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大船渡・佐々木朗希投手の決勝戦温存は間違っている - 広岡達朗

遅かった梅雨明けを待って、今年も8月6日から高校野球の甲子園大会が始まる。厳しい地方予選を勝ち抜いた49校が憧れの甲子園の土を踏むが、これまでの地方予選で全国の注目をあびたのが岩手・大船渡高校の佐々木朗希(ろうき)投手だった。

甲子園常連校でもない地方の公立高校が予選で負けても、新聞の地方版を飾る程度のニュースである。ところが大船渡の敗退はスポーツ新聞だけでなく、一般紙の社説や社会面も取り上げ、テレビのワイドショーを賑わせた。最高球速163キロの逸材であるエース・佐々木が、甲子園まであと一歩の決勝戦を登板回避したからだ。

野球ファン以外の国民をも巻き込んで賛否両論の大問題になったが、私は故障でもないエースを決勝戦で温存した監督の判断には反対だ。間違っている。

報道によると、32歳の國保(こくぼ)陽平監督は決勝戦後、「投げられる状態ではあったかもしれないが、私が判断した。理由は故障を防ぐため。もちろん本人に『投げなさい』と言えば投げたと思うが、(連投によるダメージ、暑さなどを考えれば)この3年間の中で一番壊れる可能性が高いのかなと思った。私にはその(佐々木起用の)決断はできませんでした」と語った。

身長190センチで、花巻東高校時代の大谷翔平より速い163キロを投げた佐々木は、この県予選でそれほど疲労困憊(こんぱい)していたのか。

振り返ってみると、初登板の2回戦は先発2回で19球、中1日置いた3回戦は6回93球の完封でいずれもコールド勝ち。中2日置いた4回戦では延長12回を194球で完投したが、翌日の準々決勝は登板せず、2日間休養している。

そして7月24日の準決勝では129球を投げて完封、翌25日の花巻東との決勝戦は登板を回避して2-12で完敗した。

この間、4試合29回で計435球を投げ、9安打51奪三振、自責点2で防御率0.62。つまり、1984(昭和59)年以来35年ぶりに悲願の甲子園をめざしたエースにしては休み休みの登板で、初めての連投となる決勝戦を「故障の恐れがあるので登板回避」したことになる。

みんな甲子園をめざして練習している

私も県立呉三津田高校のとき、甲子園にあと一歩の決勝戦で惜敗した悔しい経験がある。昔から高校生はみんな甲子園をめざして練習に励み、過酷な試合を勝ち抜いてきた。

その夢が目の前にぶら下がっている試合に、エースの将来を心配して登板させないのはおかしい。もちろん監督が、選手の体と将来のために万全の配慮をするのは当然だ。しかし先述のような試合状況で、故障もないのに優勝が期待できる絶対エースを温存させていいのか。佐々木のためには万全の配慮だったかもしれないが、初めての甲子園を目の前にして、強豪・花巻東に2-12で完敗したチームメイトの気持ちはどうなるのか。

とくに大船渡の場合、甲子園の夢を失ったのは選手だけではない。2011年3月の東日本大震災で、大船渡市は甚大な被害を受けた。佐々木が生まれた隣町の陸前高田市も死者1555人、行方不明者223人(当時)の犠牲者を出し、当時9歳だった佐々木も自宅が津波に呑まれて父親と祖父、祖母を失っている。惨事から8年間、復興に努め、佐々木とともに甲子園出場を夢見てきた郷土の人たちの失望も大きいはずだ。

もちろん國保監督も、苦渋の決断だったろう。筑波大学卒業後、社会人クラブを経てアメリカの独立リーグでプレーした監督は、MLBドラフト1位の投手が故障のためにわずか5年でメジャーから姿を消した現実を見てきた、という報道もある。

また、大学で体育専門学を学び、アメリカで故障の怖さを間近に見た監督は、「佐々木は身長190センチで、なお骨は成長中。無理をさせるわけにはいかなかった」という話もある。

たしかに小中学生など、骨格が成長過程の時期は間違った投げ方や無理な練習をさせてはいけない。旧知の整形外科医も、「若いときは骨が成長期で柔らかいから、同じ方向の運動を繰り返すといびつな骨格になる。体の左右が平等に成長するように気をつけなければいけない」と言っている。

つまり、「偏らないトレーニングで左右のバランスがとれた体をつくれ」と言っているのであって、投手に球を投げさせるなと言っているのではない。

「投げすぎで投手の肩は壊れない」

骨は筋力、つまり靭帯が鍛えられて強くなる。だから投手も、一番無理がきく高校時代にしっかり走り込みと投げ込みで鍛え上げなければ、いい骨にはならないのだ。

これまでも甲子園まで勝ち上がってきた投手は、練習や試合で一日に何百球も投げ込んできたはずだ。それがみんな肩を壊したか。

私も現役時代に戦った球界勝利数トップ3の金田正一(国鉄)、米田哲也(阪急)、小山正明(阪神)は、雑誌の座談会で「投げすぎで投手の肩は壊れない」と口をそろえている。佐々木の場合、監督は「連投させると壊れる可能性が高いので(起用を)決断できなかった」と言うが、予選でこんなに大事に使っても「連投したら壊れる」としたら、どんな練習をしてきたのだろう。

「球界の宝」になる才能だから壊すわけにはいかない、というのなら話は逆だ。予選で一度も連投できないようでは甲子園に進んでも勝ち残ることはできないだろうし、過保護に育った投手が将来、プロ野球で成功するとは思えない。

*   *   *

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