- 2019年07月29日 15:15
「できない子」を見捨ててしまう学校の罪
1/2「非行少年」が生まれる原因は、どこにあるのか。立命館大学の宮口幸治教授は「35人のクラスのうち、下から5人の子どもたちは、かつて『知的障害』とされていた時代があった。現代では『境界知能』とも呼ばれるが支援の対象にはなりにくく、そのため不登校や非行に走ってしまうことがある」という――。
※本稿は、宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

"少年院の子"と"学校で困っている子"の共通点
私はもともと児童精神科医で、いまは大学で教えておりますが、並行して幼稚園、小学校、中学校で学校コンサルテーションや教育相談・発達相談なども行っております。そこでケースとして挙がってくる子どもたちの状態は、一筋縄ではいきません。発達や学習の遅れ、発達障害、自傷行為、粗暴行為、いじめ、不登校、非行、親の不適切養育などの課題が入り混じっており、複雑な様相を呈しています。
例えば、次のような子どもの振る舞いや特徴は、相談ケースとしてよく挙がってきます。
・感情コントロールが苦手ですぐにカッとなる
・人とのコミュニケーションがうまくいかない
・集団行動ができない
・忘れ物が多い
・集中できない
・勉強のやる気がない
・やりたくないことをしない
・嘘をつく
・人のせいにする
・じっと座っていられない
・身体の使い方が不器用
・自信がない
・先生の注意を聞けない
・その場に応じた対応ができない
・嫌なことから逃げる
・漢字がなかなか覚えられない
・計算が苦手
などです。
これらを見て、あることに気づきました。私は以前、医療少年院に務めていたのですが、そこに収監される少年たちの学校時代の様子と、学校で困っている少年たちの様子が、極めて似ているのです。
サインの「出し始め」は小学2年生から
私もかつて、少年院に入るような少年たちの生活歴は特別にひどいものだと思っていました。確かに、被虐待歴、家庭内暴力、親の刑務所入所、離婚なども見られるのですが、全員に共通した項目ではなく、むしろ冒頭に挙げた特徴の方が共通していたのです。そして、医療少年院で働く中でさらに気付いたのは、少年院に入る少年たちが特別にひどいのではなく、彼らはこういったサインを小学校・中学校にいる時から出し続けていた、ということでした。
非行少年たちの調書から成育歴を見てみると、先ほど挙げた特徴はだいたい小学2年生くらいから少しずつ見え始めるようになります。これらの背景には、知的障害や発達障害といったその子に固有の問題や、家庭内での虐待といった環境の問題があったりします。
しかし、逆に友だちから馬鹿にされ、イジメに遭ったり、親や先生からは「手がかかるどうしようもない子だ」と思われたりして、単に問題児として扱われてしまい、その背景に気付かれず、結果として問題が深刻化しているというケースもあります。このような子どもたちは、学校にいる間はまだ大人たちの目が届きますが、学校を卒業すると支援の枠から外れてしまいます。
少年院で、ある16歳の少年と面接したときのことです。彼は中学を卒業後、仕事につきましたが、幼女への強制わいせつを犯して逮捕され、少年院に入ってきました。彼に、少年院を出た後、高校に行くつもりはないか、と尋ねると、こう答えました。
「勉強でイライラしてしまう。高校に行けと親から言われて塾に通ったけど、全くついていけず、ストレスがたまって生活もめちゃめちゃになった。小学生の頃から勉強がきつかった。それでイライラして悪いことをやった。もし特別に支援を受けていたら、ストレスが溜まらなかったと思う。(療育)手帳が取れるなら取りたい」
彼はこちらから療育手帳や特別支援教育のことを伝えっていなかったのに、自らその必要性を感じ、訴え続けてきたのでした。しかし、周囲の大人から理解されることはありませんでした。もし小学校で特別支援につながっていたら、彼も少年院には来ていなかったし、被害者を作らなかった可能性もあったのです。
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