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何もしなければ、漁業には誰も残らない~勝川俊雄氏インタビュー回答編~

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三重大学の准教授を務める勝川俊雄氏(撮影:野原誠治)
三重大学の准教授を務める勝川俊雄氏(撮影:野原誠治) 写真一覧
BLOGOSと、「知」のプラットフォームSYNODOSがタッグを組んでお送りするインタビューシリーズ「SYNODOS×BLOGOS 若者のための『現代社会入門』」。前回は、水産資源学の専門家であるの勝川俊雄氏のインタビュー平均年収260万から”儲かる漁業”への転換を実現せよ―勝川俊雄氏が語る”日本漁業復活の方程式”を掲載いたしました。今回は、読者からいただいた質問や意見に勝川氏が答える回答編をお届けします。【BLOGOS編集部】

漁業者の下げ止まりは期待できない


――前回のインタビューは、このシリーズでは珍しく、「個別漁獲高制度を採用するべきだ」という肯定的な意見を多くいただきました。それでもいくつか細かい部分で疑問を持ったユーザーもいたので、こうした方々の疑問を勝川先生にぶつけていければと思います。

まず、大前提として漁獲高が減っているのは、単純に漁師が減っているからではないか、という疑問をもったユーザーが何人かいたようです。「現状のように漁業が減っていけば、自ずと水産資源の保護につながるのではないかと思う」「いくつか統計を見たが、漁師が減っているから、漁獲高も漁獲額も減っているようにしか見えない」といった意見です。


勝川氏: 漁師と話していると、「海の中の魚はものすごく減っている」「今の獲り方では、魚は残らない」というような話を良く耳にします。農林水産省が実施した「食料・農業・農村及び水産資源の持続的利用に関する意識・意向調査」の8ページ目に、最近の水産資源の状況について漁業者にアンケートをとった結果があります。「資源は減少している」と回答した者の割合がもっとも高く(87.9%)、「資源は増加している」と回答した者は0.6%でした。毎日、海に向かっている漁業者の実感として、水産資源は減少しているのです。

また、漁具・漁法は日進月歩です。昔は、経験と勘で、魚を獲っていました。現在は魚群探知機やソナーなどのテクノロジーの進化によって、海の中の魚群を直接見ることができるようになりました。大間の一本釣り漁船は、ソナーを積んで、群れを追跡する船が効率的に漁獲をする一方で、昔ながらの漁具ではほとんど魚が獲れなくなってしまいました。来遊する群れの数は減っているのですが、最新のテクノロジーで、少なくなった群れを効率的に漁獲しているわけです。

数字の上では一人当たりの水揚げ高は、1990年代から微減傾向にあります。漁獲量の少ない漁師から淘汰されて、精鋭漁業者が漁場を占有しているのに、一人当たりの漁獲量が増えない。資源の減少のペースの方が、漁業者の減少よりも早いのです。漁業者がこれだけ減っても、一人当たりの漁獲量が増えないし、魚価も上がらないということでは、漁業者の下げ止まりは期待できません。

―― 中国など近隣諸国の乱獲を問題視する声も挙がりました。「日本近海の問題は日本のというよりも、資源をとり尽くして進出してきている韓国や中国の漁船団による無秩序な漁獲のはず」「日本の排他的水域で、漁獲量調整を行って、魚が大きく育って、他の水域(特に中国)に魚が泳いで行ってしまえば・・・なんて事にはならないんですかね?」という質問です。こうした指摘については如何でしょうか。

日本が中国・韓国とEEZを接しているのは、日本海と東シナ海のみです。少なくとも、太平洋側については、日本一国で排他的に利用できます。中国や韓国を理由に、日本単独で利用している太平洋側まで、資源管理を怠るのは言語道断です。また、日本海・東シナ海についても、中国・韓国を理由に自国の乱獲を放置するのではなく、両国と協調して資源管理ができるように働きかけるべきです。

大変ショックな事実なのですが、韓国は1999年に個別漁獲枠制度を導入し、沿岸の漁獲量をV字回復させているのです。元海洋水産部長官だった盧武鉉大統領は、海洋政策に力を入れ、業界の反対を押し切って、政治主導で個別漁獲枠制度を導入したのです。現在、個別漁獲枠制度で管理されているのは11魚種。沿岸・沖合の漁獲量の38%をカバーしています。漁獲枠は過去2~3年の実績に基づき、大型船には組合を通じて、小型船には地方行政区を通じて、それぞれ漁船毎に配分されるそうです。

韓国の漁業権の仕組みは、日本とほぼ同じでした。韓国の漁業者も意識が高いとは言えません。そういう国が、どのようにして、IQ方式を導入したかを学ぶことは意味があります。近いうちに現地視察をして、「公的機関はどのように取り締まっているか」とか、「漁業者にこの制度がどの程度浸透しているか」などを学びたいと思っています。

――漁をするよりも養殖に力を入れたほうが良いのでは? という意見もありました。「養殖業を推進した方が、生産量・収入面双方で安定もするだろうし良いのではないかと思うのだけど」という疑問です。この点についてはいかがでしょうか?

勝川氏:世界的には養殖生産は延びているのですが、日本では縮小傾向です。構造的な問題について考えてみましょう。

養殖には、大きく分けて2種類があります。昆布、ワカメ、ホタテは、人間が餌をやらなくても光合成をしたり、海水中のプランクトンをこしとったりして、自然に成長します。これらの養殖は、生物が育つ場所を確保すればよいことになります。一方、ハマチ、マダイ、クロマグロなどは、餌を与える必要があります。これらは分けて考える必要があります。

昆布やホタテなどの養殖は、餌をやる必要が無いので、場所さえ確保すれば、比較的少ないコストで生産ができます。栄養などの条件が整った場所だと、高い利益が期待できます。オホーツクのホタテ養殖などは、後継者が順番待ちです。これらの養殖業は、今後も安定した生産を見込める反面、漁場が限られています。すでに優良漁場はほぼ埋まっている状態であり、生産量を大幅に増やす余地はありません。

次に餌が必要な養殖です。日本は養殖魚の餌となる魚粉を、ペルーやチリなどから輸入しているのですが、魚粉の国際価格が高騰しています。中国の豚肉需要が増えたために、中国とEUの間で魚粉争奪戦が勃発しているのです。国際マーケットにおける魚粉の需給関係はタイトで、今後も高値で推移する可能性が高い。ハマチやマダイの場合は、すでに餌代が元価の8割近い水準にあり、利益を出すのは難しい状況です。

クロマグロはサバの幼魚などの生魚を与える場合が多いのですが、1kgのクロマグロをつくるのに15kgのサバの幼魚が必要となります。魚類養殖業は、豊富で安価な天然魚が無ければ成り立たない産業なのです。「天然魚がなくても養殖があるから大丈夫」というのは幻想です。養殖業を守るためにも、天然魚の資源管理が重要なのです。

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