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"ややダサい商品"が破壊的成功を収める訳 必要なのは多数の好きより少数の愛

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 多くの人にほどほどに好かれるものより、最初は少数でも深く愛される製品のほうが、その後大きく成長する可能性が高い。代表例は、大学生限定のサービスとして誕生したフェイスブックだ。東京大学でスタートアップ支援に従事する馬田隆明氏が、その理由を解説する――。

※本稿は、馬田隆明『逆説のスタートアップ思考』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/ThomasVogel)

「人の欲しがるものを作る」を忘れがち

 スタートアップにとってもっとも重要なことは、「人の欲しがるものを作る(Make Something People Want)」ことです。このMake Something People Wantという言葉は、スタートアップを支援する「アクセラレーター」の中でもトップの実績を誇るY Combinatorの標語になっています。

 人の欲しがるものを作る、という言葉は当然のことのように感じたかもしれません。しかしそれを標語にしないといけないぐらい、スタートアップを始める人たちは「誰かが欲しがるものを作る」ということを忘れがちです。人はつい「自分の作りたいもの」や「誰かがきっと欲しがると決めつけているもの」を作ってしまい、時間を無為に過ごしてしまったあと、資金難に陥ってしまいます。

 スタートアップ関係者から最も尊敬されている人物の一人で、ハッカーであるポール・グレアムによれば、スタートアップが急速に成長するためには以下の2つの条件を満たす必要があるそうです。

 1 大勢の人が欲しがるものを作る
 2 それをすべての人に届ける

ニーズをつかめずに失敗するパターンが多い

 レストランや美容院といった店舗型ビジネスでは2つめの条件を満たすことが難しいため、急成長することがなかなかできません。そのためスタートアップにはあまり向いていないビジネスと言えるでしょう。

 一方、ソフトウェアビジネスの限界費用はゼロに近く、多くの人に届けることが可能なため、2つめの条件を満たすのは得意です。しかし「大勢の人が欲しがるものを作る」については、満たすことが非常に難しいままです。

 とある100以上のスタートアップの失敗を分析した調査では、失敗の理由として最も多かったものは「市場にニーズがなかった」でした。

 また、スタンフォード大学の調査によれば、そうしたニーズが確認できていない状態でスケールしようとする「成熟前の規模拡大(pre‐mature scaling)」と呼ばれる行動が、スタートアップを潰すという結論を導き出していました。このように、多くのスタートアップはニーズをつかめずに失敗します。

現在の市場にニーズがあるかどうか

 もちろん創薬系のスタートアップなどは話が別です。延命や症状の改善ができる製品を欲しがっている顧客がすでにいるなど、予め課題やニーズが明確になっているからです。そうしたスタートアップでは「そのような薬が技術的に実現できるか」「顧客がどこまでお金を払ってくれるか」が最も大きなリスクになるでしょう。

 そうした例外を除くと、多くのスタートアップにとっては「現在の市場にニーズがあるかどうか」が最も大きなリスクになることは間違いありません。

 特にスタートアップが狙う市場というのは、「これから伸びるであろう」とされる市場です。そこで本当にニーズがあるかどうかは不確実性が高い、と想定しているほうがよいでしょう。

 だからこそ、まずは「人の欲しいものを作る」。これを念頭に置いて製品を作る必要があります。

多数の「そこそこ好き」より少数の「深い愛」を狙う

 そして特にスタートアップ初期には、多数の人からそこそこ好かれる製品でなく、少数の顧客が深く愛する製品を作るべきです。そしてこれもスタートアップの反直観的な考え方の一つです。

 普通なら、多くの人が欲しがる製品を作るべき、と思われることでしょう。実際ポール・グレアムも、スタートアップは「大勢の人が欲しがるものを作るべき」だと述べています。

 しかし、当のポール・グレアム自身が、スタートアップの最初期については多数の人から好かれる製品よりも、少数の顧客が愛する製品を作ったほうがよい、とも述べています。

 これは、数々のスタートアップの成否を見てきたポール・グレアムが導き出した、反直観的なスタートアップの法則の一つです。

 スタートアップの最初期においては、多くの人にほどほどに好かれるものより、最初は少数でも深く愛される製品のほうが、その後大きく成長する可能性が高いということが分かっています。なぜなら、現段階ではそのニーズに気付いている人はほんの少しの人たちだけだからです。

フェイスブックは「大学生向け」のサービスだった

 フェイスブックはまさにこの一例として挙げられます。フェイスブックは最初、世界を狙ったSNSではなく、あくまで大学生を対象にしたサービスとして生まれたため、当初は各大学の授業の一覧を確認できるサービスを展開していました。だからこそ大学生に深く愛され、多くの若者が長く使い続けてくれました。

 深く愛してもらうメリットは他にもあります。愛を獲得できれば、その顧客に長く使ってもらえるだけではなく、彼らからプロダクト体験へのフィードバックを得ることができます。一方、ほどほどに製品を好きな人たちは、フィードバックすらせず、静かに自分たちの製品から離れていってしまうだけです。

 初期の製品作りにおいて、顧客のフィードバックほど価値のあるものはありません。それを得るためにもまずは小さな市場で、顧客から深く愛されるプロダクト体験を作ってください。10人、そして100人といった、少数でも製品を愛してくれるユーザーが生まれてから、どうやってそれを広めるか考え始めても、決して遅くはありません。むしろそうしたユーザーがいない状況で広めていってしまうと、先述した「成熟前の規模拡大」という間違いを犯してしまい、スタートアップは潰れてしまいます。

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