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チームの力を高めるにはリーダーシップと同様にフォロワーシップも重要 - 第97回山崎直子氏(後編)

宇宙開発事業は、国家の枠組みを超えた壮大なチームワークである。宇宙飛行士は現場の最前線にいるチームの一員として、協調性、適応性、情緒安定性、意志力などさまざまな能力が求められる。

山崎直子さんの話は、同じくチームワークが求められる介護の現場で働く人たちにも有用な答えが得られるのではないか?果たしてチームワークを円滑に進めるコツはあるのだろうか?

取材・文/ボブ内藤 撮影/公家勇人

チームワークを発揮するための3つの原則

みんなの介護 宇宙開発事業は国際的な巨大プロジェクトだけに、かかわる人も膨大だと思いますが、チームの力を最大限に発揮するには何が大切なのでしょう?

山崎 人の集まりを表すとき、グループとチームという言葉がありますよね。その違いは何かというと、同じ目的を共有しているかどうかなんです。

グループ・ディスカッションと言うときは、立場や価値観の違う人たちが議論を通じて合意することが目的になりますが、野球やサッカーなどのチームメイトは、「試合に勝つ」という共通の目的を持っています。

仕事の現場に集まっている人たちは、どちらかというとチームのほうに近いのではないでしょうか。グループをまとめてチームに仕上げていく。そういうチームビルディングの過程がどの職場にもあると思います。

宇宙開発事業でも同じことで、チームワークを充分に発揮するには、次の3つの原則が大切だと考えていました。

ひとつ目は、チーム全体が目的を共有する。

ふたつ目は、個々のメンバーが自分の役割を把握して、責任を持ってそれを全うする。

みっつ目は、変化する状況に応じて助け合う。

この3つの原則を忘れないよう、いつも口を酸っぱくして確認し合うんです。

チーム間での「対話」も非常に大切

みんなの介護 この3つの原則のどれかが欠けてしまうと、チームの力は途端に弱まってしまう。そういうことですか?

山崎 その通りです。宇宙開発事業は本当にたくさんの人がかかわっていて、技術をサポートするスタッフのチームもあれば、フライトディレクターを先頭にする地上管制官のチームもあります。私たち宇宙飛行士のチームは、フライトディレクターの指示を受けてミッションを行う現場作業員に過ぎません。

ただ、ミッションを行っている最中に地上との通信が途絶えたり、船内で火災や空気もれなどの緊急事態が起こったとき、対処法を判断する権限は宇宙飛行士をまとめる船長に移るんです。

このように、いくつものチームが異なる層に分かれていると、先ほど述べた3つの原則が崩れることがあるんですね。

みんなの介護 現場から見ると、「地上は現場のことがわかっていない」と文句が出るし、地上では「現場が言うことを聞かない」と文句が出るというわけですね。宇宙開発事業に限らず、どんな職場でも同じような会話が交わされているような気がします。

山崎 私たちのミッションでは、大きなトラブルはありませんでしたが、旧ソ連時代の宇宙ステーション・ミールでは、滞在30日を過ぎて宇宙飛行士たちがお互いに敵意を見せ始めて口論になったり、常に監視されているストレスから地上との交信スイッチを切ってしまった宇宙飛行士がいたそうです。

そこで、そういうことが起こらないようにするための習慣として、ミッションの合間で船長と地上のフライトディレクターが仕事の合間にインターネット回線の電話で会話をするということが行われていました。

ミッションを遂行しているときは無線で交信しますので、世界中の人が聞ける、公の交信ということになりますが、このときはインターネットを通じての会話なので1対1のプライベートに会話になるわけです。

そして、「実はあのとき、こういう状況だったんだ」とか、「あのときは急いでいたのでぶっきらぼうだったかもしれない。ごめんね」と、腹を割ってお互いの事情を伝え合うんです。

チームとチームの間に距離があるとき、このような「対話」の機会はとても重要です。企業ならば、本社と支社の関係ということになるでしょうし、介護の現場なら、施設と行政などの関係について、同じことが言えるのではないでしょうか。

NASAも活用するチーム力養成プログラム「NOLS(ノルズ)」

みんなの介護 宇宙開発事業でも、チームワークが乱れることがあるという話は意外でした。地上で行う訓練の中で、そうしたチーム力を鍛えるものはありましたか?

