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大船渡・佐々木の起用法は是か非か 有名指導者たちが大激論

怪物の夏は”温存”で終わった(写真/共同通信社)

国保監督の起用法に賛否の声(撮影/藤岡雅樹)

「令和の怪物」の高校最後の夏は、思わぬ結末となった。大船渡(岩手)の163km右腕・佐々木朗希は地方大会決勝に登板せず、チームは10点差で敗れた。この起用法は是か、非か──。

【写真】大船渡高校の国保監督

 大船渡の国保陽平監督は、異色の起用法を貫いた。7月21日の4回戦で佐々木が延長12回194球を投げ抜くと、翌日の準々決勝は完全休養させ、チームは延長の末に辛くも勝ちを拾った。中2日となった準決勝では129球を投げて完封劇を見せるも、甲子園出場がかかった花巻東との決勝には登板せず、リリーフや代打で出場する気配すら見せなかった。

 佐々木が花巻東をはじめ、県内強豪私学の誘いを蹴って地元の公立高校を選んだ理由が、「中学から一緒の仲間と甲子園を目指すため」であることは知られている。そんな“美しい青春”より、佐々木の将来を優先した格好の国保監督は「筑波大出身の32歳で、米独立リーグでプレー経験がある。登板回避の理由を『故障を防ぐこと』とコメントした」(担当記者)のだ。

 有名指導者たちは、この起用法をどうみるか。

◆壊すのが怖い

「国保監督の判断は、英断だと思います」

 そう話すのは昨夏、60年以上に及んだ高校野球の指導者人生にピリオドを打った83歳の豊田義夫氏だ。1965年に近大附属(大阪)の監督に就任し、3度のセンバツ出場に導いた。当時は「キンコーの鬼」の異名と超スパルタ指導で知られたが、50以上も年下の国保監督を「尊敬しますね」と評す。

「僕はエースと心中する野球しかできなかった。幸いなことに、酷使した教え子が大学やプロで潰れた経験はありませんが、休ませる勇気がなくて連投させていた。ただ、佐々木君が投げずに負けて、他の選手に悔いが残ったのではないか」

 一方、球児たちの「卒業後」を見てきた指導者は、少し見解が異なる。ソフトバンクなどで投手コーチを務めた杉本正氏は、1998年夏に767球(6試合)を投げて横浜高校を春夏連覇に導いた松坂大輔(現・中日)が、翌年プロ入りした時の西武の投手コーチだった。

 その杉本氏は「甲子園に行けないことより、佐々木君を壊すほうが怖いと思ったのでしょう」と国保監督を慮った上で、こう続ける。

「僕の経験でいえば、むしろ高校時代に球数を投げていた選手のほうがプロで活躍する印象があるから難しい問題です。松坂もそうだし、東尾修さん(箕島高、1968年春ベスト4)も高校時代から投げ込んできたから200勝できたと言っている。一方で権藤博さんは、プロになってからの話ですが、新人の年からの登板過多がなければもっと勝てたと話していました。

 一概には言えないわけですが、僕は球数を投げないと投手の肩は作れないと思っている。若手にもそう指導してきた。コーチとして見てきた元横浜の三浦大輔や楽天の則本(昂大)も、投げ込んで仕上げ、結果を出してきた。ただ、最近の若い選手はプロになっても球数を投げようとしませんね。先発投手も6回100球になったら降板という時代だからでしょうか」

 そして高校球界でも今、「球数制限」が一大テーマだ。新潟高野連が今春の県大会で独自に「1試合100球」の球数制限を導入しようとしたことをきっかけに、議論が本格化している。

 しかし、「球数制限は世間体を気にした高野連の人気取り」と断じるのは、監督として春夏通算10回の甲子園出場を果たし、その独特な風貌と言動が時に物議を醸した開星高校(島根)元監督の野々村直通氏だ。

「本人や家族が“大学やプロへの道を見据えたい”というなら指導者は寄り添うべきだが、入学時から“高校での野球を全うしたい”と覚悟を決めている親子もいます。

 今回も、基本的には佐々木君がどう考えるかが重要。“腕がちぎれても仲間のために投げたい”と言えば、私なら投げさせる。もちろん、まだ高校生だから限界なのに『大丈夫です。投げられます』と言ったりすることはある。そこは指導者が見抜かないといけない。大事なのは本人の意思と指導者の判断。“投げるのを止めさえすれば名指導者”という風潮はおかしい」

◆「100球まで」の是非

 2013年春の甲子園で準優勝した済美(愛媛)のエース・安楽智大(現・楽天)は1人で772球(5試合)を投げた。当時の上甲正典監督は2014年に他界したが、野々村氏はこう回想する。

「亡くなる前に松山でお会いした時、こんな話をされていました。試合中、上甲監督が当時2年生の安楽に交代を告げたところ、涙を流して“素晴らしい先輩のために勝ちたい。もう1イニングいかせてください”と直訴してきて、続投させたことがあったそうです。

 上甲監督はすべての批判を受け止める覚悟で投げさせた。そういう命がけのやり取りが現場にはある。一律に“100球で交代”と決めるなんて幼稚園レベルです。各選手の体力、精神力を見て起用法を判断するのが指導者の役割でしょう」

 球数制限があれば、全国から選手が集まる強豪私学が有利になり、大船渡のような公立校のチャンスがさらに減るのも事実だろう。

 優先されるべきは何か。怪物・佐々木の起用法を巡る議論は、令和の高校野球に重大な問いを投げかける。

※週刊ポスト2019年8月9日号

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