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"超難関"宇宙飛行士になれる人たちが持つ資質

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初めての海外体験が1年間のアメリカ留学

【三宅】大学は東京大学の工学部航空学科に進まれましたね。

【山崎】はい。チャレンジャー号の事故がきっかけで「宇宙に行きたい」という思いと「宇宙開発に携わりたい」という思いが両方あったので、それなら宇宙工学を学ぶのがいいのかなと単純に考えて行きました。実際には宇宙開発における宇宙工学はごく一部の領域にすぎず、NASAでもJAXAでも、文系を含めたさまざまな分野の専門家が一緒に働いていることをあとで知るのですが。

【三宅】大学院の時にアメリカのメリーランドに1年間留学されていますね。実際にアメリカに行くとなると、いろいろ大変な思いをされたのではないでしょうか。

【山崎】実は海外に行ったこと自体がそのとき初めてで、とにかく勝手がわからなかったのです。たとえば渡米してすぐに部屋の電気とガスの契約をしようと思ったのですが、電話をかけても「わからない」と切られてしまい、結局最初の2日間は真っ暗な部屋でスーツケースの上で寝て、段ボールの上でご飯を食べるような状態で過ごしました。

【三宅】それは不安なスタートですね。

【山崎】本当に「この先どうなるんだろう」ですよ。だから最初のころは大学の事務職員の方にかなり助けていただきながら身の回りを少しずつ整えていって、その後は同じ境遇にある留学生とも少しずつ友達になっていって、なんとか慣れていきました。

「文字を追って、音を聴いて、自分でも言う」を繰り返す

【三宅】当時はどのように英語を勉強されましたか?

【山崎】ひたすら音読です。現地の新聞や本の一節をネーティブの方に読み上げてもらって、それをテープレコーダーに録音して、原稿と音とセットになっているものをひたすらシャドーイングしました。文字を追いつつ、音を聴きつつ、自分でも言う。

【三宅】それはすばらしいやり方ですね。私はそれを毎日行っています。

【山崎】英語学習のプロにお墨付きをいただいてうれしいです(笑)。

【三宅】授業で使われる英語は徐々についていけるようになった感じですか?

【山崎】授業の専門用語が中心なので聞き取りは最初からなんとかなったのです。でも日常会話や「1+1=2」を英語でどう言うのかといった基本的なことがわからないのです。それはその都度覚えていくしかなくて。

【三宅】発音はどうでした?

【山崎】まったくダメでした。アイスクリーム屋さんにいってバニラを注文したらバナナを渡されるとか(笑)。

【三宅】私も勘定をしようと思ってビル(bill)と言ったらビール(beer)が出てきたことがあります(笑)。誰でも最初はそういった経験がありますよね。

宇宙飛行士の山崎直子氏(左)とイーオン社長の三宅義和氏(右)
宇宙飛行士の山崎直子氏(左)とイーオン社長の三宅義和氏(右) - 撮影=原 貴彦

閉鎖空間で行われたストレスチェック

【三宅】山崎さんはNASDA(現JAXA)に就職されたのち、入社3年目で宇宙飛行士候補者選抜試験に合格されています。860人以上の中から2、3人しか選ばれない大変な試験です。やはりメンタルの強さと頭のよさと体力で勝ち抜かれるものなのですか。

【山崎】受験した側は「あなたは何点だったよ」と教えてくれませんので明確にはわからないのですが、やはり総合的に判断されていると思います。ただ、私も1回試験の書類検査に落ちていますので、一度落ちたらもうダメというわけでもないのです。

【三宅】そうでしたか。いろいろ検査があったと思うのですが、閉鎖環境適応訓練設備での検査、これはどのようなものですか。

【山崎】私が試験を受けたときに新たに導入されたものですね。国際宇宙ステーションに行くと、長い人で半年くらい滞在する人もいて、閉塞感のある空間で共同生活を送るには心理面での適性を考慮しないといけません。検査では宇宙ステーションを模した環境に1週間、閉じ込められます。もちろん外には出られず、窓もなし、携帯電話やテレビもありません。しかも監視カメラがついていて、常に見られている。会話の音もマイクで拾われています。

【三宅】想像するだけでストレスがたまりそうです。

【山崎】それが狙いですから。その環境のなかで司令室から「天の声」がたまに降ってきて「じゃあ、これからワープロを打ちなさい」とか「4人でペアになって、レゴブロックでロボットを作りなさい」などいろいろお題を出されるんです。ディベートも行いました。「インターネットを青少年が使うことに賛成ですか、反対ですか」ということを賛成組と反対組に分かれて議論をさせたり。

「セミのふ化」を明け方までずっと見ていた

【三宅】もはや宇宙とは関係ない。

三宅 義和『対談(3)!英語は世界を広げる』(プレジデント社)

【山崎】関係ないですが、議論させると感情が表に出やすいですからね。あと、電車の時刻表を与えられて「東北地方の1週間の旅を、特定の予算の中で組み立てなさい」というようなものがあったり。そういう作業を1週間連続して行うなかでストレス耐性などがチェックされていきます。

後でよく言われたのがコンシステンシー(Consistency)の重要性です。つまり一貫性ですね。ストレスがかかった状況の中ではイライラしたり、焦ったり、人間なのでいろいろ感情は揺れ動くわけですけれども、そういうときにいかに感情をコントロールできるか、ぶれないかといったことが問われます。

【三宅】お話を伺っていると性格も大事かなと思ったのですが、環境に左右されない性格はおありになったのですか。

【山崎】どうでしょう。子どもの時はのんびり屋で、セミがふ化しそうになるのを、毛布を被って明け方までずっと見ているような性格でした。

【三宅】なるほど。それが有利に働いたのかもしれませんね(笑)。

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山崎 直子(やまざき・なおこ)
宇宙飛行士
1970年、千葉県生まれ。東京大学工学部卒。96年同大学航空宇宙工学専攻修士博士課程修了。NASDA(現JAXA)に勤務。日本人2人目の女性宇宙飛行士。99年、宇宙飛行士候補に選ばれ訓練開始。2010年4月、スペースシャトル「ディスカバリー」に搭乗、国際宇宙ステーション組み立て補給ミッションに従事。著書に『宇宙飛行士になる勉強法』『夢をつなぐ』『瑠璃色の星』など。
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三宅 義和(みやけ・よしかず)
イーオン代表取締役社長
1951年、岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。85年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人全国外国語教育振興協会元理事、NPO法人小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、合氣道。
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(構成=郷 和貴)

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