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ダメな上司ほど「やっぱりな」と言う理由

「やっぱり」が口癖の方は要注意! 本人は悪気無く発した言葉が、周囲をイラつかせるのはよくあること。とくに上司が部下につい言ってしまいがちな言葉について、なぜ言いたくなってしまうのか、行動経済学の視点から読み解きます。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/metamorworks)

なぜか頭にくる上司の言葉3つ

組織で働くビジネスウーマンにとって、仕事で受けるストレスには実に様々なものがあります。中でもストレスの最たるものの一つが、会社の人間関係、それも上司との関係です。一生懸命考えた企画案をろくに読みもしないで否定されたり、最初から重箱の隅をつつくような問題点ばかりあげつらったり、さらに本人は無意識でしょうが、明らかに女性蔑視の発言をしたりと、本当に頭にくることは考えたらきりがありません。

特に嫌な気分になるのは、上司が“頭にくることば”を発する場合です。中でも何かうまくいかなかった時のセリフには、とてもムカつく場合が多いように思います。これにはいくつかのパターンがあります。

1.「なぜこんな簡単なことがわからなかったんだ!」
(あなたはわかっていたのですか?)

2.「俺は知らない、聞いてない」
(いえ、ちゃんと報告しましたよ)

3.「多分こうなると思っていたんだよ!」
(だったら事前にそう言ってくださいよ!)

言い訳には2パターンある

いずれもカッコの中は、それを言われた時に感じる気持ちを表していますが、これらの言葉は、恐らくあなたも言われた経験があるものばかりのはずです。いずれにも共通するのは、何かが起こった後で、しかもそれがうまくいかない結果に終わった時に発する言葉だということです。別な言葉で言い換えれば「後講釈による言い訳」なのです。

でももう少し詳しく見てみると、これらの言い訳や後講釈は二つのパターンに分かれます。直接、間接を問わず「自分は関知していない、それは部下がやったことだ」と言って逃げるタイプ、前述の例で言えば2が典型的な例です。そういう意味では、1のパターンも責任を転嫁しようとする意図が見え見えです。

こういう逃げるタイプの上司はどうしようもありません。言わばそういうのにたまたま当たってしまったことを不運だと思い、彼が(彼女が)転勤するか、自分が異動するのを待つしかないでしょう。転勤のない会社なら、さっさと転職した方が良いかもしれません。

問題は3番目のタイプです。これは自分も予測できなかったにもかかわらず、あたかも最初から知っていたと言わんばかりに後講釈で言い訳するタイプです。ところが前者のタチの悪い“逃げる上司”と違って、これには悪意はないのです。それどころか、あなたもひょっとしたら知らず知らずのうちにこういうことを言ってしまっているかもしれません。

「やっぱりな」と言いたくなる心理

これは「後知恵バイアス」といって、人間の心理ではしばしば起きることですが、特に仕事の場では非常に起こりやすいのです。この「後知恵バイアス」というのは、「実際に起こったことは起こらなかったことに比べて可能性が高かった!」(だから未然に防げたはずだ)と、後になって感じる心理を言います。でもこれは人間の感じ方による勘違いなのです。

ではなぜそんな風に感じるのかというと、その原因は「あいまいな記憶」と「自分の能力への過信」にあります。人は誰でも物事が起こる前に自分がどう考えていたかを忘れがちです。おまけに先行きの結果が不確実なものに対して、人は誰しも一抹の不安を持っているもので、その不安は心の片隅にはずっと残っています。したがって、起きたことは「やっぱり自分が思っていた通りだ」と感じてしまうのです。

そしてこれは仕事の場だけではなく、家庭でも起こりがちです。子供が何か失敗して部屋を汚したりすると、「ほら、だからママが言った通りでしょ。そんなことするからよ」と、つい口に出しがちです。夫婦の間でもちょっとした失敗が非難の応酬になってしまいがちなのも同じ理由からです。

