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吉本興業社長の「ファミリー」発言に芸人が納得しない理由

芸人サイドと事務所側には越えられない壁がある(撮影/平野哲郎)

 雨上がり決死隊・宮迫博之(49)とロンドンブーツ1号2号の田村亮(47)による謝罪会見では、彼らが主張した吉本興業・岡本昭彦社長(52)の“パワハラ発言”に注目が集まった。そこで話題になったのが「ファミリー」だという言葉だ。ライターの井上絵美里氏が、芸能事務所のマネージャーの経験をもとに、芸人側と経営側の関係性について考察する。

【動画あり】宮迫、詐欺グループ“会長”の妻をギュッと抱きしめたシーン

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 7月20日に行われた宮迫博之と田村亮の記者会見で、田村が「本当に僕がファミリーだとするんだったら、僕は子どもだと思っています。子どもが正しいことを、本当に悪いことを謝ろうとしているのを止めるのが親ではないと思います、僕は」とコメントし、その2日後、岡本社長が記者会見で「タレント、社員を含めて吉本興業は全員が家族、ファミリーであると考えております」と発言した。

 この「ファミリー」という言葉について、極楽とんぼの加藤浩次(50)は自身が司会を務める『スッキリ』(日本テレビ系)で、「家族という言葉で僕は、なぁなぁにして欲しくない。なぜなら岡本社長に家族みたいに“頑張ってるか?”、家族みたいに“大丈夫か?”って言葉をかけられたことは、僕は一度もないから」とコメント。タカアンドトシのタカ(43)は自身のインスタグラムで(現在、投稿は削除されている)「ファミリーって言葉を簡単に使うよなぁ。意味わかってんのかなぁ。5990人の芸人はファミリーと感じたことないと思うけどなぁ」と投稿した。

 岡本社長の「ファミリー」というたとえは、危険だと私は感じた。なぜならば、ファミリー(身内)だと会社側が考えていても、すべての芸人が同じように感じているとは、私の経験上、思えないからだ。

◆会社と芸人の間にある「距離」

 私がマネージャーとして働いていた時代、実際に感じたことは、一部のマネージャーと若手芸人の間に“距離”があるということだった。

 マネージャーとして働くことを決めた際には、「誰が売れるかわからない。上下をつけず、みんなと仲良くしよう」と決め、若手芸人と接することを心がけた。若手芸人とコミュニケーションをとることで、どんな仕事ができるのかを聞き出し、クライアントへのプレゼンに役立てられるかもしれないと考えたからだ。

 しかし、実際に若手芸人たちに初めて会った際、気さくに話しかけてきたのは、わずかひとりだけだった。その後、自分から芸人に声をかけても「アンタ、誰だ?」というリアクションをされることもあった。

 新人の私に声をかけてくれた一人の若手芸人から、他の芸人を紹介してもらい、徐々に芸人サイドと仲良くなっていった。そして入社から数ヶ月後、それまで話したことがない芸人と食事をする機会があったので、「なんで今まで、声かけてくれなかったの?」と聞いてみた。すると「いや、怖いですよ。声はかけにくいです」と言われた。「えっ、こんなにフレンドリーなのに?」と驚いたのは、今でも覚えている。

 貫禄があって、白髪が生えたスーツを着た大人が相手ならば、20代の芸人が声をかけられないのはわかるが、当時の私はギャル系の服を着た24歳で、会社でキャッキャと騒いでいた女性マネージャーだ。しかし、彼の意見を聞くと、私は事務所に雇われた会社員であり、“目上の存在”なので、声はかけづらいとのことだった。

 私が、「芸人と仲良くしたい! 売れてほしい!」と思っていても、大半の芸人はたとえ若手マネージャーでも、話しかけることに遠慮をしてしまうようだった。この時、私は自分が “会社側”の人間であり、テレビ出演がほぼ無い芸人との間には、見えない壁があるのかもしれないと悟った。

◆「ファミリー」という言葉はしっくりこない

 ほとんどの若手芸人は、社会人経験がない。高校卒業後、アルバイトをしながら芸人を目指す、という子がほとんどだった。なので、10代や20代の若手芸人に「スーツを着た大人に話しかけろ。人脈のあるマネージャーに自分を売りこめ」とアドバイスしても、彼らにはハードルが高く、実践することは難しいようだった。

 吉本興業の会社のシステムは分からないが、私の経験上、芸人にとって現場マネージャー(タレントの収録現場につきそうマネージャー)とのコミュニケーションは取りやすく、テレビ局へ営業で動き回っている社員とは、会話をする機会が少ない印象だ。

 現場にあまり顔を見せないベテランマネージャーが、若手芸人に気をかけていても、普段から接する機会が少なければ、距離ができてしまうのは仕方がないことだと思う。社長や会長なら、なおさら遠い存在だと感じるだろう。大きな会社であればあるほど、上と下が接する機会は少なくなり、距離ができるのは必然だ。

 かといって、私は上の立場の人間が、全ての部下と仲良くするべきだとは思わない。上には上の仕事があるだろうし、偉い人を怖がる気持ちは、組織の序列を守ったり、気持ちが引き締まったりするかもしれないので、必ずしも、悪いこととは言い切れないと思う。

 しかし、いつ、どこで、自分に対して気にかけているのか分からないような“距離がある”存在が「ファミリー」という言葉を使えば、違和感があるのは当然だ。

 吉本興業の岡本社長が、実際にどのような口調で芸人や社員たちと接していたかは分からない。しかし、もし芸人との“距離”がある状態で「ファミリー」という言葉を使えば、芸人に不信感を抱かせてしまうのは仕方がないことだと私は思う。

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