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実録ルポ/クジラ揚がったぞ!31年ぶり「商業捕鯨」再開

再開1頭めのクジラの水揚げ

 2019年7月1日。官民ともに捕鯨に携わる人たちが待ちに待ったこの日、各捕鯨基地(和歌山県太地町、千葉県南房総市、宮城県石巻市、北海道網走市)から集まった小型捕鯨船5隻が、北海道・釧路港を出港した。

 出漁前には、捕鯨船5隻の前で海の安全と漁の成功を祈る、ささやかなセレモニーが催された。万歳三唱はもちろん、拍手もない−−。多くの人は無言で、再開を見送る。

 31年ぶりの船出は、きわめて静かなものだった。反捕鯨団体からの抗議を警戒してか、海上保安庁と北海道警察の警備艇に見守られての操業開始であった。

 同日の夕刻、2頭のミンククジラが水揚げされた。最初にミンククジラを仕留めたのは南房総市和田浦から来た「第五十一純友丸」。港に戻った船には、頭部がはみ出すほど大型のミンククジラが。記念すべき1頭めは体長8.3mの、申し分ない型だった。

「初日から縁起がいいよ」と、関係者は胸を撫で下ろした。順風満帆に思える門出だが、一度絶たれたものを再構築するのは、並み大抵のことではない。

 今回の操業に乗船した船員たちは、専門家から事前に内臓の位置などのレクチャーを受け、クジラの絵図面を持って出港した。漁師たちの間で、技術の継承が絶たれてしまっているのだ。

 技術だけではない。味覚から日本人としての誇りまで、31年の間に奪われたものは少なくない。やっとの思いで再開にこぎつけた商業捕鯨。だが、問題や課題も山積みなのだ。

《商業捕鯨再開 国際理解軽視の船出》

 6月30日、日本はIWC(国際捕鯨委員会)を脱退。その翌日、水産庁が捕獲枠を公表し、商業捕鯨に踏み切った。それに対して『朝日新聞』は7月9日付けの社説で、上のように見出しを打った。

参考・水産庁「捕鯨をめぐる情勢」(2019年7月)

 では、日本政府のこの対応は、本当に《国際理解軽視》の結果なのだろうか。

 IWCは、クジラの保護と捕鯨産業の発展を目標に1948年に設置され、日本は、1951年に加盟した。水産庁資源管理部国際課の捕鯨室長・高屋繁樹氏が語る。

「IWCの設立当時は、加盟15カ国はすべて捕鯨国でした。ところが、欧米諸国ではおもに鯨油目的で捕鯨がおこなわれており、石油の精製技術が進んで鯨油の需要が減ってくると、反捕鯨の立場をとる加盟国が増えてきたのです」

 そして1982年には、加盟国39カ国のうち、反捕鯨の立場をとる国が27カ国を占め、商業捕鯨の一時停止(モラトリアム)を採択するに至った。

 捕鯨産業の発展を目指していたはずのIWC。だが現在は、クジラを使った国家間のパワーゲームをおこなう、奇妙な団体になっているのだ。

「チェコやスロバキアなど、海のない国も加盟し、反捕鯨の立場をとっています。ですが、ほかの漁業の会議でこれらの国の代表者を見かけたことがありません(苦笑)。

 価値観やイデオロギーの押しつけで否決されたのでは、話が進まないですよ。最初に否定ありきで、すでに国際会議の体をなしていませんでした」(高屋氏)

 捕鯨支持国と反捕鯨国の数は、ほぼ拮抗しており、取り決めや提案の採択には4分の3の票が必要であるため、何も決まらないのが現状だ。

解体前にクジラに日本酒を振りかける作業員たち

「最後は17頭ですからね。17頭」

 高屋氏が悔しさをにじませたのは、2014年に日本政府がIWCに提案した、日本近海でのミンククジラの商業的捕獲枠だ。

 日本政府は、反捕鯨国が出すあらゆる条件をのみ、クジラの保護も十分に可能な枠内で、商業捕鯨の再開を訴えつづけてきた。そこで提案したのが、文句のつけようのない17頭という数字だ。

 しかし反捕鯨国は、この提案にも反対した。

「これは科学的根拠や道理を無視した話で、IWCの当初の目的である『クジラを持続的に利用する』という趣旨からも、まったく逸脱しています」(高屋氏)

 機能不全に陥ったIWC。日本の立て直し策は徒労に終わり、残された方法は脱退しかなかった。

 脱退して有利になることは、けっして多くない。調査捕鯨では南極海にも捕鯨船を派遣していたが、今回の商業捕鯨は日本の領海と排他的経済水域に限られる。

 捕獲数も、調査捕鯨637頭に対し、商業捕鯨では383頭と、4割も減ることになる。もちろんこの数字も、IWCの規定に沿って算出した、「100年間捕獲を継続しても資源に悪影響を与えない」(水産庁)と認められたものだ。

「本当に、心が震えるほど嬉しく、感無量であります。この後も未来永劫、クジラとともに生きていきたい」

 7月1日、出港に先立つ記念式典で、日本小型捕鯨協会の貝良文会長はこのように述べた。

 商業捕鯨を求めたIWCでの攻防や、環境保護団体との折衝は、日本人の尊厳をかけた話し合いであったのだ。

 1日夕方。水揚げされたクジラを、海外メディアや筆者を含めた50数人の報道陣が取り囲んだ。鯨漁師たちは、ほとんど無言のままだ。

 内臓は、沖合で海に戻され、腹の一部が裂かれた状態だ。黒みがかった血が流れる腹の中にも、カメラは向けられる。クジラはそのままトラックに載せられ、車でおよそ30分の解体場に運ばれた。すでに血抜きされているため、搬入の際に血の飛散はない。

 加工担当者たちが全員で、クジラに清酒を振りかけた。場内が、厳かな雰囲気に包まれる。そして、加工場と我々を隔てるシャッターが下ろされた。鯨漁の当事者たちの畏怖の念、31年間の万感の思いを感じた。

取材&文&写真・水本圭亮

(週刊FLASH 2019年8月6日号)

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