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特集:ホルムズ海峡「有志連合」への論点整理

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今週は7月30日の産経新聞紙面で、「ホルムズ海峡座談会」に登場する機会がありました1。坂元一哉・大阪大学教授と湯浅博・客員論説委員とともに、米国が呼びかける「有志連合」の参加問題をどう考えるかを長時間にわたって議論しました。たいへん勉強になったので、ここであらためて論点を整理しておこうと考えました。

この手の議論は、つい「法的枠組み」の話に収斂しがちです。しかし日本にとって大事なことは何か、「そもそも論」で考えてみる必要がある。しかもなるべく現実的で可能な範囲内でなければなりません。この夏の重い宿題という感があります。

●選挙後の8月は外交の宿題がいっぱい

7月21日の参議院選挙は予想通り与党が勝利し、今週は8月1日から臨時国会が召集されている。と言っても、大きな懸案があるわけではなく、参議院人事を決める程度で5日には閉会する。今年の政治日程は「ダブル選挙になっても対応できるように」と、8月上旬がほとんど空白になっている。この後は8月15日の全国戦没者追悼式まで、政治家にとっては御礼回りと骨休めの「夏休み」ということになるだろう。

そして下旬になると外交日程が重なっている。①仏ビアリッツでのG7サミット(西側先進国の一致)、②横浜でのTICADⅦ(対アフリカ外交)、そして③ウラジオストックでの東方経済フォーラム(日ロ平和交渉)の3点である。 この3つが済んでから、内閣改造と自民党役員人事が行われる。「麻生副総理―菅官房長官―二階幹事長」という現内閣の骨格が変わるのか、変わらないのか。あるいは「ポスト安倍」に向けた陣容や、若手の抜擢があるかどうかが注目点となる。

○今後の主要政治外交日程
臨時国会召集(8/1)→参院議長人事など
日米通商交渉閣僚級協議(ワシントンDC、8/1-2)
RCEP 閣僚会合(北京、8/2-3)
内閣府が4-6 月期GDP 速報値を公表(8/9)
全国戦没者追悼式(8/15)
ジャクソンホール会議(米ワイオミング州、8/22-24)
G7 首脳会議(仏ビアリッツ、8/25-27)
GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)自動延長停止期限(8/24)
TICAD Ⅶ(横浜、8/28-30)
東方経済フォーラム(ウラジオストック、9/4)
内閣改造、自民党役員人事(9 月中旬)
国連総会(ニューヨーク、9/17~)→安倍首相が訪米、日米首脳会談?
ラグビーW杯開幕(9/20)
消費税を10%に引き上げ(10/1)

ところがこの間の外交日程には、下記のようにいくつもの難問が重なっている。安倍政権は「夏休みの宿題」をどっさり抱えているような状態である。

① 日米通商協議:たぶん9月下旬の安倍首相訪米が合意に向けての山場となるだろう。両国の国益がぶつかり合う「農産物と自動車」で合意を得ることはできるのか。合意内容を協定にまとめ、秋の臨時国会で承認を取り付ける作業も必要になる。

② ホルムズ海峡「有志連合」への参加:海上自衛隊をペルシャ湾に派遣すべきか、その場合はどんな条件、任務、そして法的枠組みとなるのか。さらにはイランとの関係をどう維持するか、などの問題を抱えている。

③ 日ロ交渉:「領土問題を解決して日ロ平和条約の締結を」と言い続けて久しいが、昨今のプーチン大統領は国内的な支持の低下から、領土問題で妥協するほどの政治力はなさそう。そろそろ「新たなアプローチ」を幕引きすべきタイミングかもしれない。

④ 日韓関係:半導体材料の輸出管理問題で韓国を「ホワイト国」から除外すれば、先方はあらゆる手段を用いて対抗してくるだろう。特に第三国に対する働きかけは、こちらは嫌々だが、向こうは全力を挙げてくるという非対称性がある。

⑤ 日朝関係:「前提条件を付けずに金正恩委員長と会う」意欲を表明したが、ここへきて北朝鮮は新たな「飛翔体」を発射するなど不穏な動きが続いている。日朝が「拉致問題」を協議する機運が熟しているようにはみえない。

「近隣外交」でうまくいっているのは日中関係だけ、と言うと皮肉に聞こえるだろう。上記のうち、日韓関係については国内に広範な支持がありそうだ。日ロ、日朝関係については、もとより期待値が高いとは言いがたい。となれば、一番厄介な夏休みの宿題は、意外にも「日米関係」ということになるのではないか。トランプ大統領との良好な関係は安倍首相の政治的資産だが、かならずしも安心してはいられないようにみえる。

●日米安保条約は本当に不公平なのか

トランプ大統領は過去に何度も「日米安保条約は不公平」と発言している。以下は6月29日の大阪G20後の記者会見におけるもの。
「(日米安保は)不公平な合意だ。もし日本が攻撃されれば、私たちは日本のために戦う。 米国が攻撃されても日本は戦う必要はない」
「もし私たちが日本を助けるなら、日本も私たちを助けないといけない。首相はそれをわか っているし、異論はないだろう」
日米安保条約は、もともと日本が基地(モノ)を提供して、アメリカが軍隊(ヒト)を提供するという「モノとヒトとの協力」である。その時点で既に、不公平と言われたら全くその通り。米ソ冷戦という特殊な状況下において、戦勝国と敗戦国が結んだ条約であったからこそ、こんな不思議な関係が誕生した。

