつある。なにが起きているのだろうか。危機管理コンサルタントの丸谷元人氏は、「これまで北朝鮮を支援してきた『上海閥』が中国国内の権力闘争に敗れつつある。このため金正恩氏は中国を見限り、地下資源開発などの利権を狙うトランプ氏と手を組むことを決めたのだろう」という――。

かつては共に朝鮮戦争を戦ったという「血の絆」で結ばれていた中朝両国の関係が、ここに来て変調を見せている――2019年1月、北京を公式訪問した金正恩・朝鮮労働党委員長と、それを出迎えた習近平総書記。=2019年1月10日、北京(写真=Avalon/時事通信フォト)

故・金正男氏の中国人脈

建国の父・金日成につながる北朝鮮の「ロイヤルファミリー」は、習近平派対上海閥という中国国内の激しい権力闘争の中を懸命に泳いできた。

例えば現在の最高指導者である金正恩氏の実兄で、2017年に暗殺された金正男氏は生前、習近平政権の完全な監視下にある北京のほかに、旧ポルトガル領のマカオにも生活拠点を持ち、そこに妻子を住まわせていた。マカオは香港とともに長年上海閥が大きな勢力を維持していた地域であり、だからこそ正男氏とその妻子はそこで一応は安全に暮らすことができたのだろうとも言えるが、見方によっては習近平政権(北京)と上海閥(マカオ)の間をうまく泳ごうとしていたようにもとれる。上海閥としては、正男氏の妻子を事実上の人質として手元に置いていたのかもしれない。

しかし今やそのマカオや香港は、北部戦区に吸収された旧瀋陽軍区一帯とともに、上海閥の最後の砦となりつつある。例えば金正男氏と親交のあった江綿恒氏(江沢民氏の長男)は、正男氏が暗殺される直前には上海郊外において軟禁状態にあったとも言われていたし、正男氏殺害の直後に彼の長男の金漢率(キム・ハンソル)氏がマカオから忽然と姿を消し、台湾経由で米国に脱出したという事実は、マカオがもはや上海閥にとって安全な場所ではないことを意味するのかもしれない(この金漢率氏の脱出には、上海閥の持つ米国+台湾コネクションが使われたのであろう)。

こんな中国国内の権力闘争の行方にもっともあたふたしてきたのは、実は北朝鮮の権力者たちであったに違いない。例えば金正男氏にしても、一昔前であれば、米国エスタブリッシュメント(旧支配層)と関係の深い上海閥の傀儡であろうが、その次に権力を握った胡錦濤政権のそれとしてであろうが、いずれは本物の権力者として北朝鮮に戻りたいという下心も少しはあったはずだ。

実際、2012年には金正恩政権初期の実力者であった叔父の張成沢が、中国の胡錦濤国家主席に対し「金正男を北朝鮮の後継者にする」という政権転覆計画を秘密裏に示している。これも正男氏本人のある程度の了解なしにはあり得ないことだろう。

「金正男擁立計画」を金正恩に知らせた男

しかし、浦安のディズニーランドに行って日本当局に逮捕されたこともある、本来享楽的な金正男氏にしてみれば、2013年に国家権力を掌握した習近平氏によって上海閥の人々が次々と粛清され、同年暮れには自分を中国に売り込んでいた張成沢氏が金正恩氏によって処刑され、さらに自分の命まで狙われるようになったことで、元々そこまで熱意のなかった権力者への道を諦めたのかもしれない。

ちなみに、張成沢氏による胡錦濤国家主席への「金正男政権擁立」という密談を盗聴し、それを金正恩に通報したのは、胡錦濤政権で中国共産党中央政治局常務委員を務めた周永康氏(上海閥)であった。同氏は当時、習近平政権による粛清のターゲットとなっていたため、この情報を正恩氏に渡すことで北朝鮮支配のための便利なカードを習近平政権から奪うと同時に、「自分の背後には核を保有する北朝鮮(=旧瀋陽軍区)があるのだ」ということを誇示し、粛清から逃れようとしていた可能性がある。実際、習近平氏が国家主席に就任する直前の2013年2月、北朝鮮は核弾頭の小型化を目指した3度目の核実験を行っている。

この上海閥重鎮の密告は、張成沢氏と金正男氏にとって完全な裏切り行為であり、これによって張成沢氏は極めて残忍な方法で処刑された。一方で金正恩氏にとっても、この一件は「上海閥の連中は、いざという時に自分をも売るのではないか」という疑いを持たせたことであろう。

つまり、北朝鮮の権力者たちは、ここでも中国国内の権力闘争に、単なる政治カードとして利用されていたにすぎないのである。

中国を見切りトランプに走った金正恩

そんな金正恩氏にとって、崖っぷちに立たされた上海閥や、北部戦区の一部となった旧瀋陽軍区の力が、もはや以前ほど当てにならないことは明らかであった。かといって、上海閥の力を借りて習近平氏に喧嘩を売ってきた以上、いまさら習近平政権に許しを乞うこともできない。そこで正恩氏が頼ろうとしているのが、習近平政権と激しく対立する米トランプ政権である。

金正恩氏の持つ武器は二つある。一つは、みずからが開発している核ミサイルであり、もう一つが数百兆円相当にも上るという北朝鮮国内の手付かずの地下資源だ。そこで、一方では核やミサイルで脅威を煽りつつ、もう一方では地下資源を餌に外国投資を呼び寄せようとしている。

そんな正恩氏は、米国や国連による厳しい制裁によって窮地に陥った状況を打破するため、2018年5月にシンガポールで初の米朝首脳会談をやってのけた。そうしてアメリカとも対等に話ができることをアピールした上で、2019年1月に北京を訪問。習近平氏に直接、米国に対北朝鮮制裁緩和を働きかけてほしいと依頼したようだ。しかし、習近平氏は正恩氏に対して「非核化が先だ」と願いを一蹴したと言われている。

この冷たい態度は、習近平氏にとってみれば当然のことであった。2016年から17年初頭にかけては、不倶戴天のしぶとい仇敵・上海閥との暗闘がまだ予断を許さない時期だった。そうした状況のもとで習近平氏は、旧瀋陽軍区の後ろで荒ぶる金正恩氏を少しでもなだめるため、お近づきの印として金正男氏の暗殺を容認した可能性がある。

だが正恩氏はそれにまったく感謝しなかったばかりか、同じ2017年の夏には中国本土のほとんどを射程に収める長距離ミサイルを立て続けに発射(実際は北海道上空を飛行)。9月には核実験まで実施し、北京を十分に核攻撃可能だとする能力を改めて誇示した。つまり、習近平氏としては顔に大きく泥を塗られた格好で、2019年1月に金正恩氏が会いに来た際にも、そのときの屈辱は忘れていなかったはずだ。「一体どの面を下げて」とでも言いたかったのが本音であろう。

こうして習近平氏に突き放された金正恩氏は、単独でトランプ政権と交渉をする以外にないと感じたに違いない。正恩氏は北京から帰国してすぐ、トランプ政権との秘密交渉を開始。それから数週間後の2月5日、トランプ大統領は一般教書演説の場で突然、「2月27日と28日に金正恩氏と再び会談する」ことを発表したのであった。

金正恩氏にとっては願ったりかなったりの展開だったろうが、このことは同時に正恩氏自身が、上海閥や旧瀋陽軍区といったかつての中国人脈の大半と、反トランプで固まる米国エスタブリッシュメント層を、完全に敵に回した瞬間でもあったに違いない。

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