- 2019年07月26日 10:15
人間の悩みや苦しみは身体だけの問題ではない - 第93回名越康文氏(前編)
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心は窓を開け放しにした一軒家のように、内と外がつながり、影響し合っている
みんなの介護 私たちは普段「心とは何か」といった深いテーマについて考えないまま生きています。そのため、いざ、心の問題について語ろう、あるいは思いをめぐらせようとしても、どこを糸口にして入っていけばいいのか皆目見当がつきません。
そこで質問です。心とはどういうものと考えればいいのでしょう?名越さんのイメージする心の世界についてお聞かせください。
名越 一言でいえば、心は「開かれたもの」でしょうね。外部の世界と相互につながって影響を与え合っている。
例えば、今、僕はこうしてインタビュアーのあなたから質問を受けている。わからないことを聞かれたら「困ったぞ」と不安になるし、違う質問では「ああ、そうだ、僕は今日、これを話したかったんだ」と喜びが湧き上がってくる。
あるいは、僕の説明を聞いているあなたが納得のいかない表情を浮かべたら不安に逆戻りしてしまうし、その反対ならまた喜んでしまう。
そんなふうに、心は相手の反応や周囲の環境などの外的要因の影響を受けながら一瞬でころころ変わっている。そこに一貫性や連続性はありません。
みんなの介護 なるほど。風通しの良い世界が頭に浮かびました。しかし、心というと、どうしても自分の内面にあるもの、他者に対して「閉じている」もの、というイメージがあるのですが?
名越 こういうことです。あなたは学校の先生だとしましょう。学校に来ない生徒の家を訪問しています。お母さんに招き入れてもらって家の中に入り、2階へ上がって生徒の部屋のドア越しに声をかけましたが返事はありませんでした。仕方がないので1階へ降りてお母さんとコーヒーを飲みながら話をすることにしました。
そのとき、生徒はというと、お母さんとあなたがいったいどんな話をしているのか気になって、ドアに耳を当ててじっと息を潜めて聞き耳を立てていました。さて、生徒の心は「閉じている」と思いますか?
みんなの介護 …閉じていません。
名越 そうです。むしろ、開け放たれて外を向いている。まるで、窓が全部開けっぱなしの一軒家です。
みんなの介護 なるほど、イメージできました。窓が開いてますね。
名越 そう、心は絶えず外の世界とつながりっぱなし。AIスピーカーのアレクサみたいなもん。でもあれ、思わぬときに反応してびっくりすることもあるでしょう(笑)。
重要なのは心を落ち着かせ、平静な自分でいること
みんなの介護 名越さんは「心は自分ではない」とも著書で述べています。この表現がとても気になるのですが、どういう意味が込められているのでしょうか?
名越 言葉で説明してもおそらくわかりにくいので、試しに背筋を伸ばして目を閉じ、そのまま動かないで3分間、自分の心の中を観察してみてください。実際、やってみるとわかりますが、ほとんどの人は次から次に頭に浮かんでくる考えやらイメージやらの情報量の多さにびっくりします。
とにかく、まずは、自分はその心の状態をまったく自覚せず、気付かないまま生活していたということを体験を通じてわかってください。つまり、心は絶えず変化に変化を繰り返していて、自分という固定したイメージとはほど遠い。「心は自分ではない」というのはそういう意味です。
みんなの介護 わかりました。でも、そのことを自覚すると何が変わるのでしょう?
名越 少なくとも、あらかじめ自分の中にコントロールできない心の動きがあることを自覚できていれば、不意にネガティブな感情が湧き上がってきて囚われそうになっても「自分と心との距離をとること」で落ち着いていられます。
何をするにしても、大事なのは心を落ち着かせ、さわやかな自分でいること。心の中が荒れていると必ずそれは周囲にも伝わり、何らかのマイナスを生じさせてしまいますので。
ただ、心の動きを自覚しただけでは十分ではありません。次に目指すのは自分の意思で心をコントロールする手段の修得。それは「瞑想」なのですが、簡単な説明を読んだくらいで身に付けられるものではありませんので、また、別の機会に。



