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「北極海」「バレンツ地域」が鍵「フィンランド」を視る「5つのポイント」篠田研次・元フィンランド大使インタビュー - フォーサイト編集部

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着目される「バレンツ地域」

 そして、もっとも重要な視点が「北極」だ、と篠田氏は指摘する。最後の未開拓地と言われる北極圏は、地球温暖化や厳しい環境に対応する技術の開発で、世界の未発見の天然ガス30%、原油13%が埋蔵されていると言われる地下資源の採掘が本格化。他にも欧州とアジアをつなぐ北極海航路の本格的な利用も視野に入って来ており、北極をめぐる多国間の動きが活発になっている。

「北極海に面する国は5つ。ロシア、アメリカ、カナダ、ノルウェー、デンマーク(グリーンランド)です。以前はフィンランドも面していたのですが、第2次大戦の結果、北極海に面した地域をソ連に割譲することを余儀なくされたので、非沿岸国になってしまいました。ですが、フィンランドは先述したような歴史があり、北極圏に対する研究が進んでいます。

 例えば、砕氷船技術。ホルムズ海峡に次いでタンカーの往来が激しいとも言われるフィンランド湾は、氷で閉ざされる期間が長く、浅くて危険な海域です。安全航行を図るため、フィンランドでは砕氷船技術が進み、世界の砕氷船の8割はフィンランドで設計され、6割は造船されていると言われています。温暖化が進んでいるとはいえ、北極海航路には砕氷船のエスコートは不可欠な技術です。

 従来使用されるスエズ運河を経由する航路の場合、政情不安定な中東を通らなければならないうえに、相当の航行日数を要します。北極海航路はこれを3分の2ほどに短縮できるので、人件費、燃料費が削減可能です。またインド洋経由では寒暖差が数十度もあり得、食品や材木を運ぶ際には低温を保てる北極海航路の方が品質を保ったままの輸送がより容易でしょう。けれども、気象・海氷のモニタリング、油濁汚染対策、航行支援システムなど、解決を要する問題もまだまだあります。

今後、ますます重要になってくるバレンツ地域

 その北極政策の一環として着目すべきだと思われるのが『バレンツ地域』です。これはバレンツ海に面するノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアにわたる地域です。北極海航路の西の端にあたるノルウェー北部の天然の良港、キルケネスでは港湾設備の整備が進んでいます。そこから少し西のハンメルフェストには沖合にスノービット天然ガス田があり、欧州最大のLNG(液化天然ガス)プラントが稼働しています。他にもサーモンなどの養殖を含めた栽培漁業や鉱山開発、林業、そして種々の寒冷地仕様技術など、様々な分野で発展し、活況を呈していますので、ビジネス・チャンスに恵まれた地域です。

 三菱商事は『セルマック』というノルウェーのサケ養殖・加工会社を2014年に買収し、新たな水産事業を始めています。北部ノルウェーのサーモンは、陸路でオスロに到着するよりも、フィンランド国内まで高速道路でトラック輸送してヘルシンキからフィンエア・カーゴに載せれば、日本到着は、陸路オスロに到着するより早いそうです。フィンエア・カーゴの社長にそう聞きました。

 また、この地域はレアメタル、銅、ニッケル、プラチナ、ウラン等の鉱山資源に恵まれています。環境保護基準が厳格であり、これまで爆発的な開発は行われていないようですが、その埋蔵量は膨大であると聞いています。日本企業が参入しているという話はあまり聞きませんでしたが、ビジネス機会は相当あるように思われます。

 バレンツ地域、特に北部ノルウェーの石油・ガス産業の街などに足を運ぶと、人口流入が進んでいるのが皮膚感覚で感じられます。 エクイノール社(旧ノルウェー国営エネルギー企業・スタトオイル社)の巨大なLNGプラントが操業するハンメルフェストには、様々な国から石油・ガス関連の技術者などが家族を伴いどんどん入って来ていて、小さな田舎町なのに学校や病院、デパート、ホテルと建設ラッシュが起こっている。ハンメルフェストの市長は、忙しくて仕方がないと、嬉しい悲鳴をあげていました。

