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宇宙飛行士になるという目標があったからこそ、過酷な訓練にも耐えることができた - 第97回山崎直子氏(中編)

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1999年2月に古川聡氏、星出彰彦氏とともに宇宙飛行士候補に選ばれた山崎直子氏。中編では、その後の訓練、および2003年のコロンビア号の空中分解事故にまつわるさまざまな紆余曲折を経て、2010年4月に国際宇宙ステーション(ISS)の組立補給ミッションに参加するまでの足かけ11年間について、話を聞いた。

取材・文/ボブ内藤 撮影/公家勇人

マイナス20℃の極寒で行われた陸上サバイバル訓練

みんなの介護 宇宙飛行士候補になって、約2年の基礎訓練を受けると正式に宇宙飛行士に認定されるわけですが、すぐに宇宙に行けるかというと、そうでもないんですってね?

山崎 その通りです。そもそも宇宙開発事業は、国家がかかわる巨大プロジェクトで、複数の国の政治、経済、社会事情などによっていろいろな影響を受けます。ですから、「宇宙に行けるのは何年後」とあらかじめ決められているわけではないのです。

また、基礎訓練のあとにも、さまざまな訓練があります。スタッフとして地上業務や同僚のミッションのサポートをしながら行うアドバンス訓練をはじめ、ミッションに任命された段階での実地訓練など。

それから、私と古川さん、星出さんの3人は「ISS搭乗宇宙飛行士」として選ばれましたが、認定を受けた時点でISSに行く乗り物がアメリカのスペースシャトルか、ロシアのソユーズかは決定していませんでした。

そのため、ISS搭乗のための訓練だけでなく、スペースシャトルとソユーズという、合わせて3つの認定を受けるための訓練もしなければなりませんでした。

みんなの介護 どの訓練も過去に経験したことのないようなものだったと思いますが、特に印象に残っている訓練はありますか?

山崎 ひとつ挙げるとすれば、ロシアで行った陸上サバイバル訓練でしょうか。

ソユーズは、着陸施設のあるスペースシャトルと違い、地球に帰還するときはパラシュートのついた3人乗りのカプセルに乗って地上に降下します。

そのとき、何らかのアクシデントがあって海上に落下したり、雪原に落下したりする可能性があるので、そのような最悪の事態を想定して、海上と陸上でサバイバル訓練をするんです。

陸上のサバイバル訓練は、モスクワからトラックで数時間、北上したところにある極寒の原野で行われました。

パラシュートを再利用して設営したテントの中で、カプセルの中に搭載されているサバイバルキット──その中には樹を切るための斧や、猛獣を撃退するためのライフルなどもありました──を駆使しながら3人のクルーが3日間、救援隊が来るのを待つ、という設定です。

気温はマイナス20℃でしたが、風があるので体感温度はそれ以下でしたね。防寒着を着て、木やパラシュートでテントは作るものの、横になると雪の冷たさが体に染みて初日は一睡もできず…。

2日目はなんとか眠れたものの、目が覚めたときには寒さで手足がしびれて感覚がなく、しばらくの間動かすことができませんでした。

みんなの介護 プロの探検家や登山家でもない山崎さんが、よくそんな過酷な訓練に耐えられましたね。

山崎 この訓練は宇宙飛行士になるために必要な訓練なんだと、目標を持っていたからこそ、耐えられたのかもしれません。

それから、クルーは私と古川さん、そしてもう1人がロシア人の方だったんですが、焚き火を囲みながらロシア語を教わったり、適度に息抜きをして、過酷な状況の中に楽しみを見つけることができたのも良かったのかもしれません。

コロンビア号の空中分解事故が運命を大きく変えた

みんなの介護 2003年2月1日、スペースシャトル・コロンビア号の空中分解事故が起こります。宇宙からの任務を終え、地球に帰還するため大気圏に再突入したコロンビア号が空中分解し、7名の搭乗員全員が死亡する大惨事となりました。この悲劇は、山崎さんにどんな影響を与えましたか?

山崎 中学3年生のときにテレビで観たスペースシャトル・チャレンジャー号の事故は、私を宇宙飛行士になるという夢に結びつけてくれましたが、このコロンビア号の事故はスペースシャトルやISSの建設計画が延期されるきっかけとなり、宇宙から私を遠ざけてしまう結果を招きました。

何より、事故で亡くなった搭乗員たちとは訓練でも会ったことがあり、人となりを知っている仲間だっただけに悲しさも大きかった。

みんなの介護 悲しみを乗り越えるには、時間がかかったでしょうね…。

山崎 このコロンビア号の事故で悲しみに暮れる遺族に接し、自分が目指していることが、事故が起きれば家族を悲しませることになるという現実に心が折れそうになりました。

ただ、スペースシャトルの運航が中断した代わりにロシアのソユーズに乗るための訓練が始まったので、意識をそちらに向け、できることに集中するようにしました。

もっとも、私生活では2歳にもならない娘を夫に託して単身でのロシア赴任でしたから、家族に迷惑をかけて申し訳ないという気持ちを抱えながらでしたけれども。

スペースシャトルの飛行再開後も、「今度は私の番かも」と期待して、そうではないことが続き、長丁場の中で心が折れそうになることもありました。しかし、初心の目的意識を要所要所で思い出しましたし、また日々の訓練自体は大変だけれども楽しいと思えました。日々の小さなことを楽しむことが、モチベーションに繋がるのだと思います。

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