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「貧困の壁を越えたイノベーション」。湯浅誠がこども食堂にかかわる理由

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こども食堂を広げる活動に加わったのは、2016年春、東京・池袋でこども食堂をしていた栗林知絵子さんに相談されたのがきっかけです。

実行委員会をつくり、彼女たちと3年かけて全都道府県を回って、こども食堂の必要性を伝えました。私は半分くらいの自治体で基調講演をしたかな。

どこに行ってもやりたい人はいた。ただ、地元で言い出せない雰囲気が根強くある地域もあった。だから知事に応援団として出てきてもらった県もあります。知事が応援する姿勢を見せれば、こども食堂を遠巻きに、それもなんとなく歓迎しない感じで見ていた人たちも動き出すようになるから。

将来は小学校区に1つ、くらいのインフラになればと思っています。だからいずれ、3700カ所のこども食堂の住所を国土地理院のデータベースに落とし込み、小学校区別の「こども食堂ゼロ地域」を特定する調査に取り組みたい。そのデータで自治体と議論できたらと考えています。

インフラになるというのはたとえば「交通安全の見守り」並みの日常風景になることです。登下校中に子どもたちを見守る地域の人、何かあったらうちに駆け込んできたら110番してあげる、というプレートが玄関口や店口に貼られている風景、よく見かけますね。

インフラになるとやれる人がやる、が当たり前になる。「あなた、すごいことをしてますね」なんて言われなくなる。交通安全の見守りで、子どもの見守りは親の責任だろ、他人が手を出すな、みたいなことは、もはや誰も言わないでしょう。インフラになるということは、そのくらい日常のレベルになるということです。

その点、こども食堂はまだ「すごいことやっていますね」という特別扱いの段階にとどまっています。「やって意味あるのか」「他人がそういうことに口出ししていいのか」「親の責任はどうする」と、反発や批判も受ける存在でもあります。

こども食堂が「特別」で、交通安全の見守りが「日常」と仕分けられていることに、合理的な理由はありません。人々の頭の中で、こっちは日常、あっちは特別、と仕分けているだけです。

だから、子ども食堂はまだ「親の責任どうなる」と言い出す人がいるけれど、「日常」の世界にいったん入ってしまえば、親の責任とは言い出さなくなる。

なぜ人は、そういう風に仕分けるのか? それはまあ...人ってそういうもんですよ。

生活保護を受けることへの批判にも、その仕分け方のせいでさんざん苦労してきました。生活保護の人たちはパチンコ行くな、酒飲むな、と言われてきました。その理由は「税金だから」。年金も、半分は税金から出ていますよね。でも、年金生活者はパチンコや酒を飲んでも何も言われない。むしろ、ささやかな楽しみはあっていいよね、という感じです。

そこに、合理性はないわけです。でも多くの人の頭の中では、なぜか明確に分かれています。年金は「自分の金」、生活保護は「ひと様の金」。

それはもう、そういうもんなんですよ。


そういう状態を何とかしようといろいろ発信したこともあります。こども食堂に対して、子どもに飯を食べさせない親の責任はどうなるんだという指摘に、「いや、それは」と自分が答えようとした。だけど私がどうこう言って何か変わるわけではないことは、もう十分骨身にしみてます。

自分の言っていることが響いているように感じるのは、そういう狭いコミュニティの中に自分がいるだけ、ということが少なくない。でも貧困問題は、もう狭いコミュニティで全体を引っ張っていく時期ではありません。もっと「ふつう」の、「貧困の子って、そんなにいるのか」と感じている人たちに、リーチしていかないと。それには「工夫」がいります。

だからいまは、以前のような姿勢はとりません。

これがインフラとして社会に定着すれば、言われなくなる。だからインフラづくりを先行させた方がいい。別の方向から雰囲気を醸成していくのがいい。

そういえば今日、茶話会に呼ばれてきました。参加者のお母さんが、我が家には子どもの友だちが毎日来ているんだけど、ある日12人も来ちゃったことがある、と。そのときプリンをボールいっぱい作ってあげたら、あっという間になくなっちゃったんだそうです。

それってこども食堂じゃないですか、と言ったんですけどね。

取材・文:錦光山雅子 写真:西田香織 編集:川崎絵美


1969年東京都生まれ。90年代からホームレス支援にかかわり、2009年から足かけ3年間、内閣府参与。法政大を経て現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授。NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長。著書・共著に「子どもが増えた! 人口増・税収増の自治体経営」「反貧困」など。

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