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思い出の詰まった家で最後までー。叶えられなかった叔母の願いが地域の福祉拠点誕生につながった - 第95回坂東眞理子氏(中編)

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坂東眞理子氏は叔母から相続した土地建物をNPOと共同で福祉施設『大場町みんなのいえ〈わたせハウス〉』へ再生させた実績を持つ。坂東氏は「これからの日本は、もはや老人とは呼べない元気で能力のある高齢者が社会を支えるモデル社会にするべき」という持論も提唱している。それらの行動や発言は、いずれも高齢化社会の問題解決を人任せにはしないという強い決意の現れである。「人生100年時代の女性の生き方」は、すでに実践が始まっている。

取材・文/木村光一 撮影/公家勇人

素人とプロの介護は比べものにならない

みんなの介護 「終活」をテーマにした坂東さんの著書『60歳からしておきたいこと』に書かれている福祉施設『大場町みんなのいえ〈わたせハウス〉』誕生までの経緯について、改めて聞かせてください。

坂東 はい。大好きだった叔母にまつわる話ですね。

彼女は子どもがいなかったこともあり、ずいぶん私を可愛がってくれました。90歳のとき、つれあいに先立たれて一人暮らしを始めるのですが、すでに体力も衰え、買い物や毎日の食事の支度もままならなくなっていて…。

当初は「思い出の詰まった家で最期まで暮らしたい」という叔母の願いを叶えてあげようと、日中は家政婦さんに身の回りの世話をお願いするなどしていたものの、どうしても夜が心配になり、結局、私が渋る叔母を説得して有料老人ホームに入居してもらったんです。

みんなの介護 高齢になってからの一人暮らし。それは心配でしたね。老人ホームの生活にはすぐ馴染んでもらえましたか?

坂東 いえ、最初にお試し入居した施設は嫌だといってすぐに出てしまい…。自宅での暮らしに未練があったんですね。幸い、次の施設はとてもよい世話をして頂き気に入ってくれて、私も一安心でした。

みんなの介護 どういった点が入居の決め手になったのでしょう?

坂東 その施設ではオーナー経営者のもと、とてもきめ細かい運営がなされていました。栄養バランスの整った食事の提供はもちろん、病院にも必ず職員の方が付き添ってくれる。定期的に開催される花見や祭りなども心づくしのあたたかいイベントでした。

おかげで、素人の在宅介護とプロの介護士のいる専門施設では比べものにならないことがわかって私も納得できましたし、なにより、あれほど自宅で暮らすことを望んでいた叔母の満足そうな笑顔を見られて胸のつかえが下りました。

叔母は入居から2年足らずで旅立ったのですが、最期まで施設の手厚い介護は変わりませんでした。それは本当にありがたかったです。

相続した不動産を地域貢献に活用するという選択

坂東 叔母には子どもがなく、遺書も残していなかったため、遺産は私を含めて11人の甥と姪が相続することになりました。そこで私が代表相続人になり、遺産分割を公平に行うため約7ヵ月をかけて手続きを行ったのですが、弁護士さんに助けて頂きながら、相続人全員の同意書に実印をもらうために奔走するなど、慣れないことばかりで本当に大変でした。

最終的に金融資産は私を除く相続人が話し合いで分配。田園都市線市が尾駅から歩いて20分ほどのところにある一軒家については、叔母夫婦が長年暮らしていた横浜市に寄付する方向で調整を進めていました。ところが、そこで困ったことが…。

みんなの介護 どういったことですか? 

坂東 市に問い合わせたところ、500平方メートル以下の不動産は売却し、お金に換えて寄付してほしいという回答だったんです。私の希望は、あくまで叔母夫婦の思い出の詰まった家屋の有効活用。売却についてはまったく考えていませんでした。

思案の末、私が不動産を相続。地域福祉活動を行なっているNPOに固定資産税だけを支払ってもらうという条件で土地建物を貸与することになったわけです。

みんなの介護 なるほど。そうして『大場町みんなのいえ〈わたせハウス〉』が産声をあげたんですね。

坂東 『わたせハウス』は今、地域のお年寄りのデイケアや子どもの保育をする施設として活用されています。ちなみに「わたせ」は叔母夫婦の名字。二人が暮らした場所にその3文字を残せたことは感無量でした。

みんなの介護 『わたせハウス』誕生までの体験を通じて、介護に対する見方、考え方に変化はありましたか?

坂東 私は公務員時代に政策の提言を仕事にしていましたから、福祉施策などの情報には詳しい方だと思っていました。でも、『わたせハウス』を立ち上げる際に痛感したのは、それを具現化するには実際に動いて下さる意欲のある方々がいてくれないと何も始まらないという現実です。市側と交渉して書類を用意し、認可をひとつ取り付けるだけでもどれだけの労力と根気が必要か。

また、サービスがあってもそれを必要としている人たちに確実に届けられるかというと、そうでもない。現行の介護保険制度は利用にいたるまでとても複雑な手続きが必要です。福祉リテラシー(リテラシー=情報を目的に適合するように使いこなす能力)の大切さも感じました。

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