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記念日を派手に祝うカップルほどすぐに別れる

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■「高いプレゼントをあげたのにお返しはこれだけ?」

現代の恋愛は、『青春の門』と比べて形式は高まっていって、すべての人がチョコを渡したりと一見恋愛しているように見えますが。実は増えているのは恋愛システムだけかもしれない。会ってディナーをしてプレゼントを買って渡すという消費行動であって、商業主義にのっているだけなのかもしれないのです。

その上、最近では若い人たちまでが高額なブランド品を贈り合っていて、「自分はいくらのものをあげたのに、相手からはこれしかもらってない」と、交換し合ったものの金額が愛のバロメーターのようになってしまっているところもあります。

それが本当だとすると、経済格差が愛の格差にも直結していくということになるわけです。受験勉強のように、すべてを偏差値化したことによって今度はプレゼントの偏差値が悪い子たちの恋愛が阻害されるようになる。

日本がこれだけ経済的に豊かになったということで、みんなの持つ経済的な偏差値が一時期すごく高まったわけですが、今、社会は経済的には縮小に向かっています。先進国では、右肩上がりの経済成長の時代は終わりました。というより、自分もみんなも儲かって、やればやるだけ見返りがあるという時代が特殊例だったのです。

そうすると、今までプレゼントに使えていた金額がもう使えなくなる。そのことで、関係性がおかしくなってしまうような時代に入っているということになりはしないでしょうか。今を何とかしのいでも、今後「お金をかけてモノをたくさん動かしたほうが幸せ」という社会はもう構築できないのです。

そうなってくると、これからは愛の時代に入ってくると思います。恋愛システムへの依存からは早めに手を引き、たいして贅沢ができなくても自由で生きる喜びが湧き上がってくるような時間を多く作ることが、恋愛エネルギーを活性化させることになっていくのだと思います。

■義務感にとらわれずに自分の思いを伝えるには

たとえば夫や恋人が、ちょっとしたお花を買ってきてくれて、「君のことを考えながら歩いていたらちょうどお花屋さんがあって、思わず買っちゃったよ」と言ったらどうでしょう?

特に記念日でもないのだからそんなに豪華な花束ではないはずで、一輪だけかもしれませんが、「君のことを考えていたら」というごく短いストーリーがついてくることによって、「その人の中に私はちゃんと存在しているのだ」ということを実感し、うれしい温かい気持ちになれるのではないかなと思います。

市場経済の活性化によって、いろいろなものがマーケティングに支配されていきます。恋愛の楽しみもどんどんシステムにのっとられて、「バレンタインデーだからチョコレート」「誕生日だから○○」と、義務感が強くなっていきます。

私がこれまでも言ってきたように、愛というものは機械的に「これをしなくちゃいけない」と規定されてしまうところからは生まれにくいのです。

だから、クリスマスとかバレンタインという記念日に依らず、その人自身のことをイメージしながら自由な発想でふわっと贈る何かのほうが、思いを伝えるのかもしれません。そのとき提案したいのが、「レトリカルな(レトリックを用いた)」ということなのです。レトリックというのは、ストレートな科学的、論理的言語では語れない豊かな意味を表現するための技法です。

単純なところでは、「君は素敵な人だ」はストレートな表現ですが、そこで「君は宝石だ」とか「君はキラキラ輝いている」というのがレトリカルな表現ということになります。「私はあなたのことが好きです」「愛してます」と言うことばは、誰にでもわかるものであって、論理的な意味は100%伝わっている。けれども実は、自分のオリジナリティは何も伝わっていないではないか。

■大切なのは、2人だけが知る意味を持たせること

それを言っている自分の中の豊かなイメージが、そこにちゃんとのせられているのかどうかを、もう一度見直してみるのです。そして、その向こう側にある「あなたでなければダメなんだ」とか、「一緒にいることがこんなにうれしいんだよ」というような、言葉では伝えきれない何かを、レトリカルな表現で伝えようとするわけなのです。

上田紀行『愛する意味』(光文社新書)

そうすると、「君のことを考えながら歩いていたらちょうどお花屋さんがあって、思わずこの花を買っちゃったよ」という一言の持つ意味は、言う人によって変わってきます。その2人の間にどんなことが起こってきたか、それまでの文脈によって意味が変わってくるのがおもしろいところです。

そして、そこからどんな思い出が広がって、どんな会話につながっていくか、まったく違うことになっていくのです。

レトリックが成立するのは、その状況を互いに共有しているからです。私とあなたのお互いしか知らないようなものが言葉で引き合わされて、「この人の言っていることは、私の知っているあのことなんだ」と気がつくことで、時間を共有しているとか愛情が深まるような言葉の使い方ができていくのです。

「あなたと一緒にいることが私にとって特別なことなんだ」という感じが、そこから波動として伝わってきます。そして、「この人と一緒にいたら、人生が意味深く豊かになる」と思わせる何かから、とても愛を感じることができます。

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上田 紀行(うえだ・のりゆき)
文化人類学者、医学博士、東京工業大学教授
1958年生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得退学。岡山大学で博士(医学)取得。86年よりスリランカで「悪魔祓い」のフィールドワークを行い、その後「癒やし」の観点を最も早くから提示し、生きる意味を見失った現代社会への提言を続けている。日本仏教再生に向けての運動にも取り組む。代表作『生きる意味』(岩波新書)は、06年全国大学入試において40大学以上で取り上げられ、出題率第1位の著作となった。近著に『愛する意味』(光文社新書)がある。

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上田 紀行(うえだ・のりゆき)
文化人類学者、医学博士、東京工業大学教授
1958年生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得退学。岡山大学で博士(医学)取得。86年よりスリランカで「悪魔祓い」のフィールドワークを行い、その後「癒やし」の観点を最も早くから提示し、生きる意味を見失った現代社会への提言を続けている。日本仏教再生に向けての運動にも取り組む。代表作『生きる意味』(岩波新書)は、06年全国大学入試において40大学以上で取り上げられ、出題率第1位の著作となった。近著に『愛する意味』(光文社新書)がある。
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(文化人類学者、医学博士、東京工業大学教授 上田 紀行 写真=iStock.com)

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