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抗日100周年で続々とロードショーされる韓国「反日映画」の試写会に行ってみた 北村一輝と池内博之は鬼気迫る演技 - 菅野 朋子

 韓国では「3・1独立運動」(1919年、日本の朝鮮半島統治に抵抗した独立運動)から100周年の今年、続々と”抗日映画”が封切られている。

【写真】『鳳梧洞の戦闘』のパンフレットはモノクロ

 年明け1月には、当時、禁止されていたハングル語の辞典を編纂しようと動いた人々の話を描いた『マルモイ』が、2月には自転車大会で日本人の有力選手を抑えて優勝した人物を主人公にした『自転車王 オムボクドン』が公開された。『鳳梧洞の戦闘』もそうした流れのひとつ。公開は8月7日だ。

『鳳梧洞の戦闘』の試写資料はモノクロ

 折しも日本の韓国への輸出規制やホワイト国除外問題で日韓の葛藤がピークに達している中での公開と相まって、「抗日映画『鳳梧洞の戦闘』反日の風に乗るか」(文化日報7月30日)という声も聞かれる。

朝鮮独立軍が初めて日本軍に勝利した戦闘

 7月初めから始まった試写の反応をみるとまっぷたつ。果たして、内容はどんなものなのか、試写会に足を運んでみた。

 映画の試写資料はモノクローム。表紙にはその服装も顔つきもばらばらで無骨な雰囲気が漂う朝鮮独立軍の面々がずらりと並ぶ。闘士というよりいかにも近くにいそうな佇まいで、それもそのはず、朝鮮独立軍は正式な訓練を施された兵士ではなく、農民や商売人、学者などの市井の人々で構成されていた。試写に一緒に行った韓国人の友人いわく、「そんなところが、この闘いをより誇り高きものにしている」そうだ。キャッチコピーは「みなの闘い、みなの勝利」。名もなき者たちの誇り高き闘いということなのだろう。

 映画のストーリーは1920年6月、朝鮮独立軍が初めて日本軍に勝利した戦闘を描いたものだ。

 舞台はかつての満州、中国北東部に位置する現在の吉林省にあった渓谷の村、鳳梧洞。1919年3月1日から始まった朝鮮独立軍の動きは満州地方にも拡大していたといわれ、映画では、朝鮮独立軍が鳳梧洞一帯の複雑な地形を生かし、谷間に日本軍を誘引して包囲し、勝利を導いた過程が描かれる。韓国ではその名から「鳳梧洞の戦闘」と呼ばれ、教科書にも記述されている歴史上、有名な闘いのひとつだ。
 
 歴史物につきものの史実考証について、制作にあたったウォン・シニョン監督は、「考証作業は大変だったが、1920年12月25日付けの『独立新聞』第88号を基準にした」(映画試写資料より)と話していて、鳳梧洞の朝鮮人村に住む末裔の人々や研究者も取材したと語っている。

目立つのは日本軍の残虐さばかり

 ウォン監督は前作『殺人者の記憶法』(2017年)ではアルツハイマーとなった元連続殺人犯を主役にしたクライムサスペンスを撮り、絶賛され、韓国でも期待される映画監督のひとり。

 また、主演の3人も韓国では演技派として知られ、なかでも映画『タクシー運転手』にも出演したユ・ヘジンはファン層も厚く、他のふたりも旬な俳優。そんな監督とキャスティングから映画はてっきり、朝鮮独立軍が日本軍に初勝利した、その痛快といわれる戦略と、日本の朝鮮半島統治に屈しないという精神的なものが描かれるのだろうと思っていたら……。

 冒頭から、日本軍の卑劣で無慈悲で残忍なシーンが続いていく。朝鮮の農村を襲い、妊婦を強姦し、子供や老婆に銃口を向け、弾を放ち、情け容赦などひとかけらもない――。

 その一方で、一見荒削りで無鉄砲にみえる独立軍は、犠牲者を出しながらも日本の正規軍兵士をばったばったと倒し、苦境に陥ってもどこかコミカルで、捕虜にした日本兵には慈愛をもって接して、最後には、その目で見たことを記録し、伝えてくれと解放する。

 息を呑むような渓谷の壮大な風景、谷間を縦横無尽に走り回るアクションなど映画としての見所もある。しかし、135分のストーリー展開の中で印象に残ったのは強烈な殺戮シーンばかり。すべてがそれでかき消されてしまった。

韓国人の友人は「がっかり」

 ウォン監督は、「被害の歴史を描いた映画が多かったが、『鳳梧洞の戦闘』は抵抗の歴史、勝利の歴史についての物語。この映画を通して国権が奪われた時代を見るパラダイムが変わればと思う」(映画試写資料より)と話している。

 しかし、韓国が誇りとするその痛快なはずの戦法の描き方には丹念さが欠けていて、観客がストーリーに追いつきにくい。劣勢と思われた独立軍が日本軍をおびき寄せて最後のシーンで大どんでん返しという、おそらく観客から歓声があがることを想定しただろうシーンでも、どよめく声は漏れなかった。一緒に観に行った韓国人の友人に感想を訊くと、ただ深くため息をつき、「がっかり」。不利な闘いに知恵を集めて皆の力で勝利したという肝心なところがぼやけていたと話していた。 

鬼気迫る演技の北村一輝と池内博之

 映画を観たという韓国紙記者に訊くとこんな答えが。

「抗日映画とひと口に言っても今は映画としての完成度の高さに人が集ります。『鳳梧洞の戦闘』は愛国心に訴えるだけの“クッポン”(国=クックと、麻薬のヒロポンを掛け合わせた造語)映画ではないかという批判も公開前からすでに出ていて、主演の俳優をみて、1000万人動員するのではないかという声もありますが、正直、興行はさほど伸びるとは思えません。あまりにも血が多すぎました。俳優がいいだけに残念です」

 ところで、この作品には、日本の越境追撃隊大将と中尉、独立軍に捕虜となる少年兵役に、それぞれ俳優の北村一輝と池内博之、醍醐虎汰朗が出演している。映画への出演の決め手が何だったのかは知る由もないが、北村と池内のその演技は鬼気迫っていて、身震いするほどリアリティを感じさせるもので、醍醐も繊細な少年兵役で観客の心を揺り動かした。

“抗日”だけでは韓国人の心は動かない

 特に、北村演じる大将は、当時、朝鮮半島に生息していたとされる虎を屠るシーンで登場するが、その目つきや声といい、冷徹さがピリピリと伝わってきた。虎はソウル夏季オリンピック(1988年)や平昌冬季オリンピック(2017年)の大会のマスコットになっていることから分かるように、朝鮮半島では畏敬の対象でもある特別な動物。虎を当時の朝鮮と見立てたのか。その意図は分からないが、日本軍の残忍さばかりが目立ったのはもしかしてふたりの迫真の演技によるものなのかもしれないとも思ったり。

 7月25日には慰安婦問題を扱った『主戦場』が公開されたが、反応は鈍い。

『鳳梧洞の戦闘』の翌日には、また慰安婦ハルモニを追ったドキュメンタリー『キムボクトン』も上映される予定だ。

 ただ、韓国ではもう“抗日”というテーマだけで単純に人々が喝采を叫ぶ時代は終わっている。冒頭に紹介した抗日映画の中でも『マルモイ』はヒットしたが、『自転車王』は“クッポン”とされて興行に失敗した。ただ、日本による「ホワイト国除外」で一般の人々の思いにどんな変化が起きているのか分からないが。

 それでも、映画評の厳しい韓国で、『鳳梧洞の戦闘』はヒットにはならず、に筆者は賭ける。
 

(菅野 朋子)

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