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全国の福祉事務所への元警察官天下り配置を撤廃させましょう! 越智祥太

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■厚労省は、全国の福祉事務所に警察官OB配置を要請。「セーフティネット支援事業」で。

2012年3月1日、都道府県や政令指定都市の担当課長を集めた「社会・援護局関係主管課長会議」において、厚労省は、「不正受給対策」や「暴力団対策」を名目として、全国自治体の福祉事務所に、警察官OBの配置を積極的に検討するよう要請しました。

退職した元警察官を、全国の福祉事務所に天下り配置せよということです。

2010年度に既に74自治体で警察官OBが配置されていることが明らかになりました。これは国の「セーフティネット支援対策等事業費補助金」を使って配置した自治体数に過ぎず、独自予算で配置している自治体を含めれば、現在その数は更に増えているでしょう。

■生活保護支出の表面的「抑制」にただ躍起となる国や自治体と、「不正受給」対策の実態。

生活保護受給者は未曾有の210万人に至り、支出「抑制」に、国や自治体は懸命です。

生活保護に占める「不正受給」は、全国で概ね0.4%程度とされています。その中には「子供や自分のアルバイトを申告しなかった」等の軽微な「不正」も多く、「暴力団」が絡む等の悪質例は僅かとされます。これは横浜市との交渉に際し、保護課長自ら認めたことです。

因みに、厚労省は、生活保護の「就労収入積立制度」創設方針を一方で出しました。「子供や自分のアルバイト」を一律「不正受給」とし、自立支援に欠けた「出口問題」を認め、就労収入を自立への積み立てに認めたのです。すると更に「不正受給」数は減るはずです。

その僅かな悪質「不正受給」対策に、全国に警察官OBを雇用して、どれほど生活保護支出の減少に繋がるのでしょうか。大量の警察官OBの雇用支出はどうなるのでしょうか。

橋下氏が市長の大阪市は、2012年4月から、全24区に、警察官OBとケースワーカーOBと福祉職員の3人1チームの「不正受給調査専任チーム」を配置しました。日本最大のドヤ街・釜ヶ崎(あいりん地区)のある西成区には特に2チームを配置しています。住民の密告を受け、同棲女性の有無を洗濯物で確認する張り込みや、パチンコ屋やノミ屋への聞き込み等の「捜査」に当たっています。

また、橋下氏が府知事時代の2009年には、大阪府豊中市で、警察官OBが生活保護受給者に「虫けら」等の暴言を吐き、大阪弁護士会が再発防止勧告をした事件が起きています。これが「セーフティネット支援」で、最底辺の福祉を担う場で行われることでしょうか。今後同じことが全国で、皆さんの地元でも行われ、福祉事務所が「警察化」するのです。

■社会の内に弱い「敵」を作り、叩き、喜び、ごまかす政府・マスコミと、乗せられる我々。

表面に見えやすい小さな問題をあたかも全問題のように宣伝し、市民の「敵」を作り、つるし上げ、対策を立てたと誤魔化し、場当たり的な対応に汲々とする間に、根本の大切なものを崩壊させる……日本の行政は、昨今、このような愚を繰り返してきました。

震災後の被災地支援や原発問題も、「がれき受け入れ」や「除染」や「電力不足」ばかりが取り上げられ、被災地の安全と就労(就労あっての生活である)の確保や、被曝の深刻さ(それは現在の大問題でも、人類史・地球史的問題でもある)は放り投げられています。

精神科では、医療観察法が、今回の警察官OB配置問題と酷似しています。小泉首相時代、凶行事件の加害者に精神疾患があり(後に否定)、「野放し」とマスコミは書き叩きました。実際は精神科患者の犯罪率は一般より低いのに、刑務所医療の貧困や、刑法39条の是非や、犯罪の疾患因性や再犯の予測困難等の検討は棚上げし、「保安処分」として医療観察法が制定されました。

僅かな「触法精神障害者」対策への莫大な「ハコモノ」建設費と人件費のため、一般精神科福祉予算は削られ、社会的入院をなくし地域生活を支える体制は遅れたままです。精神科患者は「潜在的犯罪者」で、「病を利用し刑を不正に免れる」という差別観を残し……。本来、十分なメンタルヘルスが一般の悲惨な事件も防ぐのですが。

■困窮者は「不正」な「潜在的犯罪者」で「治安」対象なのか。一方今日も衰弱死が……。

警察官OB配置の基底には、「生活保護受給者=働けるのに不労所得を不正に得て楽をしている人」という感情的な観点があります。「虫けら」発言は、それに裏打ちされています。社会から逸脱した困窮者は「害虫」、生活保護は権利でなく「不正」、困窮者は「潜在的犯罪者」、福祉でなく「治安」対象、という観点からしか警察を入れる発想は出てきません。

警察官OB配置は、「不正受給」対策といいながら、困窮者の相談を威圧し、生活保護新規申請を抑制するのが真の目的です。実際、既に各地で「窓口抑制」が報告されています。生活保護を申請する困窮者は、「不正」な「潜在的犯罪者」なのでしょうか。