身近な例で考えてみましょう。サッカー日本代表の監督は外国から有名な人を招く場合が多く、当然、勝つことが期待されています。ところが予想に反して、負けが続くと無能だとマスコミに書き立てられます。挙げ句は「最初からこの監督の起用は疑問に思っていた」と発言する評論家も出てきます。これこそまさに後知恵バイアスの典型的なパターンでしょう。

会社のプロジェクトチームにも同じようなことが言えます。うまくいかなくなると必ずどこからか「やっぱりな。私は最初からだめだと思っていたんだよ」という無責任な声が聞こえてくるのです。

反論できないツラさ

あるいは、こんなケースの場合はどうでしょうか? 例えば何かの仕事をしていて、完了間近になり、依頼主から突然キャンセルの申し出が来たとします。そうすると関係部署や上司からはこんな声が出てきます。「どうして今さら急にキャンセルが来るんだ! 事前に兆候はあったはずだろう!」、「俺はそうなるような気がしていたよ、甘いなお前は」……。

誰でも経験があるでしょうが多くの場合、これらの後講釈の批判は的外れであることが多いものです。そんな理不尽なことが起きる可能性がある取引先であるなら、誰もが事前に十分注意します。恐らく今までの取引実績を見てもそんな様子はなかったために油断していてこういう事態になってしまったはずです。こんな風に後知恵バイアスによって色々文句をつけられるのは気分が悪いものです。ところが、結果が悪かったという負い目を自分でも感じているので正面からは反論しづらいのです。だからこそストレスが溜まるのです。

職場で「後知恵バイアス」が起きやすい理由

人間には誰しも「後知恵バイアス」があるものの、特に職場でこういう言葉が出てきやすいのはどうしてなのでしょう。それは何か悪いことが起こった場合、サラリーマンの世界では必ず“犯人探し”をするからです。当然、犯人探しが始まれば誰も自分が犯人にはされたくありません。つまり、誰もが自分の責任逃れをしたいという気持ちがあるため、こういったセリフが次々に飛び出してくるのです。

でも本当は単なる犯人探しをしても意味がありません。なぜなら、「誰が?」という原因を突き止めることが優先されると、「なぜ?」という原因が曖昧になってしまうからです。つまり、失敗の原因が個人にかぶせられてしまい、本当の原因やそれに対する対策を考えることがおろそかになってしまうのです。組織が失敗の本質をなかなか修正できないというのは、このあたりの心理に原因があるのかもしれません。

因果関係を単純化してはいけない

ではどうすれば後知恵バイアスによるいわれのない非難を防ぐことができるのでしょう。自分が部下の場合なら、できる限り上司に報告しながらプロセスを共有することでしょう。要するに上司を巻き込んで言い逃れできないようにすることです。

逆に自分がリーダーの立場なら、部下に対して後知恵バイアスによってそんなセリフを吐かないよう気をつけなければなりません。そうならないようにするためには、できる限り結果と原因を直線で結びつけないようにすることです。どうしても我々は「○○だからこうなった」という具合に因果関係を単純化したがります。ところが実際には、原因は単純なものではなく、様々な要素が複雑に絡む場合も多いのです。だから、いい結果も悪い結果もすべて想定内であることをメンバー全員であらかじめ共有しておき、同時にそうなった場合の対応策を考えておくことが大切です。

上司に言われてムカつくあのひと言を、ついうっかりと自分も後輩や部下に言わないように注意することが必要ですね。

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大江 英樹(おおえ・ひでき)

経済コラムニスト

専門分野はシニア層のライフプランニング、資産運用及び確定拠出年金、行動経済学等。大手証券会社で定年まで勤務した後に独立。書籍やコラム執筆のかたわら、全国で年間130回を超える講演をこなす。おもな著書に、『定年男子 定年女子』(共著、日経BP社)、『経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

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(経済コラムニスト 大江 英樹 写真=iStock.com)

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