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我が国の産業界は総花主義、平均点主義、自前主義から脱するべき - 第95回坂根正弘氏(後編)

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我が国の少子高齢化は加速している。厚生労働省が先頃発表した人口動態統計によれば、2018年の出生数は91万8,397人と過去最低を更新。前年に比べて2万7,668人も減少している。その一方で、多くの企業経営者の頭を悩ませているのが、恒常的な人手不足の問題。生産年齢人口が急速に縮小しつつある今、日本の産業界が生き残っていくには何が必要なのか。経営のプロである坂根氏に、我が国が目指すべき道についての助言をいただいた。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

日本の産業界は、外国人労働者に頼る前にもっとやるべきことがある

みんなの介護 わが国では少子高齢化が急速に進展していて、15歳以上65歳未満の生産年齢人口も急激に減少しています。国内では介護の現場を含め、あらゆる業種業態で人手不足の状態。そんな中、2019年4月から入管法が改正され、外国人労働者をより受け入れやすくなりました。今回の入管法改正を、事実上の移民受け入れだと見る人もいます。坂根さんは日本の産業界が抱える人手不足の問題をどのように見ていますか?

坂根 「人手不足=外国人材活用」の図式で乗り切ろうとすると、この国の抱える根本問題への着手がまた遅れ、ますます国際競争力を失っていくでしょう。人手不足の本当の原因を政府も国民もしっかり把握すべきです。

みんなの介護 人手不足を解消するために、私たちは何をすべきでしょうか?

坂根 まず、この国の産業構造や競争状態が欧米に比べて大きく違う点があります。おそらく、この根本原因は雇用に対する考え方にあると考えています。

学校を卒業したら、一斉に就職して、一度入社した会社にできる限り長く勤める。会社側も雇用保障が守るべき最も大事なことだと考えてきました。しかし、先の中編で述べたように、どんな会社や事業にも景気の波があるのは当然です。

ですから、日本以外の多くの国は、あの中国でさえ、変動コストに相当する部門で働く人たちの雇用については、ある公平なルール――例えば一番最近入社した人からレイオフするとか、年齢差別をしてはいけないなど――が定められています。その代わり、失業した人への対応は、当たり前の如く国全体の問題として議論されます。

ところが、日本では特に大企業は雇用に手を付けにくいこともあって、モノづくりの生産において、外注、下請けに出せば自分のところが身軽になるとか、余剰人員の活用といった理由で、かつてのコマツのように事業多角化や業務の子会社化をしてきました。

みんなの介護 確かに、日本の解雇規制は欧米に比べてとても厳しいと言われますね。

坂根 そして近年は非正規雇用といった日本独特の仕組みが一般化されつつあります。こういった現状は業界全体、国全体では固定費を積み上げて大変な非効率につながっているということです。

中編で述べたように私は2001年に「一度限りの大手術」と約束して国内の従業員全員に希望退職を募ったわけですが、それはこの国では米国式レイオフが出来ないこともありましたが、何度も小刻みなリストラを繰り返して我々の最も大きな強みである「チームワーク力」「現場力」を失いたくなかったからです。

私が社長職に就いていた頃は、非正規という雇用形態は一般的ではありませんでした。経営者として2001年当時の雇用に手をつける苦しみを考えると、変動費化の大きな部分を背負っていただいている協力企業(※編集部注:コマツではあえて「下請け」ではなく「協力企業」と呼んでいる)や非正規の方々には、できる限り手厚くするのは当たり前だと考えます。

大企業は外注や下請け、そして非正規といった人たちにコストのしわ寄せをする前に、自分自身の事業の選択と集中を徹底したり間接業務の自前主義から脱却することで、まず収益改善をすべきです。この国の生産性向上の議論を、決して個人の働き方問題に矮小化すべきではありません。

IOT化が市場の競争ルールそのものを変えていく

みんなの介護 “ダントツ経営”を実現させた坂根さんだからこそのご提言でしたね。では、国全体の話をもう少し具体的に説明してもらえますか?

坂根 ご承知のように欧米では多くの業界でとっくに業界再編が終わっているのに比べ、日本では未だに多くのプレーヤーが競争しています。 かつては企業間が切磋琢磨することで産業が成長してきましたが、今やIOT社会へ対応するため、一社ではとても解決できない同じ大きな課題に皆でチャレンジしなくてはなりません。それは自動車業界も我々の建設機械業界も同じです。

我々の顧客の建設業界を例としてお話しましょう。

国全体の建設投資額を100とした時、建設業全体の総売上を出すと300になります。ちなみに、米国は100に対して150以下です。

この国ではいかに多くの企業がかかわっているのかがわかりますね。こういった中で人手不足問題が起きているのです。

多くのプレーヤーがそれぞれ多重下請け構造で成り立っていると、おのずと建設機械の販売価格も安くなります。中編の中で2001年当時の変動コストを紹介し、日本は米国より3割、中国と比べても1割安いと言いましたが、販売価格は今でもそれ以上に安いのです。

みんなの介護 それでは、前編で紹介して頂いたコマツが取り組んでいる「コムトラックス」や「スマートコンストラクション」といった新しいビジネスモデルは、こういった国全体の課題解決にどうつながるのでしょうか?

坂根 まさに、そこがポイントです。特にスマートコンストラクションは土木現場で現在行われている分業――「仕事を請け負う人」「測量する人」「施工設計する人」「土木作業する人」「土砂を運ぶ人」、もっと言えば「料金を決裁する人」などがIOTで進化すると、すべて一気通貫でつながることになります。

また、各現場で出していた知恵がすぐにほかの現場に適用できるようになり、ビッグデータの活用競争が起きます。スマートコンストラクションは2015年に開始して以降、これまでに日本国内だけでも合計8,000ヵ所の現場に拡大し、日々ビッグデータが蓄積されています。

これまでのハード(商品)のみの競争では、皆が同じ土俵で良いものを安く作るべく競争していましたが、これからは競争ルールそのものが変わってきます。こういった省人化、生産性向上で労働力を生み出すことは国にとってとても大事なことです。

みんなの介護 IOT化は省人化だけではなく、競争のあり方にも変化をもたらすわけですね。ところで、坂根さんが中編の中で間接部門の固定費の話をされましたが、この点をもう少し詳しく教えてくれますか?

坂根 私が経験した話をします。1990年から4年間、米国の合弁会社の社長をしたときのことです。

この合弁会社の資本比率はコマツとドレッサー社で50対50ですが、市場における事業規模、業界の地位は圧倒的にコマツの方が上だったので、私たちは社内の仕組みをコマツのものに合わせようとしました。

しかし、私がすぐコマツのやり方はダメだと判断したのが、会計、経理の仕組みです。コマツは当時、自社でソフトウェア会社を持ち、自前の非常に精緻なソフトウェアを持っていましたが、ドレッサー社は間接部門のITの仕組みを基本的に既製品に合わせていました。

考えてみれば、どの会社も決算に必要なデータは同じです。そこで私がわかったことは「ニワトリと卵」になりますが、米国で労働の流動性が高いのは、ある会社で経理をやっていた人が転職しても、すぐに仕事に慣れることができるからなのです。

日本のように自前の仕組みにこだわっていると、労働市場の流動化も困難になります。

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