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【読書感想】本当の翻訳の話をしよう

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本当の翻訳の話をしよう
作者: 村上春樹,柴田元幸
出版社/メーカー: スイッチパブリッシング
発売日: 2019/05/09メディア: 単行本この商品を含むブログを見る

内容紹介
村上春樹と柴田元幸の対談集、ついに刊行決定。
文芸誌『MONKEY』を主な舞台に重ねられた、
小説と翻訳をめぐる対話が一冊に。

【CONTENTS】
帰れ、あの翻訳(村上+柴田)
翻訳の不思議(村上+柴田)
日本翻訳史 明治篇(柴田)
小説に大事なのは礼儀正しさ(村上+柴田)
短篇小説のつくり方(村上+柴田)
共同体から受け継ぐナラティブ——『チャイナ・メン』(村上+柴田)
饒舌と自虐の極北へ——『素晴らしいアメリカ野球』(村上+柴田)
翻訳講座 本当の翻訳の話をしよう(村上+柴田)

 村上春樹さんと柴田元幸さんは、「翻訳」について、これまでも多くの対談集を上梓されています。
 村上春樹さんは、多くの作品の翻訳も手がけておられるのですが、僕自身は海外文学がちょっと苦手なこともあり、気になってはいるものの、なかなか手にとる機会がないんですよね。

 まず、どこから手をつければいいのか、と考えてしまいますし。

 この『本当の翻訳の話をしよう』は、おふたりの「翻訳の技術的な側面」というよりは、「これまで訳してきた(あるいは、いま、訳している)作品についての紹介」に重きが置かれているように感じました。

 おふたりが「どの作品を訳したいか」というのは、現代の海外文学の作家への評価とも結びついているのです。

 翻訳というのは大変な仕事ですから、自分で面白いと感じたものじゃないと、モチベーションも上がらないでしょうし。
村上春樹:あと、フィッツジェラルドの『夜はやさし』も文庫化してほしいよね。森慎一郎さんの訳に僕が序文を書いたんだけど、あの訳はいいと思う。某文庫で昔出ていたのは、ツール・ド・フランス(自動車のロードレース)のことを「フランス大旅行団」と訳してましたからね(笑)。

柴田元幸:いやー、昔は調べようにも手立てがなくて、大変だったですよね。

 「ツール・ド・フランス」が、フランス大旅行団!

 僕も笑ってしまったのですが、それはあの自転車ロードレースが日本で一時期すごくメディアに推されて夜に中継されていた時代があったからなのです。

 この自転車レースが日本で知られるようになった以前のことを思うと、ツールもフランスも簡単な単語であるがゆえに、かえってこんな訳が生まれてしまったのかな、とも思います。日本の出版社の校正担当者のすごさが語られることが多いのですが、こういう「盲点」みたいな出来事もあるのです。

 この本には、村上さんと柴田さんが、「復刊してほしい翻訳小説」をそれぞれ50作ずつ挙げているリストも掲載されています。

 「日本翻訳史」というコーナーもあって、明治時代の翻訳家・黒岩涙香さんの「一度原文を読んで、その記憶をもとに訳しており、訳しはじめてから終わるまで一度も原文を見なかった」という発言も紹介されています。

 いまの感覚でいえば、それを「翻訳」と言っても良いのか?なのですが、それはそれでひとつの「形」にはなっていて、黒岩さんの訳はすごく人気があったんですよね。当時は原文と読み比べて問題点を指摘できる人は少なかったでしょうし。

村上:短篇集の中から二つか三つ訳すのは簡単だけど、一冊分を訳すのはけっこう骨が折れるものです。というのも、短篇集の中にはつまんないものも交じっているから。ところが、カーヴァーとペイリーに関しては、本一冊が丸ごとの作品として成立しているんです。そこがすぐれた短篇専門の作家と、長篇も短篇も書く作家の違うところじゃないかな。

柴田:フィッツジェラルドはどうですか?

村上;フィッツジェラルドの短篇が10あったら、訳す価値があるのは3から3.5くらいで、あとはなくてもいいなと思う。一冊を全部訳すか、セレクションで訳すかの選択も短編小説では大事になってくる。柴田さんはどっちかというとセレクションを大事にしますよね。

柴田:そうですね。生きている作家だとこれからも広がっていく可能性があるからあまり崩したくないんですけど、古い作家だと一冊しか出せない可能性も大きいので、とにかく一番いいのを読んでもらいたいからセレクトします。

村上:サリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』は『セブン・ストーリーズ』でもいいんじゃないかな、と僕は思っていました(笑)。

柴田:僕は『エイト……」かな。最後の「テディ」は訳していて辛かった(笑)。

村上:ちょっと作り過ぎだよね。

柴田:あの世界に入り込んでしまったから、サリンジャーはその後書けなかったんだろうなって思いました。

 どんなにすごい作家でも、すごい短篇ばかりを書いているわけではないのです。

 このふたりだから、ここまで言える、という話ではありますが。

 「訳していて辛い」作品っていうのは、「それを読まされる読者も辛い」よね、たぶん。

 ちなみに、村上さんは、一冊の短篇集に収める作品にはある程度「統一性」を持たせている、とのことでした。

 作家としては「短篇集」を通して読んでもらうことを意識しているけれど、最近では「Kindleで短篇を一作単位で売りたい」とのオファーが来ることも多いそうです。

 この本の後半では、有名作家の良く知られた文章を二人がそれぞれ「翻訳くらべ」しているのです。  レイモンド・チャンドラーの『Playback』(1958)の一節。

"How can such a hard man be so gentle?" she asked wonderingly."
"If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive."
I held her coat for her and we went out to my car. On the way back to the hotel she didn't speak at all.
Playback(1958)

 この太字部分、柴田元幸さんは「日本ではチャンドラーの一番有名な一節」だと仰っています。

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