 この地域でフィンランドの役割が大きくなると思われるのは、北部ノルウェーが北極海航路の西の拠点となれば、欧州中央部への輸送を担う回廊の役割を果たすことになるからです。そのため現在、地元関係者が熱心に『北極圏鉄道構想』を推進しています。これは北極海航路の西のターミナルとなることを目指しているキルケネスから、北部フィンランドのロヴァニエミまで500km余りの鉄道を敷設すれば、北極海から欧州中央部まで石油・ガス、鉱物資源、水産物、木材などを効率よく運ぶ輸送回廊になるというのです。今はまだヘルシンキからエストニアの首都タリンまで船を使用していますが、将来海底トンネルをつくると、輸送がよりスムーズになるでしょう。鉄道と言えば日本の技術の出番ではないでしょうか。日本製の寒冷地用高品質レールなども大いに活躍の余地があると思います。

 また『北極海・海底・光ファイバーケーブル構想』にも、フィンランドは積極的です。これは北極海航路沿いに海底・光ファイバーケーブルを敷いて、現在、多くが北米経由になっている欧州・アジアのデータ通信を直に繋いでしまおうというもの。フィンランドは、バルト海部分は2017年、すでに海底ケーブルでドイツと繋いで準備を進めており、北極海ルートの構築に向けての日本企業との協力に熱い視線を送っています」

サブリージョナルな組織

 だが、ウクライナ問題で制裁下にあるロシアが、これらの北極圏構想に積極的に参加するのだろうか。

「バレンツ地域は冷戦崩壊後、国家間のレベルと並行して各国地域間のレベルでの協力が非常に進んでいます。この地域独自の国際組織もあり、それが1993年に設立された『バレンツ・ユーロ北極協議会(Barents Euro-Arctic Council: BEAC)』。BEACはバレンツ海に面する地域の環境保全と持続可能な開発を目的として、フィンランド、アイスランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、ロシア、EUをメンバーとして組織された政府間組織です。その中心となっているのが、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、ロシアで、この4カ国で議長を持ち回りにしています。

 フィンランドからロシアに議長国が代わった2015年に、外相会合も行われました。が、前年にロシアがウクライナに侵攻し、経済制裁を受けていた時期だったので、北欧諸国とロシアとの関係は政治的にかなり緊張したものになっていました。しかし、会合に本当にやってくるだろうかと言われていたロシアのセルゲイ・ラブロフ外相も参加し、政治的な色合いをなるべく排して協力を進めるというこの組織の精神を維持する形で会合は無事行われました。

 重要なのは、日本は当初からBEACにアジア唯一のオブザーバーとして参加してきていること。その強みを活かして、これまで以上に積極的に係われば、経済的その他のチャンスは大きく広がるでしょう。

 そして、この閣僚レベルのBEACのほか、地方自治体の交流組織『バレンツ地域評議会(Barents Regional Committee: BRC)』があり、こちらは多くのステークホルダーが自由に参画できるよう、よりサブリージョナルな組織になっています。

 ロシアも、北欧と組めば、高いレベルの技術、例えば、北極海航路の航行安全システムや地下資源の開発技術等を得られることに意義を感じていると思われます。だからこそ、バレンツ地域協力は維持され、ビジネスも活性化しているのだと思います。

 2016年、サウリ・ニーニスト・フィンランド大統領が来日し、安倍総理との首脳会談が行われた際、『アジアと欧州におけるゲートウェイとしての日本国とフィンランド共和国との間の戦略的パートナーシップに関する共同宣言』が発表され、『北極』に関する協力が両国間協力の重要な柱であると位置付けられました。フィンランドが北極を巡る協力の格好なパートナーである所以でありましょう」

NB8+日本の枠組み

 そして最後、5つ目は「北欧・バルト諸国との対話・協力」だと言う。

「北欧5カ国(デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン)とバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)には、地域的枠組み『NB8(Nordic-Baltic Eight)』が存在しています。この組織は北極圏の持続的利用、イノベーション重視などBEACやBRCと多くの共通点があります。日本はNB8と関係を強化するために、『NB8+日本』とする枠組みをつくり、様々な課題について話し合って来ました。NB8との対話を推進する上でフィンランドは牽引力を発揮してきました。今後ともこの枠組において様々な協力を進めていく余地は大いにあるでしょう。

 日本では、北欧との協力を考えるとき、ともすればヘルシンキ、オスロ、ストックホルムといった大都市周辺だけに目を向けがちです。しかし、 “辺境”と思われているようなバレンツ地域などに足を向けると、その活気ある様子に刮目するでしょう。バレンツ地域協力は進んでおり、時機を失しないよう出来るだけ早い段階から参画していくことが重要だと思います。1人でも1社でもこれらのことに関心を持って頂いて、ヘルシンキ留まりにならず、実際に北へ北へと現地に足を運んでいただきたいと思っています」

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