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二律背反、あるいは若者世代への背信

「弱者の味方になってください」。消費税についての意識を変えようと呼びかけた記事について寄せられた声だ。また、生活保護受給者の方から、生活が苦しくてしょうがないのに、なぜそんなことを言うのか、という声も寄せられた。

私がなぜ消費税を敵視するのは止めようと呼びかけたのか。それは一に社会保障制度の維持のため、二が財政規律維持のためだ。社会保障制度を維持しようとすれば国民負担率が上昇せざるを得ないのは欧米の例をみれば明らか。そして、負担を嫌い自助努力を強調する保守派勢力が根強いアメリカでは、オバマケアなどの最低限の社会保障制度も撤廃しその代わりに減税を、と主張するティーパーティー派などの原理主義的保守勢力があり、実際にその立場にたつトランプ大統領はトランプ減税を実施した。

これに対し、社会保障制度の充実を国是としているような北欧では消費税率は軒並み20%以上、デンマークなど軽減税率もない上に25%だ。社会保障制度を充実させ、国民負担は下げる、それは二律背反だ。

したがって、本来「社会保障制度の充実」を求める立場であるならば、国民負担の増大は同時に提示せざるをえない。それが実直な在り方だ。日本の従来政策は中福祉、中負担。しかし、中福祉であっても、高齢者層の増大によって15年前と比べて10兆円も社会保障費が増大してしまっているので、この制度を維持しようとすると、消費税を始めとする国民負担率は上げざるを得ない。

このやむを得ない提示に対して寄せられる批判は主に2つ。①所得税の累進性を強化し、法人税率を過去に戻すのが先、②予算の無駄遣いを省くのが先、だ。

このいずれも私は否定するものではない。だが、これらに先後関係はない。消費税を含め、いずれもやらなければ、プライマリーバランスの均衡すらおぼつかない。過去の政権が消費税上げで財政均衡に近づけたのに、主に法人税下げでその成果を半減させたという指摘はその通り。

だが、私はそのとき政権を担っていたわけではないし、そのことを良しとしているものでもない。本来は、法人税をそのままにして消費税も上げなければならなかったことは言うまでもない。両方が必要だったというに過ぎない。

また、予算に無駄があるというのもその通り。だが、過去15年を見てみれば、予算の費目のうち増大しているのは、社会保障費と国債関係費(元利金払い費)だけだ。防衛費はイメージと違ってほぼ横ばい。ところが社会保障費は10兆円というきわめて大きいレベルで増大している。とても無駄遣いを省いて何とかなる数字ではない。

本来であるならば、増税で賄うべきであったこの増大分を、国債発行という安易な手段を選択したがゆえに、国債残高は倍増し、それに連れて国債関係費も増大してしまったのだ。そして社会保障費の増大は、後期高齢者医療制度などの医療費が高齢者数の増加によって増大したため。

こういった現実を直視すれば、今の社会保障制度を維持するためには、消費税率上げもやむを得ないところであるし、そもそも消費税を敵視してもしょうがない。アメリカのような弱肉強食世界、医療費を公費で賄う制度などなくしてもよい、と主張するのであれば別であろうが。高齢化社会という現実の中にいる日本においては、冒頭にあげた「弱者の味方」であるためには、あるいは「生活保護」を守るためには、消費税を含めた国民負担の増大を甘受せざるを得ないし、国民に対して正直であろうとすれば、そのことはきちんと訴えざるを得ないのだ。

もちろん、MMTという怪しい理論に乗っかって「通貨発行権」という魔法の杖に頼ればいいと考えるのなら別。だが、魔法の杖にはインフレという恐ろしい反作用がつきまとう。日本のように、基礎的財政支出さえ税収で賄えない国がこれによりかかれば、インフレが起きたとしても止めようがない。直ちに社会保障制度を打ち切るか、その時点で大増税するかしかないが、それは不可能だ。MMTの信奉者はそこを無視している。

「本物の好景気をみせてやる」という訴えがあったが、消費税をなくしてもそれはこない。日本の経済的停滞は人口オーナスによる需要不足が原因。地方の金融機関に中小企業の状況を伺いに訪れているが、異口同音に言われるのが人口減少により将来の需要減少が確実なので、いくら金利がゼロでも、内部留保があっても誰も国内の新規設備投資をしようとしない、という話。

企業だけでもなく個人も同じだろう。将来見通しが不安定なままでは、仮に消費税率分の余剰所得が生じてもタンスに貯めこまれるだけ。そして当然生じるであろうインフレで、その分の貯蓄は意味のないものになるばかりか、日本円に頼るしかない庶民の預貯金はその価値が大きく目減りしてしまうだろう。

もう一つ。弱者の味方を装っている者たちが無視している現実がある。それは、今の無責任な財政の在り方は、世代間不公平を拡大しているということ。国債は60年払いルール。消費税などの負担を嫌い(所得税や法人税上げもすべきであることは既述のとおり。それを言うのはいいが、だからといって消費税が廃止できたり税率下げができるわけでもない)国債増発に頼り続ければ、子供たちの未来にさらに60年払いの重荷を積み増すことになる(国債は形式上国の借金だがそれを返す財源は国民の税金。すなわち国民の借金そのものだ)。そのことについてなぜ無関心でいられるのか?今の問題は、今を生きる私達の責任で解決していくべきだ。こういった現実を無視して「弱者の味方」と声を大にするものが本物だろうか?

社会保障は弱者のための制度。それを支えるのは国民の税金以外にない。魔法の杖に頼り、子供たちの未来に重荷を増やし続けるのはもう終わりにしよう。

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