しかし冷戦終了後の1996年、橋本首相とクリントン大統領の間で日米同盟再定義が行われ、「日米同盟はアジア太平洋地域の公共財」ということになった。日本は米国の世界戦略全体に協力し、加えて「思いやり予算」のような配慮も行う。だから日米安保条約は相互的ではないが、日米同盟は双務的である。トランプ大統領は、いちおうこの手の説明は納得したうえで、「そもそも論」を提起しているようである。

ただしトランプ発言には、”Don’t take him literally, but seriously.”(彼のことは真面目に受け止めるべきだが、言い分を字義通りに解すべきではない)という金言もある。仮に日本側が、「憲法を改正して、日米安保条約もフルスペックなものに変えました。もうこれで、ハワイでも西海岸でも助けに行けますから!」となどと言ったとしても、それで喜ばれるかというと話は別である。おそらく「そんなに強くないくせに、生意気を言うんじゃない!」などと、冷たい反応が返ってくるのではないだろうか。

察するにトランプ氏が言わんとしているのは、「今までの米国は外国に対して寛大過ぎた」ということである。これはトランプ支持者の心に「刺さる」ナラティブである。だからこそ2016年の大統領選挙以来、何度も繰り返している。もう少し敷衍すると、「それは外国(この場合は日本)が悪いからではなく、今までの米国の指導者が間違っていた、自分はそれを正すのだ」という気持ちが込められている。米中貿易戦争、イラン核合意からの離脱、NAFTA見直しなど、トランプ外交の多くの課題がこの発想を起点としている。トランプ氏の発言はしばしば突拍子もなく、理解に苦しむことが多いけれども、「2020年の再選を目指している」という一点では整合性があるし、きわめて合理的なのである。

それでは日米安保条約は急いで改定すべきなのだろうか。たぶん米国側からみれば、それは望ましいことではあるが、優先順位はそれほど高くない。むしろ中国との技術覇権競争が懸かっているサイバー空間や宇宙開発などでの日米協力の方が、焦眉の急というものであろう。つくづくトランプ発言は、「字義通り」(Literally)ではなく、「真面目に」(Seriously)受け止めなければならないのである。

●「有志連合」に参加する際の注意点

他方、イラン情勢が緊迫し、ホルムズ海峡の周辺でタンカーへの襲撃や拿捕が頻発している状態を受けて、トランプ大統領は
「何の補償もなく、なぜ米国が他国の輸送路を守っているのか」「自国の船は自国で守るべき」
とも言っている。これに対しては、「まことにごもっとも」と応じるほかはない。

日本に入ってくる石油の8割がホルムズ海峡を通ってくる。この事実はずっと前から変わってはいない。そして1979年にホメイニ革命があり、米国とイランの関係が悪いという状況も過去40年間続いていることである。「なぜ今までこの状態を放置していたのか」と問われれば、「米国のリーダーシップを信用してきたから」ということに尽きる。

ところが米国はオバマ大統領の時代から、「もう世界の警察官ではない」と言い始めた。トランプ大統領も同様だし、この次に民主党政権に戻ったとしてもその部分はもう変わりそうにない。そしてシェール革命のお陰で、米国はサウジアラビアやロシアをしのぐ産油国となり、エネルギーの中東依存度は低下している。米国の中東への関与が低下するのであれば、シーレーン防衛の負担はより多くの国がそれぞれ担うほかはない。

ところが、米国が「ホルムズ海峡を守る有志連合(Coalition of the Willing)結成を呼びかける」となると話は少し違ってくる。

特に欧州諸国の反応は微妙である。ドイツは7月31日に不参加を表明した。そうでなくても「ドイツ嫌い」のトランプ大統領は、「経済大国のくせに!」と怒り心頭であろう。ただしドイツとしては、あくまで外交によるイランとの緊張緩和を目指しており、米国主導の有志連合ではそれが困難になるという考え方である。

英国も悩ましい。イラク戦争の際には、まさに「有志連合」の名の下に参戦した。「サダム・フセインが大量破壊兵器を開発している」という諜報を信じたからだが、それが誤りであったという経験がトラウマになっている。世論の反発が強い中で、ボリス・ジョンソン新首相は有志連合への参加をどう判断するのか。仏ビアリッツG7会合でトランプ大統領との初会談が行われるだろうが、「似た者同士」の化学反応に注目である。

日本としても難しい判断を迫られる。6月13日には、安倍首相がわが国首相として41年ぶりにイラン訪問を果たし、最高指導者ハメネイ師と会談している。ところがまさにそのタイミングで、日本のタンカーがホルムズ海峡近辺で攻撃を受けた。誰の仕業なのか、日本の船と知っての犯行なのか、その意図は何だったのかなど、多くの点が謎のままである。米国は「イラン革命防衛隊の犯行」としているが、日本政府は判断を留保している。

日本が有志連合に参加すれば、イランは当然反発する。これまで維持してきたイランとの関係が悪化する。今までの日本は、41年間にわたって米国の顔色を窺ってイラン訪問を控えてきた。それが今回は、安倍首相がトランプ大統領からじかに頼まれて行ったわけである。この成果を無にするのは、さすがに惜しい。「有志連合の中身」を精査しないと、軽々しくは乗れない話なのである。

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