山崎 NASAの訓練では、チーム力養成を目的として開発された「ナショナル・アウトドア・リーダーシップスクール(NOLS・ノルズ)」というプログラムを活用しています。

山間部や海、湖などのアウトドアを、外部との通信は一切できない中、チームを組んで人力のみで移動するというもの。私の場合、ワイオミング州の山間部を10日間で約120㎞を移動するというものでした。

このプログラムの面白い点は、チームを率いるリーダーを毎日、交替させるという決まりがあることです。10人のメンバーの中に、引っ込み思案の人や、コミュニケーションが苦手な人がいても、10日間のうち、必ず1日はリーダーになる日がまわってくるのです。

みんなの介護 それは大変そうです。リーダーには、どんな役目があるのですか?

山崎 その日の行程でどのルートを通るのか、休憩を何回入れるのか、テントをどこに設営するかなど、さまざまな意思決定をする舵取り役です。

自分本位で強引に決めてしまうとチームのまとまりはなくなりますから、みんなの意見を聞きながら納得した上で行動する必要があります。

実際、リーダーをやってみると、チームを動かしているのはリーダーだけじゃなくて、それを支えるフォロワーの存在が大きいのだなということを感じました。

みんなの介護 チームをまとめるのはリーダーシップだけでなく、フォロワーシップが重要ということですか。

山崎 その通りです。リーダーがフォロワーたちの立場や考えを知ると同時に、フォロワーもリーダーの立場や考えを知ることがチームの結束を高めることにつながります。

もし、リーダーとフォロアーとの間に齟齬が生じてしまうと、チームの力は弱まってしまうでしょう。

ちなみに、この「NOLS」のプログラムは、NASAだけでなく、名前を聞けば誰もが知っているようなIT企業や大手金融機関などのリーダー研修でも行われているそうですよ。

宇宙は今後、多くの人にとって身近な存在になる

みんなの介護 2011年にJAXAを退職した山崎さんは現在、内閣府宇宙政策委員会や一般社団法人スペースポートジャパン代表理事をつとめています。どんなミッションに挑戦しているのでしょうか?

山崎 2019年の6月7日、NASAが国際宇宙ステーション(ISS)の商業化計画について発表をしましたよね。

それによると2020年以降、ISSで民間宇宙飛行士の滞在ミッションを年2回、1回あたり30日程度の宇宙滞在を実施すると言います。

これまで、特に有人宇宙活動は国家ミッションとして行われてきましたが、いよいよ民間利用が本格的に始まったことをこの発表は示しています。

もう既に、民間企業が衛星を打ち上げたり、そのデータを活用する時代になっていますが、宇宙旅行も現実化する日が刻々と近づいています。今の私のミッションは、そうした動きをサポートすること。それから、できるだけ多くの人に宇宙を身近に感じてもらえるようにしていくことです。

みんなの介護 もし、生きている間に民間人として宇宙に行ける機会があるとするなら、もう1度行ってみたいと思いますか?

山崎 もちろんです。

宇宙には重力がないので、地上では歩けない人でもハンデにならないんです。ふわふわと浮きながら、健常者と混じって船内活動を行うことができます。そんな宇宙の可能性が多くの人に開かれるといいなと思います。

みんなの介護 そんな山崎さんのミッションは、いつまで続くのでしょう?

山崎 私が尊敬する宇宙飛行士の中に、NASAのシャノン・ルシッドという女性がいます。40代から50代半ばにかけて5回のフライトに参加して、188日間という当時の女性滞在時間記録を打ちたてただけでなく、その後も地上から交信をする担当や宇宙飛行士室の管理官として活躍しました。

実際にお会いすると、日本で言う「肝っ玉母さん」と呼ぶにふさわしいようなバイタリティと気っぷの良さにあふれていて、多くの人たちの尊敬を集めていました。

私もルシッドさんを見習って、できるだけ長く宇宙の仕事にかかわっていきたいですね。

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