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自ら傷口に塩を塗る"トラウマ"という呪詛 "過去が悪いせい"では立ち直れない

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後悔や挫折の「その先」を考えること

 人生の意味も同じだ。自分はろくな人生を生きていない、こんな人生には意味など感じられないと、日々の生活の虚しさを嘆く人がいる。なんでこんな人生に追いやられてしまったのかといった絶望的な気持ちに陥っていたりする。

 だが、その人の人生そのものが悪いわけではない。その人が自分の人生にポジティブな意味を見出せずにいるところが問題なのだ。自分の人生に対して、「意味がない」とか「虚しい」といった意味づけをしているのは、紛れもなく本人自身なのである。

 人生は思い通りにならないことの連続だ。プライベートや仕事上の人間関係、勉強面や仕事面の実績など、思い通りにならなかったさまざまな出来事を経験し、後悔や挫折感を味わうものだ。

 だが、大事なのはその先だ。それぞれの思い通りにならなかった出来事からどんな意味を汲み取るか。それによって、過去のもつ意味が違ってくるし、自伝的記憶の雰囲気が違ってくる。

 自分の生い立ちをどう意味づけるか、自分の人生の意味をどうとらえるかは、結局のところ自分しだいなのである。生い立ちそのもの、人生そのものに元々の意味があるわけではない。自分がどのような意味を与えるかによって、生い立ちの意味、人生の意味が決まってくる。

 ゆえに、自分の視点が変われば、経験した事実は変わらなくても、自伝的記憶のもつ雰囲気がネガティブなものからポジティブなものへと変わるのは十分あり得ることなのである。

過去の記憶は塗り替えることができる

 このように自伝的記憶というものは、けっして過去の時点で固定されたものなどではなく、現在の自分の視点からつくられたものなのである。このことは、とても重要なことを私たちに教えてくれる。

 それは、自伝的記憶は書き換えることができ、私たちは自分の過去を塗り替えることができるということである。

 私たちの記憶が教えてくれる自分の過去の姿は、今の自分の視点から見たものにすぎない。ゆえに、今の自分の心理状態が変わり、違った視点で振り返るようになると、自分自身の過去の見え方が違ってくる。

 自伝的記憶は、たしかに自分の生い立ちを軸にして、自分の成り立ちを説明する記憶であり、自分らしさをあらわすものである。ただし、それはそれぞれの出来事が起こった過去のさまざまな時点の自分のものなのではなく、振り返っている今の自分のものである。たとえば、現在適応している人が不適応な人よりも自分の過去に対してポジティブな記憶を抱えているのも、記憶が現在を映し出すからである。

なかったことにできなくても、視点は変えられる


榎本博明『なぜイヤな記憶は消えないのか』(KADOKAWA)

 そこでわかるのは、今あなたが抱えている自分の過去についての記憶は、あり得るさまざまなバージョンの中のひとつに過ぎないということである。振り返り方によって、同じあなたの過去の事実群をもとに、何通りもの自伝的記憶を紡ぎ出すことができる。振り返り方を変えれば、今とはまったく趣の異なる自伝的記憶をもつことができるのだ。

 カウンセリングで自己観が変わって生まれ変わるときも、何らかの衝撃的体験や運命的な出会いによって新たな気づきを得て人生観が変わるときも、新たな視点による自伝的記憶の書き換えが行われるのである。

 カウンセリングを受けたからといって、これまでに経験した出来事を経験しなかったことにできるわけではない。経験しなかった出来事を経験したことにすることもできない。それでもカウンセリングで人は立ち直ることができる。生まれ変わることができる。それは、これまでの人生を振り返り、意味づける視点が変わるからである。

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榎本 博明(えのもと・ひろあき)
MP人間科学研究所代表
心理学博士。東京大学教育心理学科卒業。東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授などを経て現職。『なぜ、その「謙虚さ」は上司に通じないのか?』、『「忖度」の構造』ほか著書多数。
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(写真=iStock.com)

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