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人間の悩みや苦しみは身体だけの問題ではない - 第93回名越康文氏(前編)

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精神科医、コメンテーター(テレビ・ラジオ)、評論家(映画評論・漫画分析)──さまざまな分野で活躍する名越康文氏。『ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である』『どうせ死ぬのになぜ生きるのか』『自分を支える心の技法』『生きるのが〝ふっ〟と楽になる13の言葉』等々、心理・精神医学に関する著作も数知れない。今回の賢人論のテーマは「心と介護」。人間の深奥を探求する名越氏へのインタビューは、若き日の「漠然とした不安」の話から始まった。

取材・文/木村光一 撮影/公家勇人

答えの出ない問いに取り憑かれてしまった自分が、自問自答しながら取り組める仕事が精神科医だった

みんなの介護 テレビやラジオでコメンテーターとしてもご活躍の名越さんですが、そもそも、なぜ精神科医を志望されたのですか?

名越 「自分の仕事はこれしかなかった」と言うと聞こえがいいんですけど、実際は消去法の末の選択です。そんな大それた話ではないんですよ。

みんなの介護 名越さんの多芸多才はつとに有名ですが、何か他にやってみたい職業や夢があったのでしょうか?

名越 夢はいっぱいでしたね。小学校に入学した頃はオペラ歌手になりたかった。4年生になるとこんどは漫画家。文字通り本当の「夢」です(笑)。

でも、学年が進んで才能の世界の厳しさを知るにつれて夢から醒め、やがて親に奨められるまま医学部を受験することになった。とまあ、残念ながらこの話も劇的展開とはまったく無縁です。

ところが、医学部へ進んではみたものの、僕は身体医学というものに全然興味が持てなくて。結局、人間の悩みや苦しみは身体だけの問題じゃないでしょう?ちゃらんぽらんなくせに、意外と深刻に物事を考えていたんです。

みんなの介護 何か悩みがあったのですか?ひょっとして、自分探しのような哲学的悩みですか?

名越 僕は客観的には冗談ばかり言ってる明るくてお気楽な学生だったんですが、どういうわけか「なぜ人間は生きてるのか」「なぜ自分は生まれてきたのか」という問いが、ずうっと頭から離れなかったんです。今思えば一種の神経症ですね。

みんなの介護 名越さんの経歴には、近畿大学医学部を卒業後、大阪府立中宮病院(現・大阪府立精神医療センター)に勤務。そこで精神科救急病棟の設立などに携わられた後、1999年に退職と記されています。精神科の救急という文字を見ただけで勝手に過酷な現場を想像してしまったのですが…。

名越 いや、そこに思いを至らせてくれる人はあまりいないので嬉しいです。僕の専門は思春期精神医学で、精神療法で中宮病院に勤務した期間は13年です。

始めの6年はほとんどが閉鎖病棟、後半の7年が主に緊急救急病棟。そして、退職までの4年間、緊急救急病棟の責任者でした。

スタッフは3交代制で常勤の精神科医が5名から6名、看護師が約30名。365日24時間体制で救急患者を受け入れていたんですが、年間で200人以上の患者が運ばれてきて毎日がいわば鉄火場。とにかく、その日一日を乗り越えるのに必死でしたね。

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