- 2019年07月29日 16:02
「タブーにしない」親ががんの子どもを支えるNPO
1/2親ががんになった時。病気がタブー視され、子どもが家族から排除されてしまうことがあります。こうした状況を問題視した、親ががんの子どもを支えるNPOがあります。代表は、自身も乳がんを経験し、夫を自死によって突然失った一人の女性。「がんは自死や事故死と異なり、突然亡くなるわけではない。子どもが孤独や疎外感を感じないように、蚊帳の外に置かずしっかり向き合ってほしい」と強調します。(JAMMIN=山本 めぐみ)
「死」がタブーであるがゆえに子どもが家族から排除されてしまう

NPO法人Hope Tree(ホープツリー)代表理事の大沢(おおさわ)かおりさん(52)。東京都内の病院で、患者や家族の心理・社会的な相談に乗る医療ソーシャルワーカーとして勤務しながら、親ががんの子どもをサポートする団体を立ち上げ、11年前より活動しています。
「まだまだ死が、家族の間でタブーと捉えられていると感じる」と大沢さん。
病院で働いていると、「弱った姿を見せたくない」「まだちゃんと話していないから」と病院へ子どもを連れて来ることを躊躇する親も少なくないといいます。

「しかし、子どもの立場になってみるとどうでしょうか。さよならを言えないままいつの間にかお父さんやお母さんが死んでしまったら、どんな気持ちになるでしょうか。家族間で死がタブーであるがゆえに、子どもが家族から排除されてしまうような構図が浮かび上がってきます」と病気の親を持つ子どもの課題を指摘します。
「患者さんや配偶者の方に話を聞いてみると『自分が死ぬ事は考えたくない』という当然の葛藤や『死を認めたら死が早くやってきてしまうのではないか』という不安を抱えていたりします。気持ちをお伺いしながら、子どもが一人取り残されないためには親御さんにどんなサポートができるのか、慎重に考えて対応していく必要があります」
子どもが親の病気について学びながら気持ちを整理していくプログラムを提供

Hope Treeは、がんの親を持つ子どもを対象にさまざまなプログラムを提供しています。
「親ががんになり『子どもとどう向き合ったらいいのか分からない』『もう先が短いのをどう伝えていいのか分からない』といった時に、子どもと一緒に話や工作をしながら気持ちを表出してもらったり、同じような状況の子どもを集めたりといったプログラムを運営しています」と大沢さん。
そのうちの一つが、がんの親を持つ小学生を対象にした「CLIMB®(クライム)プログラム」です。大沢さんによると、アメリカでは広く用いられているプログラムで、1回2時間のセッションを、週末を利用して6週間連続して行います。

「『いろんな気持ちになるけれどどんな気持ちになってもいいんだよ』ということや、気分が落ち込んだ時や悲しい時、イライラした時はどうしたらいいかをみんなで考えて、溜め込まず、健康的に表出する方法を考えます。そしてがんはどんな病気で、治療にはどんなことをするのかを子どもにもわかるように伝えるプログラムです」
「人形を使って点滴体験をしたり、手術室や放射線治療のお部屋の写真を見せながらこんな治療をするんだよと説明したり、抗がん剤がどうやってがん細胞をやっつけるかを分かりやすく説明した動画を見たりして、子どもたちなりに病気や副作用の理由なども正しく理解します。状況を正しく理解できるようになるので漠然とした不安がなくなります」
「最終的には、親子のコミュニケーションの促進が目的」

「子どものがんの捉え方は、その子の年齢や性格、家族背景によっていろいろ。がんや治療への理解を深めてもらうことで、最終的には親子間のコミュニケーションを促進することが目的です」と大沢さん。
「プログラムに参加して、『今のことはわかったけど、先々はどうなるの?』『具合が悪くなったら何も教えてくれなくなるんじゃないの?』と将来への不安を抱く子もいます。『もし先々疑問や不安が出てきたら、それをお父さんお母さんに聞いていいんだよ、一人で抱え込まなくていいんだよ』ということも必ず伝えるようにしています」

「親御さんが忙しそうにしていたり、あえて病気の話題に触れないような雰囲気を出していたりすると、それは子どもにも伝わります。そして、子どもたちは一人で孤独や不安をどんどん募らせていきます。私たち第三者が関わることで、家族間のタブーを無くし、なんでも話し合える関係を築いてほしい。死というテーマがタブーでなくなると、不安や思いをなんでもぶつけてくれるようになるし、大人が向き合う姿勢を見せると、子どもは必ず向き合ってくれます」
- オルタナS編集部(若者の社会変革を応援)
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