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「地方創生」では日本の人口減少を食い止めることはできない - 第94回今井照氏(後編)

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地方自治の専門家である今井氏は、現在、日本政府が国策として進めている「地方創生」をさまざまな場で批判している。「間違った理屈からは間違った政策しか生まれない。従って、『地方消滅』という煽り文句から生まれた『地方創生』という国策は、間違った結果を及ぼす」と語るその真意とはいかなるものだろうか?

取材・文/ボブ内藤 撮影/公家勇人

人口減少は、日本全体と地方では別の論理で起きている

みんなの介護 「地方創生」と言うからには、国が地方の活性化、あるいは再生を目標に掲げた政策に違いはないと思いますが、これのどこが間違っているのでしょうか?

今井 地域再生とか、地域活性化という言葉が使われ始めるのは1980年代後半から90年代前半にかけてです。つまりバブル期ですね。一方、「地方創生」という言葉が初めて新聞に登場するのは2014年6月13日、安倍首相が地方創生本部を設置した翌日のことです。

その少し前に「地方消滅」というキーワードも登場しました。『中央公論』という雑誌の2013年12月号に「壊死する地方都市 戦慄するシミュレーション 危ない県はここだ──過疎から消滅へ」という特集が組まれ、その続編として2014年6月号に「消滅する市町村523全リスト」という特集が掲載されました。

みんなの介護 「地方が衰退していく」というだけでなく、自治体を名指しで「消滅する」と断言した点が非常にショッキングで、瞬く間に「バズり」ましたね。

今井 「地方消滅」の理屈は、次のような三段論法でできています。

「①日本の人口は減少する」「②減少しているのは地方だ」「③それは地方から東京に人が移動するからだ」と。

しかし、よくよく考えてみると日本全体の人口が減ることと、地方の人口が減ることとは別の話です。日本全体の人口の増減(①)は、大部分が出生数と死亡数との差で、これを「自然増」「自然減」といいます。それに対して地方の人口の増減(②)の多くは、地域から転出した人と転入した人との差です。こちらは「社会増」「社会減」と言います。

つまり、日本全体の人口減少と地方の人口減少は、まったく別の論理で動いているのです。

みんなの介護 でも、論理の違いはあれ、国も地方も「人口が減っている」というのは間違いない事実ですよね。

今井 でも、ある地域からある地域に誰かが引っ越しをしたとしても(②)、日本全体の人口は変わりません。だから「地方創生」という政策は、日本全体の人口減少(①)という問題を解決する方策にはならない。

都道府県別に見ると、すでに多くの県が20~30年ほど前から人口減少が始まっていて、地方の人口減少は、昨日や今日の新しい出来事ではありません。

ですから、「地方から東京に人が移らなくても良いように地方にミニ東京を作れ(地方中枢都市)」とか、「魅力的な地方を作って東京から移り住む人を増やそう(田園回帰)」とか、「いずれ介護が必要になる都市の高齢者が地方に住めるようにしよう(日本版CCRC)」といった政策は、個別には何らかの効果が得られるかもしれないけれど、日本全体の人口減少を止めることにはつながりません。

なぜ自治体は、国の政策に従わざるを得ないのか?

みんなの介護 しかし、政府の中枢にいる頭の良い人たちが、「地方消滅」の理屈の間違いに気づかないのはなぜなんでしょう?

今井 おっしゃる通り、政府の中枢にいる人たちは、頭の良い人たちであることは間違いないでしょう。むしろ、頭の良い人たちであるからこそ、日本全体の人口減少(①)を食い止めるなんて無理だと悟っているのではないでしょうか。そこでこの失政の責任を自治体に押し付けることにした。

国は法律で自治体に対して地方版総合戦略という計画を策定させましたが、最近の国の評価(KPI)によればやはり総人口は増えなかった。むしろ減っている。あたりまえですね。「地方創生」という政策は人口減少対策には効果がないんですから。

しかしそうなると、それは計画を策定し、実施した自治体が悪いということになっていく。国の責任は免除されて、国は自治体を監視する立場になる。前に述べた「計画統制」そのものです。

みんなの介護 良い結果が望めないにもかかわらず、国が立てた政策に自治体が従わざるを得ないのはなぜですか?

今井 例えば、2014年度の「まち・ひと・しごと創生本部(地方創生本部)」の所管予算として地方の消費喚起等を目的に約2,500億円の交付金がついたのですが、その9割以上がプレミアム付商品券や半額旅行券と化しました。

考えるまでもなく、商品券や旅行券を配っても、潤うのは商業者や旅行関連業者くらいで、これが人口減少に効果を発揮するとは思えない。

「この政策はおかしいのでウチではやらないことにしよう」と決意し、それを実行した自治体があったとしても、「隣町では券を配っているのに、なぜウチでは配らないんだ」と市民から文句が出れば配らざるを得ません。

みんなの介護 市民と直に接している自治体としては、確かにそうせざるを得ないですね。

地方と中央の結びつきが強くなると、ますます中央集権化が進む

今井 一見すると「地方創生」だから地方のために予算を付けているかのように思えますが、結局のところ、省庁や官僚の間での予算獲得競争に使われているだけで、その果実は東京に還元されます。

こういうことは、今に始まったことではない。新幹線や高速道路の建設要請は多くの場合、地方から声が上がるのは確かですが、最終的にこうした交通網が整備されることでいちばん便利になるのは中央です。

こうしたネットワークによって結びつくのは地方と中央であって、地方と地方が結びつくわけではありません。中央はたくさんの地方と結びつくことによって、ますます集権的な機能を強化していくとともに、ビジネス上の利益も得る。

みんなの介護 でも、インターネットが発達した現代では、どこにいても働ける環境が整いつつあります。これは地方にとって、良いことではないですか?

今井 情報通信ネットワークが整備されると、働く場所を選ばないので地方にも雇用が広がるという話はよく聞きますが、実は産業別雇用者数で情報通信業が圧倒的に多いのは東京圏なんです。

どこでも働けるからこそ、人は地方に住むのではなく、大都市圏に住むのです。

「地方を活性化しよう」という目的を達成するには、本来ならば個々の地域に根ざした産業を育成すべきですが、それとは逆にこれまでの国の政策は大都市を中心とする産業に地方を組み込んでいくものになっている。それが「国土の均衡ある発展」という国土計画の肝です。

みんなの介護 そうした大きな流れに抵抗するため、自治体ができることは何でしょう?

今井 国は自治体に対してあれをしろ、これをしろと計画を押しつけてきたり、こういうことをすれば補助金や交付金を出しますよと誘いをかけてきます。そのとき、国の顔色をうかがって唯々諾々と行動してはならない。

では、どうすればいいのか?答えはひとつしかありません。その地域にとって大事なこと、すなわち地域の住民が臨む生活を維持することを基準に考えて行動すれば良いのです。国に頼らず、市民や地域の企業と将来のことを考えに考え抜いて地域づくりに励むことが重要ということです。場合によっては国への面従腹背も必要です。

人口が減るぞという脅しに乗って「地方創生」のあぶく銭を使いまくると、あとでますます困窮します。たとえ人口が何人になろうと、そこに住んでいる人が明日も同じように暮らしていけるようにするのが自治体の仕事です。

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