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一人の女性の受難と復讐を描いた衝撃作 深田晃司監督インタビュー - 月永 理絵

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 つねに社会を刺激する映画作品を発表し、国内外で大きな注目を浴びる深田晃司監督。2016年にはカンヌ国際映画祭で『淵に立つ』が「ある視点」部門審査員賞を受賞、昨年はインドネシア、フランスとの合作『海を駆ける』も話題を呼んだ。深田監督の最新作『よこがお』は、一人の女性が陥った苦難を通して、現実世界が孕む暴力性を見る者に突き付ける衝撃作。主演は、『淵に立つ』にも出演した筒井真理子さん。

 筒井さんが演じるのは、ある事件を機に突然「加害者」として世間から激しい糾弾を受ける女性、市子。訪問看護師の仕事を奪われ、結婚も破談になった彼女は、自分を陥れた人物への復讐を決意する。社会の理不尽さを一貫して描いてきた深田監督に、最新作『よこがお』の製作経緯から、映画と観客の関係性、俳優の演出術についてお話をうかがった。

◆ ◆ ◆

筒井真理子さんの横顔に惹かれて


深田晃司監督

――『よこがお』は筒井さんの横顔からインスピレーションを受けて作られたそうですね。

『淵に立つ』公開当時に筒井さんが受けた取材記事が新聞に載っていたんですが、その横顔の写真がすごくきれいで。もう一度一緒に映画を作りたいと思い、すぐさま出演オファーをし、脚本も彼女に当て書きする形で書き始めました。だからタイトルもそのまま『よこがお』。筒井さんと話したことがもとで脚本に書き込んだ部分もあるし、彼女との共作的な部分もありますね。

――そうした関係性で俳優さんと一緒に映画を作るのは初めての経験ですか?

深田 僕の映画によく出演している古舘寛治さんとは、個人的に非常に親しいということもあり『淵に立つ』でもざっくばらんに意見交換をしながら撮っていましたが、主演の方と脚本完成前から出演OKをもらいここまで深い関係性で、というのは初めてだと思います。

――筒井さんという俳優さんのどういった部分にそこまで引き込まれていったんでしょうか。

深田 僕は筒井さんを市子ならぬイチローなみの天才的な女優さんだな、と思っていて(笑)。現場では、彼女の脚本の解釈の豊かさ、演技への真摯な取り組み方、すべてに驚かされました。脚本をどう解釈するかによって、筒井さん本人が抱えている複雑さ、深みのようなものが演技にも反映されていくんです。脚本のすべてのシーンにびっしりと書き込みがされているし、訪問看護師の所作などもしっかり勉強してこられる。あるシーンでは、いくつかの演技を試してみたいとお願いされ、3つのパターンで撮影したあとで一番よいものを選ぶこともありました。筒井さんと真剣に向き合いながら映画を作り、俳優とは個性を持った素晴らしい表現者だと改めて実感しました。

――ある日突然暴力的な事件が起こり、そこから罪と罰や赦しをめぐる物語が始まる構成など、前々作である『淵に立つ』とのつながりを強く感じました。

深田 『淵に立つ』や、それに『海を駆ける』ともどこか連続性のある作品だと思っています。『淵に立つ』では浅野忠信さん演じる八坂によって突然暴力にさらされる。『海を駆ける』では津波という自然災害そのものの暴力性や、ディーン・フジオカさん演じるラウの存在によって暴力が体現されている。理由もなく人生が壊されていく理不尽さは、世界が本質的に抱えているもの。いつも自分が普遍的だと思う物語を書いているだけですが、世界にカメラを向けるなかで、自然と同じテーマに行き着くのかもしれません。

復讐の物語というより、人生の空回りを描いた

――『よこがお』は、筒井真理子さん演じる市子の復讐が進む過程で徐々に彼女の過去が明らかになっていきますが、監督は、この映画をいわゆる復讐劇として作られたのでしょうか。

深田 復讐の物語というより、人生の空回りの物語かなと思っています。散々空回りをしたあげく全部何の意味もなかったと悟る。それでも人生はただ続いていくという現実を描いたつもりです。

――市子はある意味で非常に可哀想な人にも見えますが、彼女が幼少期の甥・辰男に対してしたこともかなりショッキングに描かれていますよね。あの行為があることで、彼女がただの無実の被害者とは言えないのかもしれないという感覚が観客にも芽生えてしまう、非常に怖いシーンだなと思いました。

深田 市子は可哀想な被害者である一方、まったく罪のない人間と言い切れない部分もあるんですよね。市子自身は軽いこととして扱っているけれど、辰男は実際にそのことで深く傷ついたのかもしれない。そもそも基子に促されたとはいえ市子がずっと口をつぐんでいたのは、彼女が持つ弱さのせいであり、その弱さこそが罪だったともいえる。でもその弱さは人間誰もが抱えるものだし、そもそも現実世界は、善と悪、罪と罰という二項対立では測れない。そうした曖昧さをそのまま描きたかったんです。

――市川実日子さん演じる基子の市子に対する視線は、いわゆる恋愛的感情と見ていいのでしょうか。

深田 見る人によって捉え方は違うと思いますが、僕としては恋愛感情と言ってもいいんじゃないかと思います。基子は、市子が好きになってだんだんと距離感を見失っていく。同じように、辰男も一目惚れがきっかけで、道を踏み外してしまう。意識していたのは、人が人を好きになることの難しさです。

映画が見せるのはあくまで人生の一過程

――『淵に立つ』も『海を駆ける』もある意味で宙に浮いたまま映画は終わっていて、ラストシーンのその後は見る者に委ねている部分が大きいですよね。『よこがお』でも市子たちのその後は描かれませんが、そうした曖昧さを残した終わり方は、監督にとって大事な部分なのでしょうか。

深田 それは毎回そうでありたいと意識して作っています。映画が見せるのはあくまで人生の一過程。映画の前にも後にも、彼らの生きる時間は続くことを感じてもらいたい。そういう思いが、ある種の曖昧さとして残るのかもしれません。

――監督は『淵に立つ』以来、映画と一緒に小説も同時に発表されています。小説のほうでは、映画では曖昧だった部分がもう少し明らかにされているように感じますが。

深田 そうですね。映画は、あくまで目で見えるものしか映らないというカメラの本質的な特性に依存していて、心を映すためには俳優の演技や台詞によって示す必要がある。ただ、そこに頼りすぎるとあまりにも説明的になってしまうので、できるだけ観客の想像に開かれたものになるよう人物関係や物語構成を気にかけて作っています。小説の場合は、映画に比べればより内面描写がしやすい表現形式なので、自分自身の解釈を多少は書くことができる。ただこれもまた僕の解釈でしかないんですよね。監督と作品の関係ってやっぱり親と子の関係に似ているなと思っていて。親は子供の一番身近にいる存在かもしれないけど、結局、子供のことなんて全部はわかってないじゃないですか。僕が言うことが正しい答えではなく、あくまでも自分にとってはこう見えています、というふうに捉えてほしいんです。

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