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【阪神のブランド学②】阪神1面という文化! なぜ在阪メディアはタイガース報道一色なのか?

シーズン真っ只中のプロ野球において、他球団とは一線を画すように異質で強大なブランド力を誇るのが、阪神タイガースだ。本拠地・甲子園球場には今も連日、4万人が集まる。10年以上も優勝から遠ざかるチームが、なぜ今も熱狂の"心地"であり続けるのか。10年間、スポーツ紙の「虎番」として密着取材を続けるスポニチ・遠藤礼記者が、猛虎を取り巻く世界、その周辺の人々を分析した。第2回は、常にタイガース報道一色に染まる在阪メディアについて。

スポーツ紙の1面は、ほぼ阪神

サニブラウンが男子100mで9秒台の日本記録を叩き出そうが、嵐が活動休止を発表しようが、関西版のスポニチ1面は「猛虎」で揺るぎない。他社も同じで、世の中に衝撃、驚きを与えるようなニュースや出来事が起こったとしても、ほとんど毎日、阪神タイガースの話題がスポーツ紙の1面を奪取。今年なら「矢野」「梅野」「糸井」「大山」、最近では「ソラーテ」(阪神が新たなに獲得した新外国人)が、当たり前のように日本中のニュースを押しのけて紙面の主役に登り詰めていく。

6月9日付。東京1面は「サニブラウン9秒97の日本新記録」だったが、関西1面は「北條今季1号4打点」

例えば、6月9日付。東京1面はサニブラウンが出した9秒97の日本新記録を大々的に報じたのに対し"われらが"関西スポニチは1面で「北條今季1号4打点」の大見出しを堂々と打った。春季キャンプで猛アピールに成功して遊撃のレギュラー間違いなしと思われた北條が、不振でベンチを温める日が続き、ようやく反撃ののろしをあげた。

理解しがたい人もいると思うが、これは阪神ファンにとって、大ニュースなのだ。さらに、忘れていけないのは、その日の試合に敗れていること(!)で、期待の若手の活躍で敗戦のショックを「吹き飛ばすで!」「忘れるで!」という実にポジティブな紙面に仕上がっていることをお伝えしたい。

ファンは虎中心の生活だからこそ、求められる阪神1面

全国その他の方からしたら、せいぜい「北條って? 甲子園に出てた光星学院のあの北條?」となるぐらいだろう。そもそも、スポーツ新聞とは偏った存在ではあるのだが、余りにも極端。こんな報道で良いのか? どこの誰がそんな記事を読みたい? 担当記者として過ごしてきた10年間で、誰とも分からない天からの"問いかけ"は何度もあったと言っておこう。時には罪悪感すら生まれる自尊心との戦い。記者志望だった学生の時に描いていた将来像とかけ離れていることも否定はしない。同業他社の人たちからの冷たい視線…関西のスポーツ紙を"茶番"という人も多くいるだろう。

ただ、これだけは言える。ズレた報道、紙面作りであるのならば関西のコンビニや売店からスポーツ紙はたちまち消え去り、僕はとっくの昔に職を失って路頭に迷っている。真面目な話、モノ作りの根底にある需要と供給で言えば、阪神1面は、確実に多くの人に求められている。第1回の連載で取り上げたように、ここ関西には甲子園に"通う"レベルにまで達しているファンが、数多くいる。睡眠、労働、食事に混じっての「タイガース」。そんな人々が毎朝、まず読みたい記事は阪神に決まってる。勝っても負けても虎、虎、虎……とにかく虎から1日が始まる。

阪神1面という「文化」

端から見れば異様な世界でも、毎日の「阪神1面」は関西では、もはや当たり前で日常。今や、誰も首をかしげない「文化」と言っていいかもしれない。異論を唱える方が"マイノリティー"になってしまう。逆に、阪神以外の1面がコンビニに並べば〝どうしたスポニチ〟となってしまう状況。これこそが、阪神タイガースという球団の恐るべきパワーであって非常識を常識に変えてしまう強力すぎるブランド力と言える。

そんな中で、よく嫌味のように耳に入ってくるのが、他球団では1行にもならないような選手が僕たち「虎番」の過剰な報道にさらされることで勘違いしてしまい、成長の大きな妨げになるというクレーム。おそらく、坂本勇人(巨人)、筒香嘉智(DeNA)、山田哲人(ヤクルト)など球界を代表する他球団の看板スター選手の1年間における報道量を上回る"若虎"は1人や2人でないはずだ。

冷静に俯瞰して見れば確かに「異常」すぎるのだが、ここは甲子園のある村だ。ひとたび熱量たっぷりの人々が住む”阪神村"に足を踏み入れれば、それは「正義」に変わる。生活の中心が阪神なのだから、届ける情報もそうでなければいけない、という使命感すら虎番の僕には沸いてくる。関西でも巨人ファン、広島ファンはいるし、他球団推しの方々にとっては関西スポニチは情報量が少なすぎて「ごめんなさい」と、頭を下げるしかない。それでも「虎番」である限り、これからも書くべきことは変わらないし、ブレてはいけないと思っている。良いか悪いかは別として、10年間、異世界にどっぷり浸かってきた今、そんな境地にたどり着いている。

Text=遠藤 礼

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