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日韓貿易戦争、落としどころはどこか? - 中西 享 (経済ジャーナリスト)

日本と韓国の対立が一段と激化、行き着く先が見えない。事の発端は経済産業省が韓国に対して半導体製造の材料に関する輸出規制を強化したことだったが、韓国側は元徴用工問題に絡んだ報復措置だと反発、撤回を求めた。その後、韓国では日本製品の不買運動、日韓の市民レベルの交流の中止、韓国人観光客の日本旅行取りやめなどが起きている。

炎上している両国関係の行方が気掛かりになっていたところ、経産省は8日、輸出規制を強化して韓国向け個別審査を求めていた半導体材料の一部の輸出を許可したと発表、この姿勢が対立を和らげるきっかけとなるかどうか。


(Barks_japan/gettyimages)

首脳会談の見通し立たず

ここまで関係が悪化すると、安倍晋三首相と文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領のトップ会談でしか打開の道はないように見えるが、安倍首相は「韓国は日韓請求権協定をはじめ国と国との約束を守ってほしい」と述べ、首脳会談の見通しは立っていない。

トランプ政権は一時、ポンペイオ国務長官が仲裁の役を買って出ようとしたが、結局、日韓の2国間の話し合いで解決してほしいとして、積極的な橋渡しはしなかった。

そうした中、安倍政権は8月2日、韓国の輸出管理が適切に行われていないとして、輸出管理手続きで優遇する「ホワイト国(優遇対象国)」リストから韓国を除外する閣議決定をし、今月28日から約2000品目を対象に施行される。これまで簡便な手続きで韓国に輸出できていたものが、個別案件ごとに申請を出して認可を受けなければならなくなり、数日でできていたのが90日も掛かるとも言われている。

安全保障では譲れない

経産省が輸出手続きを厳しくした、半導体製造材料の3品目(レジスト、高純度フッ化水素、フッ化ポリミイド)は半導体、有機ELパネルの生産に不可欠なもので、日本企業が高いシェアを持っている。

IHSマークイットジャパンの杉山和弘主席アナリストは「フッ化水素は日本から韓国に輸出された後、第三国に輸出されて行方が分からず、『北』に流れている可能性もあるとも言われている。こうした材料はテロや武器に使われる恐れのある安全保障に係る問題なので、韓国が歩み寄らない限りこの問題は収まらない。今回、経産省が一部の製品の輸出許可を30日程度の審査で出したことは、今回の措置が輸出禁止でないことを明示しており、良かったのではないか」と述べた。

日本からの材料を購入して半導体を製造してきたサムスン電子などにとってこうした部品の輸入手続きに時間が掛かると円滑な調達ができにくくなり痛手になる。ほかの国から買いたくても日本への依存度が8~9割と高いため、すぐには代替できる国がない。

文大統領は国産化を急がせようとしているが、国産化には、2~3年でできるものもあるが、歩留まりが良いものを大量生産できるようになるには多くは5~10年掛かるといわれる。

楽天証券経済研究所の今中能夫チーフアナリストは「今回の輸出審査の厳格化はいまある制度を使っただけで、日本は妥協する余地はまったくない」と主張する。

韓国メーカーの国産化については「仮にできたとしても、その時には次の世代の新しい技術に代わっている可能性もある。サムスンが最新鋭の半導体を作れないとなると、ほかの半導体メーカーのものに置き換わるきっかけにもなりかねない。サムスンはこうした事態を恐れて、米国に半導体工場を建設するのではないかという観測記事も出ている」と指摘する。韓国経済を代表するサムスンの先行きが危うくなれば、経済全体への打撃は大きくなる。

日韓基本条約が揺らぐ

ジェトロのアジア経済研究所の安倍誠・東アジア研究グループ長は「日韓の対立は1965年に締結された日韓基本条約が揺らぐまでになっている。日本からすれば元徴用工などの賠償問題は解決積みで蒸し返しとなるが、韓国からみれば条約締結は日本と韓国の力の差がある中で結ばれたもので不公平だという認識がある。韓国の大統領府を含め政権の中枢にいる人の多くがいわゆる進歩派で、知日派が少ない。今回の日本への対応で文大統領の支持率が上がっていることも、文政権が強気になっている理由ではないか」と指摘する。

日韓関係の現状について日本総研の向山英彦上席主任研究員の「日韓の対立は過去最悪のレベルで誰も止められなくなっている。来年、韓国は大統領選挙の年なので文大統領も日本とは妥協できない事情がある。これまでは歴史問題などあっても政経分離で日本企業は韓国と経済交流を深めてきたが、ここまでくると対立を止める妙案がない」と、先行きを心配する。

今回の経産省の輸出許可については「韓国は半導体材料の国産化を具体的に進めようとしており、日本離れがさらに進む可能性がある。経産省はこのことを少し気にし始めたのではないか。今後注目すべきは、最も反日感情が高まると言われている日本の植民地支配からの解放を記念する8月15日の『光復節』の記念式典で文大統領がどんな演説をするかだろう。仮に大統領が日本に対して対話を呼び掛けるとなると、日本が受けないと不利な立場になる」と分析する。

そうした最中、8月5日に韓国の大統領府で行われた首席補佐官会議で文大統領は「北朝鮮と経済協力できれば、一気に日本を追い抜くことができる」と発言、日本への対抗意識をあらわにした。日本よりも「北」との接近を図りたい文大統領の狙いはどこにあるのか。3回目の米朝首脳会談を成功させて、再び南北統一に向けての主導権を握りたい野望があるのかもしれない。言えることは、日本を無視する姿勢が一段と明確になっていることだ。

米国も日韓の関係悪化に気をもむ

その場合、韓国に米軍を駐留させている米国はどう出るのか。韓国が「北」の核放棄なしで北朝鮮に接近すれば、北朝鮮に圧力をかけてきた米韓日の協力軸が崩れてしまうかもしれない。それこそ、金正恩朝鮮労働党委員長の思うつぼになる危険性がある。

共同電によると、米国務省のナッパー副次官補(日本・韓国担当)は7日、ワシントンで開かれたシンポジウムで、日韓に対し「関係改善には双方が責任を負っている」と指摘して双方に歩み寄りを促し、中国や北朝鮮、ロシアが日韓関係の悪化につけ込む動きがあると述べて警戒心を示した。

トランプ大統領は文大統領に対してこれまでの米韓日の協力軸を維持しようと圧力を掛けるのか、それとも朝鮮半島から撤退する方向に動くのか、日本にとっても安全保障上、地政学的にも重大な関心事になる。

ここまで両国関係がこじれると、せっかくこれまで築いてきた日韓関係は日韓基本条約締結以前のいがみあう関係に逆戻りすることになりかねない。そうならないためにも双方は冷静になり、大局的な見地から歩み寄る道を探ってほしい。当面は8月15日の文大統領の演説がどうなるか注目だ。

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