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- 2019年08月04日 14:15
特集:ホルムズ海峡「有志連合」への論点整理
2/2●「ジャパン・ファースト」で考えてみる
こういうとき、わが国には「まず法律論から入る」という悪弊がある。「何をすべきか」を考える前に、「ここまでならできる」という法解釈の議論が始まってしまうのだ。既に下記のような整理がなされている2。① 自衛隊法に基づく「海上警備行動」→この場合、日本関連の船舶は警備できるが、他国の船舶は守れない。
② 「海賊対処法」→既に海上自衛隊はソマリア沖で活動を行っているが、相手が海賊ではなく、イラン革命防衛隊となると話は別である。
③ 2015年に決めた「平和安保法制」に基づく枠組み→しかし「重要影響事態」や「存立危機事態」を認定するためのハードルは高い。
④ 新たな特別措置法を制定する→国会の審議には時間がかかるし、平和安保法制の不備を認めることにもなる。
今回も最後は④に落ち着くのかもしれないが、こんな形で事件があるたびに、泥縄式に特別措置法を積み上げてきたのが過去の日本の防衛政策である。ところが苦労して作った特措法は、次に発生する事態には使えない。この際、いったん法律論は棚上げして、「ジャパン・ファースト」で考えてみたらどうなるだろうか。
そもそも論で言えば、ホルムズ海峡の防衛は「日本のシーレーンをどうやって確保するか」という話である。日本が海外に資源とエネルギーを依存している限り、この問題からは逃れられない。「もっと石油の供給を中東以外に分散すべきだ」とか、「再生可能エネルギーの比率を高めよ」といった議論もあるだろうが、それは根本的な解決にはつながらない。
これは一種の地政学の問題であるから、幕末に林子平や勝海舟が国防を考えた頃から本質的に変わってはいない。彼らは日本地図を見ながら、「これだけの海域を守る海軍力を維持するの大変だ」と考えたはずである。海軍力を維持するためには、かなり経済力が必要となる。その経済力を守るためにも、一定の海上防衛力を持たなければならない。つまりはひとかどの海洋国家であらねばならない、というのが日本の地理的条件である。
しかも日本の近隣には、中国とロシアという大陸国家がある。となれば、ほかの海洋大国と同盟関係を結ぶことが自然な選択となる。かつての日英同盟、戦後の日米同盟がまさにそれであった。
現在進行中の事態は、その米国が「同盟疲れ」もしくは「国内回帰」を求めているということであろう。もしも日米同盟が維持できなくなった場合は、どうすればいいのか。つまるところ、「自国の船は自国で守る」という原則に基づいて、海上自衛隊が日本のタンカーを護衛する任務に就くべきであろう。もちろん「自衛隊の海外派兵は、憲法違反であり絶対反対」という声はあるだろう。だがそれは、少なくとも「ジャパン・ファースト」(日本を優先する)の議論ではないというべきである。
●1997 年、トーケル・パターソン論文の卓見
と、ここで筆者は古い論文のことを思い出した。岡崎研究所が誕生して間もない1997年に行われた「日米同盟プロジェクト」で、元米海軍の知日派、トーケル・パターソン氏が寄稿した「自衛隊の将来のロールアンドミッション」である3。冒頭の描写にインパクトがある。
「海上自衛隊の2隻のイージス護衛艦がアラビア湾の哨戒に当たっている。リヤドにある米軍 の航空基地からは、日本のAWACS1個飛行隊が作戦行動を行っている。…(中略)…それと同 時に、陸上自衛隊の平和維持部隊が、国連の承認の下で完全武装しつつゴラン高原とヨルダン川 西岸地区のパトロールに当たっている」上記は「2007年のアラビア湾」という設定になっていて、90年代当時の米軍が「日本が中東でここまでやってくれたら…」と考えたシミュレーションなのである。
ここに描かれたアイデアは、2000年10月の第1回アーミテージ・レポートにも流れ込んでいる(パターソン氏はメンバーの1人であった)。ところが97年時点のこの論文を読み返してみると、以下のような指摘がされていることに新鮮な驚きがある。
1. 日本は歴史的な背景から軍事的なものへの嫌悪感が強く、出生率も下がっているので軍事大国にはなりそうもない。核武装も考えにくい。
2. 自衛隊のRole and Mission は本質的に防衛的である。災害出動が自衛隊の主要な任務と考えられている。今後は地域内の平和維持活動、在留邦人の引き上げ、地域的な危機(朝鮮半島危機など)への対応も考えるべきである。
3. 自衛隊は米軍を補完する存在であることが望ましい。米国はハワイ、グアム周辺まで撤退し、日本には自分で身を守らせるべきとの主張もあるが、その場合の日本は防衛費を著しく増加させ、より攻撃的な性格を持つことになるだろう。
4. 日本は中東における行動能力を含んだ政策を考慮すべきである。ほとんどの石油を中東から輸入しており、ペルシャ湾周辺で起きる出来事は死活的な利益となる。
5. 冒頭のシナリオのようなことを言うと、日本人の反応は「結構いいけど、××だから不可能」といったものになる。しかしこれは政治的意思とリーダーシップの問題である。
ホルムズ海峡をめぐる課題は、22年前の当時から本質的に変わってはいないことに気づかされる。それに対する日本側の腰の引けた対応も含めて、である。そして「日本には自分で身を守らせろ」というかつての少数意見4は、今では米大統領の持論になってしまった。
さて、どうするか。かなり重い「夏休みの宿題」と言えそうだ。
1https://special.sankei.com/a/international/article/20190729/0001.html?fbclid=IwAR3mTzYs7EMZlPfRFgsv5hjL7qTs6H68mWhuvv37e_rQ4EQDdlgARbYohP0 (あいにく有料ページですが)
2 有志連合、日本参加に「4 つの法的枠組み」実現には課題(産経新聞、7 月11 日)など
3 もはや当時の岡崎研究所ホームページは残っていないのだが、下記のサイトで邦訳を読むことができる。https://web.archive.org/web/20040623051831/http://www.glocomnet.or.jp/okazaki-inst/alliance-projap/patterson.jap.html
4 脚注には、「チャーマーズ・ジョンソンやケイトー研究所の論文を参照」とある。
- 吉崎達彦(かんべえ)
- 双日総合研究所取締役副所長・同主任エコノミスト。



