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騒がないと動かない。鹿児島いじめ自殺事件にみる教育現場と行政の不作為

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メディアが騒ぎ、空気が醸造されないと動かない、動こうとしない事なかれ主義。このようなエートスがある限り、どんなに法律が整備されようが、なんとか調査委員会が設置されようが、いじめの被害はなくならないし、自殺の被害は続くだろう。

厚生労働省の自殺白書によると、15歳から35歳の死因のトップは自殺である(https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/jisatsu/16/dl/1-03.pdf)。しかも、死亡率は10万人あたり18.1と非常に高い。単に「日本は交通事故死や銃による死亡が少ないから自殺がスタンドアウトしてるだけだ」というわけではないのだ。大人の社会がもろにいじめ社会なのに、子どもの陰湿ないじめがなくなるわけがないのだ。

若者の自殺はいじめを原因とすることが多い。

文部科学省の調査だと、いじめが自殺の原因になるのは2%未満なのだそうだが(http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2014/09/10/1351886_05.pdf)真っ赤な間違いである。この調査では以下の文言がある。

「文部科学省においては,平成23年6月1日より,児童生徒の自殺の背景となった可能性のある事実関係に関するできる限り正確なデータをより多く収集・分析し,子供の自殺対策に資するため,「児童生徒の自殺等に関する実態調査」を継続的に実施している」

が、この調査の対象は「学校の管理職が,自殺であると判断したもの及び自殺である可能性が否定できないと判断したもの」である。事なかれ主義の学校管理職がわざわざ上役である文科省に「うちにはこんなに自殺や自殺可能性者がいましたよ」なんて自己申告するわけがない。文科省もそれに気づかないとしたら、よほど胡乱な連中である。

もちろん、文科省だって調査方法の瑕疵には気がついていたに決まっている。彼らは本気の本気で現場の実態を知りたいわけではないのだ。「正確なデータ」にも興味がないのだ。定型的に調査依頼を出し、管理者は文科省の依頼を受けて粛々とそれっぽいデータを回答する。これをまとめて報告書にする。「お役所仕事」のできあがりである。

日本財団が「若者を」対象にした調査によると、18〜22歳の若年層の30%が自殺念慮を持ったことがある。自殺念慮とは、「本気で自殺したいと考えたことがある」ということだ。そして、自殺未遂経験は男性の9%、女性の13%にあった。(当然のことながら)このアンケートには自殺遂行者は回答していない。自殺企図(自殺しようとした)人はもっといたのかもしれない。

そして、自殺念慮の最大の原因はいじめである。自殺念慮の最大の理由は「学校問題」であり、そのうち約半数が「いじめ」問題であった。(https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2019/28707)。

日本における若者の自殺は由々しき問題であり、他国では稀有な問題である。その自殺の最大の原因は学校でのいじめである。そのいじめを学校も教育委員会も、文部科学省も認知しようとしない。「皆が騒いでいない」間は絶対に騒がない。メディアが騒ぎ、空気が醸造されて初めて動く。

そうなるまで何年もタフに家族が戦い抜いたときだけ、メディアは騒いでくれる。家族の消耗、疲弊、犠牲的精神がないと行政は動かないし、動き出したときには子供が自殺してすでに数年が経過している。いじめの加害者たちも、いじめを看過した教師たちも、当時の教育委員会の委員たちも、「もう済んだことだ。騒がないでくれ」という気持ちしか残っていないだろう。なんとしてでもあのときいじめをやめるべきだった、止めるべきだった、というエートスは生まれにくいだろう。

むしろ、「あの母親が執念深く騒ぎ続けなければこんな大事にならずに済んだのに」とあらぬ方向に批判がましい視線が向いてしまいかねない。

いじめを防止するためには、いじめによる自殺を防止するためには、タイムリーないじめの認知が不可欠である。「不都合な」事実を直視する勇気が不可欠である。「再発防止に努める」だけでなく、「再発を素早く、誠実に認識し、対応する」覚悟が必要である。

「覚悟」。これこそが、日本のいじめ対策において、もっとも欠落しているミッシングパーツなのである。

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