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対中国追加関税第4弾のコストは誰が負担するのか?

米中対立が止まらない。

8月1日、 トランプ米国大統領は、つい一月前の大阪サミットで発動見送りを約束していたはずの対中関税第4弾を9月1日に発動すると表明した。

その報復として中国商務省は6日、米国からの農産品の購入を一時停止すると発表した。

表 米中の相互関税引き上げ措置

対中関税による追加財政収入

トランプ米国大統領から見て、対中関税引き上げによる追加財政収入のメリットは小さくない。

表の対中関税対象金額に追加関税率をかけ合わせてみると、第1弾から第3弾の対中関税引き上げによって、トランプ大統領のポケットには年額にして推定300億ドル(約3兆1500億円)程度の追加財政収入が入ってきている計算になる。

第4弾が発動されれば、単純計算でさらに年額300億ドル程度、合計600億ドル(約6兆3000億円)程度の追加収入だ。

しかも、この追加関税は決して米国民が全て負担しているわけではない。実際、米国消費者物価は2%程度で安定的に推移してきている。

なぜ対中関税引き上げは米国消費者物価に影響しないのか?対中関税は輸入物価を押し上げ、米国経済を傷つけるのではないか?

対中国関税が輸入価格に転嫁されないメカニズム

対中関税引き上げが米国消費者物価に反映されない背景として、3つの相互に関係する要因を指摘できる。

一つ目は、これまでの対象物品が比較的対中依存度の低い物品だったことから、米国消費者物価全体への影響が限定的だった。

米国市場の対中依存度は、産業機械などが主な対象だった追加関税第1弾時点で6.2%、集積回路などの第2弾時点で12.5%、食料品や家具などの第3弾時点でも20.5%にとどまる(内閣府『世界経済の潮流』2019年)。

二つの目に、追加関税負担の多くを中国側輸出者が飲み込んできたと見られる。

対中関税引き上げ以降、米国消費者物価は安定的に推移している一方、中国生産者物価は伸びが落ちてきた。ここから見て取れるのは、中国企業が対米輸出価格を引き下げている可能性である。

三つ目は、人民元安の影響だ。

2018年3月に米国が、中国を含む多くの国を対象に鉄鋼およびアルミニウム製品の追加関税を発動した当時、人民元の対米ドルレートは6.26ドルであった。

しかし、その後すぐさま人民元は対ドルで下落に転じ、2019年8月7日には7元を超え、2018年3月比で約12%の人民元安となっている。

関税引き上げ第4弾は、携帯電話やノートパソコンなど、中国製品に代わる調達先を探しく、かつ米国消費者に直結しやすい対象品目に10%の追加関税が課されるが、その値上げ圧力は人民元安によって相殺されうる。

今後の展望

向こう1年程度の展望について、今回の米中貿易戦争がトランプ大統領の国内向け政治アピールという要素が強いという点から考えれば、中国がよほどの譲歩をしない限り、米国側が早々に決着を図ることは考えられない。

特に、上述したとおり、トランプ大統領のポケットには対中追加関税のおかげで推定300億ドル以上の追加財政収入がある。この追加財政収入で、大統領選に向けた支持獲得を狙ってバラマキ政策も可能になる。

実際、トランプ大統領は5月に、対中貿易戦争で不利益を受けている農家に補助金145億ドル(約1兆5200億円)を支給すると発表した。追加財政収入を使って、さらには中間所得者向けの減税やインフラ投資なども可能となろう。

この追加関税収入を手放してまで、年内早い段階で米中協議をまとめるインセンティブは、中国がよほどの譲歩をしない限り、トランプ大統領にとってはほとんどないと筆者は考える。

4月、5月ごろは、そのよほどの譲歩をする姿勢を中国側が一瞬見せたのだろうが、そんな譲歩は中国国内で理解が得られず流れたのだろう。

トランプ大統領としては、このまま対中強硬姿勢を維持し、選挙が近づく年明けの適当な時期に合意すればよいと考えているのではないかと想像される。対中貿易戦争の勝利を声高に主張することで、米国株式市場の値も上がり、大統領選への大きなアピール材料となるだろう。

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