- 2019年07月26日 11:35
人間関係における「縦の関係」をなくし、誰もが対等な「横の関係」を結ぶべき - 第93回名越康文氏(後編)
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社会全体で介護を支える仕組み「介護保険制度」がスタートして、間もなく20年になろうとしている。しかし、依然として「介護は家族がするもの」という考えが世間に根強く、核家族化が進む中、孤立無援の介護生活に絶望した無理心中のようなケースが後を絶たない。あるいは、親子、夫婦といった近すぎる関係から生じる葛藤も深刻だ。ここまで、日本の介護環境の背後に潜む心の問題に光を当ててきた名越康文氏の賢人論も大詰め。「後編」では、「なぜ家族介護は難しいのか」について、心理学の見地から縦横無尽に語っていただいた。
取材・文/木村光一 撮影/公家勇人
社会に家族の面倒をみてもらうのは恥なのか
みんなの介護 なぜ、私たち日本人は「介護は家族がするもの」という呪縛を解くことができないのでしょうか?
名越 なかなか難しい問題ですね。理由はいくつかあります。まず、日本人の中には昔からモラルとして「他人に迷惑をかけてはいけない」という不文律があって、そこでいう「他人」とはイコール「社会」なんです。
つまり、「他人に迷惑をかけてはいけない」というのは「社会に迷惑をかけてはいけない」と同じ意味。確かにそういう真面目さは僕たち日本人の美徳ではあるんですが、それが高じて「社会に家族の面倒をみてもらうのは恥」という頑なさにつながってしまっている点が、根深い問題なのだと思われます。
さらに「燃え尽き症候群」(中編)のところでも話しましたが、責任感が強くて一生懸命な人ほど、自分の力で問題解決ができないことを恥に感じる傾向が強い。そのため、なかなか意識を変えられないのではないでしょうか。
なぜ、大切な家族に激しい感情をぶつけてしまうのか
みんなの介護 でも、日本人は他人に対しては神経質なまでに気をつかっているにもかかわらず、相手が家族となるとかなり我儘に接しているとよく言われますね。その我儘が「介護をする側」と「介護をされる側」になったとき、さらにエスカレートして互いを傷つけてしまっている気もします。なぜ、私たちは最も近しい大切な家族に、激しい感情をぶつけてしまうのでしょうか?
名越 僕自身、長い間、親に対して他人には湧かないような怒りがどうしても出てきてしまうのを自覚していました。ですから、その救われない気持ちは非常によくわかります。結論から言うと、それは日本人に特有の「二重帳簿」の典型です。
みんなの介護 「二重帳簿」とは、どういうことですか?
名越 少々、説明を要します。僕が学んだ「アドラー心理学」は人間関係における「縦の関係」を改めて、人と人とが対等な「横の関係」を結ぶべきだと提唱しています。
とても簡潔に言えば、役割としての「上」「下」はあったとしても、人間としての価値は同じ。互いに尊敬に基づいて、相手に配慮しつつ率直に言うべきことは伝え、「横の関係」を育てて、いろいろな問題を解決しつつ生きてゆこうという考え方です。まず、そういう考え方があるのだという前提でお話しさせて下さい。
みんなの介護 わかりました。
名越 この前提から私なりにみてみると、日本人は会社や組織の中で、相手や局面に応じて都合よく「縦の関係」と「横の関係」を使い分けています。それを称して「二重帳簿」。「二枚舌」と言い換えても結構です。
母親との関係でいうと、僕は外ではある程度「横の関係」を結べていたのに、家に帰れば母親と「縦の関係」しか結ぶことができなかった。僕は後からそのことに気づいて愕然としました。
でも、それはほぼすべての日本の家族に共通する傾向で、実は、どこの家でも「縦の関係」一辺倒なのでした。職場や学校ではカタチの上だけでも「横の関係」を結べている人たちも、家庭では徹底して「縦の関係」の中で生活している。その現実はアドラー心理学の存在が知られるようになってからも何ら変わりがありません。



