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少子高齢化が深刻な日本こそ、世界に先んじてICT化に取り組むべき - 第96回坂根正弘氏(前編)

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コマツは世界第2位の売上規模を誇る建設機械メーカー。全世界で揺るぎない信頼を獲得している、日本が世界に誇るグローバル企業でもある。そのコマツで2001年から2007年まで代表取締役社長兼CEOの重責を担った坂根正弘氏は、“ダントツ経営”を旗印に同社の構造改革を断行、創業以来初の営業赤字に陥っていた経営を立て直し、鮮やかなV字回復を成し遂げたことで知られる。そんな日本経済界の重鎮は、介護現場の今をどのように見ているのか。かつてトップリーダーとしてコマツのICT化を推進した坂根氏に、これから介護現場がめざすべきICT化について話を聞いた。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

コマツがICT化を進めるきっかけになったのは、お客様からのクレーム対応だった

みんなの介護 国は介護現場の労働環境を改善するため、見守りシステムの導入など、ICT化を推進しようとしています。しかし、高い導入コストや「機械は冷たい」といったイメージが災いして、実際には思うように進んでいません。一方、世界第2位の建設機械メーカーであるコマツは、坂根顧問が社長だった時代にいち早くICT化に舵を切り、業績を大きく伸ばしています。コマツICT化の原動力となった「コムトラックス」とは、どのようなシステムなんでしょうか?

坂根 コムトラックスは、一言でいえば、コマツが製造したすべての建設機械を「見える化」するシステムですね。GPS(全地球測位システム)とインターネットの通信技術を応用して、コマツ製の建機が地球上のどこにいても、その現在位置と稼働状況、燃料やオイルの残量などを、建機の所有者にリアルタイムに伝えるシステムです。

もちろん、メーカーであるコマツも、そのすべての情報を日本に居ながらにしてリアルタイムに把握しています。

みんなの介護 コムトラックスは、建設機械業界ではきわめて革新的な取り組みですね。そもそも、コムトラックスはどのような経緯で始まったのでしょうか?

坂根 そもそもの話をすると、私が入社した当時にまで遡るのですが…。

私がコマツに入社したのは1963年のことですが、最初に配属されたのはブルドーザーの設計部門でした。ところが私は、工学部出身ながら製図を描くのが大嫌い。今と違って図面を鉛筆で描く時代です。そこで自ら志願して、主にお客様のクレーム対応に当たっていました。

当時のコマツの大型ブルドーザーはまだ発展途上の製品であり、そもそもが苛酷な現場で使用されることが多いものですから、「機械が動かなくなった」など、さまざまなクレーム電話がお客様から寄せられていたのです。そこで私は、クレーム電話を受ける度に、お客様のもとへ出向いていって対応に当たりました。

当時は、図面書きから逃げたい一心で始めたクレーム処理ですが、おかげで数々の現場を自分の目で見て、機械の細かな部品にまで精通するようになっただけでなく、多くのお客様との間で信頼関係を築くことができました。

後に私は、品質管理やアフターサービス部門の責任者として会社に任命されることになりますが、その下地はこのときのクレーム対応によって培われたと言えます。

みんなの介護 クレームに対応した経験から顧客サービスの重要性に気づき、それがコムトラックスの開発につながったということでしょうか?

坂根 お客様からのクレーム電話を受けて現場に向かうとき、何がいちばん大変だったかというと、お客様の機械が今どこの現場で稼働しているのか、その所在地を正確につかむこと。

当時はもちろんグーグルマップなどありませんから、所番地もよくわからない山奥の工事現場までルートを調べて辿り着かねばなりませんから、本当に大変でしたね。また、いざ辿り着いても、そこから機械の故障原因を調べて必要な部品を手当てしていくわけです。

ですから、その当時から、「お客様の機械が今どこにあって、エンジンの状態が今どうなっているのか、遠くからモニターできれば便利なのに…」と、ずっと思っていたわけです。

「コムトラックス」のヒントになったのは、当時大流行していた「たまごっち」だった

みんなの介護 顧客が購入した機械をきちんとメンテナンスするためには、「その機械が今どういう状態にあるか?」を知ることが何より重要なんですね。

坂根 ひとつの転機になったのは、1990年代に入って、盗んだ建設機械でATMごと破壊する窃盗事件が全国で多発したことです。多くの工事現場では、工期が終了するまで建設機械は現場に置きっ放しであり、現場が無人になる夜間は常に盗まれるリスクがありました。

そこで、万が一機械が盗まれても、「機械の所在地がパソコン画面で確認できるようにならないか」とか、「遠隔操作でエンジンにロックがかけられるようにできないか」という要望が現場から出されるようになってきました。

みんなの介護 坂根さんのインタビュー記事を読むと、90年代に大流行した「たまごっち」の影響もあったとか。

坂根 そうなんです。今の若い人はご存じないと思いますが、1990年代後半、液晶画面上でペットを育てる、卵形の小さなゲーム機「たまごっち」が大流行しました。そのとき、福井県の販売会社の若社長が、「コマツの建機も、燃料が少なくなったら、たまごっちみたいに自分で『お腹が空いたよ』と訴えるようになれば便利ですね」と言い出したんです。

それに同調したのが、福島で建設機械のレンタル業を営んでいた、とある会社の若社長です。その会社はレンタル用にコマツの機械を約1,000台所有していましたが、「貸出した機械の所在場所はもちろん、燃料が毎朝どの位残っているかオフィスにいてわかると、ビジネスがものすごく便利になりますよ」と彼が言っていました。こういった話を私のある部下がコムトラックスの元になる提案書として出してきました。

そこで、当時経営企画室長だった私は、盗難防止対策も兼ね、それぞれの機械の現在位置や燃料残量などの情報を一元管理できるシステムをつくるよう、開発部隊に要望しました。それが1997年頃のことです。

みんなの介護 たまごっちの発売が1996年ですから、まさにたまごっちのブームとリンクしていたんですね。

坂根 ところが、そういったシステムの必要性が理解しにくかったせいか、開発部隊はなかなか動こうとしませんでした。代わりに動いたのが福島のレンタル会社の若社長です。彼は、システムがまだ開発されていないにもかかわらず、システムの端末を1,000台分、早々と発注してくれました。そうなれば、開発部隊も動かざるを得ません。

こうして1999年、業界初の建設機械追跡システムである「コムトラックス」はついに実用化されました。ちなみに「コムトラックス」は、「コマツ」と「トラッキング(追跡)」を組み合わせた造語です。

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