野宿に至った困窮者が、横浜のドヤ街・寿町の自立支援施設を経て、寿町診療所に来診します。元々の日雇労働者が放埓の果てに高齢化し仕事をせず野宿に至る、という一般に抱かれやすい印象と異なり、若い非正規労働者や、先日まで普通に家庭を営み普通に仕事をしていた中高年者が、不況で首切りに遭い、家庭の支えも失い、ネットカフェで夜を明かし日雇い仕事を探し、ついに貯えが尽き、体も心も壊し、自殺も考えるまでの自棄を伴い野宿しているところを巡回相談に遇い、福祉事務所に相談する例が多いのです。

福祉事務所に相談しても拒絶された孤独死、餓死の報道も後を絶ちません。震災と被曝から失職し、離散し、難民化し、行政に打ち捨てられた家族も多いままです。今や誰もが福祉事務所に相談してもおかしくない状況であり、明日は我が身です。生活保護は、誰でも困窮状況に陥った時に、最低限の衣食住や医療などの文化的生活を営める権利(生存権)の保障であり、最底辺のセーフティネットのはずです。

困窮者は特別な「不正」な存在でなく、改善すべき「不正」は失政にこそあるはずです。困窮者を威圧しても、困窮社会は改善せず、孤独死や衰弱死がいっそう増えるだけです。困難な世相で、官製の弱者いじめに励み、気付けば社会が著しく歪み、みな破滅した、戦前の日本やドイツと同じ流れに陥るか陥らないか、重大な局面に今、我々はいるのです。

■福祉にそぐわない「治安」要員の警察官OB天下りは撤廃し、ワーカーこそ増やすべし。

生活保護担当ワーカーは、基準を遙かに超過する1人当たり100人以上の受給者を担当し、しかも新規受容から自立支援まで、各受給者の事情に即した生活全般に亙る繊細な対応を要し、多忙で疲弊しています。心ない対応の報道が絶えない背景には疲弊があります。

警察官OBが何の助けになるのでしょう。恫喝して生活保護者を減らして楽にするのでしょうか。ここでも精神科「処遇困難者」と「触法障害者」が安易に同一視され「医療観察法」が出来た流れを想起します。窓口で荒れる「対応困難者」を「暴力団対策」の名で制圧する組織防衛員として重宝するのでしょうか。荒れる背景に、身体不調や疲弊衰弱や、認知障碍や知的障碍等の心身失調が往々にしてあることを、医療福祉関係者はよく知っているはずです。「治安」先行が福祉に適するのか、表面的「治安」を安易に採ることで福祉総体がどうなってしまうか、福祉事務所職員をはじめ、医療福祉関係者で熟考すべきです。

警察の治安的観点と、困窮者の生活や健康を支える福祉的観点とは、本来相容れません。そもそも、街の暴力団の組事務所は全く手付かずで、ノミ屋をアリバイ的に摘発するだけで、癒着まで指摘される警察のOBが、一体どんな「暴力団対策」をするというのでしょうか。人権無視の警察署にこそ福祉的観点が入ってしかるべきではないのでしょうか。

政府は「天下り撲滅」を公約に掲げました。警察官だけ何故度外視されるのでしょうか。警察官OB天下り配置は撤廃し、その予算で細やかな対応の出来るワーカーをもっと増やし、困窮者への相談の層を厚くすべきです。それこそが「セーフティネット支援」です。

■横浜市との交渉と、全国集会の報告。厚労省および横浜市への署名運動ご協力のお願い。

横浜市は全国に先駆け、1960年代から福祉専門職を福祉事務所に採用し、周辺医療福祉機関からも一定の信頼を集め、他自治体のモデルともなり、福祉職員の矜持もありました。しかし2012年4月から、遂に4人の警察官OBを市庁健康福祉局留めで配置しました。

当初は各区1人及び本庁健康福祉局1人の計19人を配置予定だったのを、役所の各労組や、寿日労等の寿町支援者の反対で、各区福祉事務所には配置せず、保護課内に「指導適正化対策担当課」を創設し、特に「不正受給」が多いとする中区(寿町がある)、南区、鶴見区、旭区対策の名目で健康福祉局に(悪名高き)神奈川県警から4人配置としたのです。しかし、「要請があれば」各区窓口や訪問にワーカーと同行させる姿勢は崩していません。

横浜市はこれまでの交渉で、警察官OB配置の必然性をまるで説明できず、最近の交渉では、保護課長がのっけから逃げ出す体たらくでした。これからも交渉は継続予定です。4月6日には、東京都大田区で全国集会が開かれました。札幌市、京都市、東京都の新宿や山谷等からも、昨今の生活保護申請の増大と治安施策の危険性が報告されました。

警察官OB配置の帰趨を横浜市の攻防が握っていると、全国から注目が集まっています。

第2回の全国集会は、5月27日に、寿町に近い横浜市中区の労働プラザで開かれます。添付の署名活動を始めました。どなたも署名可能です。ぜひ呼びかけ頂ければ幸いです。
横浜市健康福祉局・各区福祉事務所への元警察官天下り配置の撤廃を求める
全国自治体福祉事務所への元警察官天下り配置の撤廃を求める


皆様が住み働く自治体はどうかご確認頂き、警察官OB配置撤廃の活動を共にし、全国に拡げ、厚労省や国会に働きかけ、医療福祉を治安の具にする動きを廃絶させましょう!

■関連サイト

生活保護問題対策全国会議
http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/blog-entry-24.html

反貧困ネット
http://bit.ly/JMB5pG


越智祥太(おち・しょうた)

精神科医。南晴病院長/寿町診療所勤務。寿医療班/横浜水曜パトロール/蒲田パトロール所属。

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