- 2019年08月10日 14:06
やるべきことをやれば日本はまだ、ものづくりで戦える。コマツの取組みは日本の縮図 - 第96回坂根正弘氏(中編)
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石川県内の社員の子どもは東京の3.4倍。これからもコマツは北陸回帰で地域に貢献していく
みんなの介護 コマツは現在、国内回帰の動きを加速させていると同時に、創業の地である北陸回帰も進めていますね。
坂根 はい。金沢港に新たな工場を建設し、本社機能の一部を石川県小松市に移転させるなど、北陸地区で従業員数を増やしています。
コマツが北陸に回帰する理由はいくつかあります。まず、生活コストの安い地域で雇用を増やしたほうが、将来にわたって競争力を維持しやすいこと。
また、金沢港の水深が深くなり、輸出拠点として利用しやすくなったこと。
そして、北陸地区で従業員を増やすことが、将来的に少子化対策につながると考えられること。
みんなの介護 少子化対策につながるというのは、どういうことでしょうか?
坂根 これについては、コマツの女性社員を対象にした調査がベースになっています。
コマツに定期採用で入社した30歳以上の女性社員を、東京本社と石川県内の工場で比較してみました。すると、結婚率は東京が50%、石川が80%、結婚している女性の出生率は東京が0.9人、石川が1.9人でした。
結婚率と出生率を掛け合わせて、女性社員一人当たりの子どもの数を見ると、石川のほうが子どもの数は3.4倍も多いことになります。
みんなの介護 東京よりも地方のほうが、女性社員は子どもを産みやすいし、子育てもしやすいということですね。
坂根 そうだと思います。特に石川の場合、女性管理職に限っていえば、子どもの数は2.6人になります。女性にとっては、地元で暮らすほうが両親(子どもにとっては祖父母)の協力を得られやすいため、自然と子どもの数も増えるようです。
みんなの介護 坂根さんは以前から、行きすぎた東京一極集中こそが少子化の元凶になっていると主張されていますね。むしろ地方の活性化こそが、これからの日本の目指すべき道である、と。
坂根 事実、そのとおりだと思います。東京はヒト・モノ・カネを地方から集めるのではなく、国際都市として、世界から集めるべきです。
ただ、現実は特に若い人の東京への集中はまったく止まっていません。おそらく、いくら生活コストが高いといっても仕事を見つけるチャンスも多いし、平均して給与レベルも高く、学習塾のような子どもに教育を受けさせる機会も多いですから、一度は都会生活をしたいと思うのでしょう。
小松市に整備した研修センターのある複合施設が地元の高齢者と小学生を元気にしていく
みんなの介護 コマツが進めている北陸回帰には、「少子化対策」という大きなテーマも隠れていたんですね。
坂根 石川県全体の調査で、もうひとつ興味深い事実があります。それは、石川県の女性就業率はスウェーデン並みに高いのですが、50歳を過ぎた女性社員の離職率が急に跳ね上がること。
みんなの介護 それはどういう理由からなのでしょうか。
坂根 あくまでも私の推測ですが、離職する理由は、親の介護のためではないかと思います。親が元気でいる間は、子育てに散々協力してもらったわけですから、親が要介護になってしまった場合、それまでの恩返しとして、親の面倒を見ることになるからではないでしょうか。そういう意味では、石川県では保育所よりも介護施設のほうが必要性は高いのかもしれません。
ともあれ、今コマツがやるべきことは、生産工場投資を日本回帰させているこの機会に、出来る限り仕事を地方の工場所在地に移し、競争力を維持すること。そして、その結果として日本の少子高齢化への対策にもつなげることだと思っています。
みんなの介護 本社機能をすべて石川に移すことは検討されなかったのですか?
坂根 中央集権のこの国で、行政・経済・マスコミ、そして交通インフラの機能が東京に集中している以上、本社機能を東京から石川に移すのは現実的ではありません。
ただし、必ずしも東京に置いておく必要のない部門もあります。そこでコマツでは、本社の部品調達部門を石川に移しました。
また、世界中のグループ企業の人達の研修センターを中核とする複合施設を小松市に整備しました。それが創立90周年の2011年に開設した「こまつの杜」です。この決断は小松空港が成田、羽田はもちろん、韓国のインチョン空港にも繋がっていて、利便性が良いことも大きい要素でしたが、今では毎年3万人が国内外から集まるようになり、それなりの地元への経済波及効果を生んでいます。
みんなの介護 研修センターでは、地元の小学生も受け入れていると伺いました。
坂根 研修センター、正しくは「コマツウェイ総合研修センター」には、一般開放エリアとして「わくわくコマツ館」も併設しています。その、「わくわくコマツ館」では小松市内の小学生を招いて、理科教室や里山自然教室などのイベントを定期的に開催しているんです。
講師を務めるのは、地元工場のOB・OGたち。昼食代相当の手当ては出していますが、年間のべ600〜700人が講師役を買って出てくれています。
彼らに話を聞くと、理科教室や里山自然教室を手伝うようになって、病院に行く回数がめっきり少なくなったとか。普段とは違う部位の脳を使うと、高齢者も元気になるみたいですね。「わくわくコマツ館」のイベントがOB・OGの生きがいや健康増進に役立っているとすれば、こんなに嬉しいことはありません。
ちなみに、理科教室と里山自然教室の試みは2011年から始めていて、現在では小松市内にある小学校の社会科見学(小学5年生)にも組み込まれています。



