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《徒然に…》2020東京オリンピック・パラリンピック『文化プログラム』を考えた

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日本財団 アドバイザー 佐野 慎輔

オリンピックには文化プログラムという項目がある。いや、オリンピックの根本的な事項を定めた『オリピック憲章』では文化プログラムの開催が義務付けられている。みなさん、それはご存じだろうか?


日本財団の『18歳の意識調査第16回―東京オリンピック・パラリンピック』では、
問いかけの一環として、「文化プログラムの開催義務を知っているか」と調査対象となった17歳から19歳まで全国1000人の若者に聞いている。

発表された結果では、「知っている」と答えた人は11.7%に過ぎなかった。88.3%の人は「知らなかった」わけである。


オリンピック開幕が7月24日で、あと1年に迫った。今年6月18日から24日に行われた調査でこの数字は少し寂しい感じもするが、ただ、この設問は「オリンピック憲章で文化プログラムの開催が義務付けられていることを知っているか」と聞いている。文化プログラムそのものを知っているか、聞いているわけではない。問い方が変わっていれば、違う値が出ていたかもしれない。

ちなみに『オリンピック憲章』(2018年版)第5章39条にはこう記述されている。
「OCOG(組織委員会)は少なくともオリンピック村の開村から閉村までの期間、文化イベントのプログラムを催すものとする。そのようなプログラムはIOC(国際オリンピック委員会)理事会に提出し、事前に承認を得なければならない」

文化プログラムって何だろう?

そもそも、文化プログラムとは何だろう。なぜ、スポーツの祭典であるオリンピックと文化がかかわりあうのか?
日本ではあまり報道されることはない。しかし、オリンピックを語るうえでは欠くことのできない要素である。それは近代オリンピックを創始したフランス人貴族、ピエール・ド・クーベルタンの思いに至る。

クーベルタンは1890年代、オリンピックの復興を考えたときから古代オリンピックの故事にならい、各国・地域の若者たちがスポーツだけではなく、芸術の分野でも技を競うことを視野にいれていた。

古代オリンピックとは、紀元前の古代ギリシャ各地で開かれていた競技祭のひとつである。ギリシャ・ペロポネソス半島西部のオリンピアで開かれていた大会は、なかでも古代ギリシャの人々に広く愛され、紀元前776年から紀元後の393年まで長く続いた。4年に1度開く祝祭は、絶対神ゼウスに捧げる宗教儀式で、競技大会を始める前の儀式がとりわけ重要視された。

儀式のありようは紀元前470年頃に定まったとされる。それによると、5日間の日程初日は午前中に開会式が催され、選手や審判の宣誓後、儀式の始まりを告げる役とラッパ奏者を選ぶコンテストが行われる。午後はゼウス神殿の森を散策し、彫像や絵画を愛でる。詩人が詩を朗読し、哲学者は独自の理論を披露、弁論家が声を張り上げ、歴史家は新たな研究を発表。ここでも優劣が競われた。ソクラテスやプラトンもここで理論を披露したという。そして、ラッパ・コンテストの優勝者が競技大会の始まりを告げるラッパを吹いた。

そうした儀式と若者による競技大会をみるため、古代ギリシャの人々は各地から何日もかけて徒歩でオリンピアをめざした。その数は4万とも5万人とも。神聖な神殿、競技会場周辺にはあらゆる娯楽が集結し、3日間の競技の後、最終日は閉会式。勝者にはオリーブの冠が授けられ、優れた詩人が競技の優勝者をたたえる詩を書き、選ばれた作者の彫像や絵画が贈られた。ゼウスに捧げられた生贄の牛を焼き、渾然一体の饗宴が続けられた。以上はトニー・ペロテット著『驚異の古代オリンピック』を参照した。

文化は、スポーツと並ぶオリンピズムの柱だ

クーベルタンはこうした祝祭の要素を大事に考えるとともに、都市国家同士の対立、戦争が絶えなかった古代ギリシャにあって4年に1度、休戦してスポーツによって競う姿にオリンピックの理想をみた。「スポーツによって心身ともに調和のとれた若者を育成し、彼らが選手として4年に1度、世界中から集まり、フェアに競技し、異文化を理解しながら友情を育み、平和な国際社会の実現に寄与する」ことをオリンピックの根本理念とした。その理念を「オリンピズム」という。

「オリンピズムの3本柱」と称される考えがある。オリンピック精神の発露として、IOCが取り組むべき課題である。「スポーツ」「文化」「環境」の3つを指すが、環境が柱とされたのは1994年、IOC創設100周年を記念したパリ会議の席上だった。環境問題が国際社会をあげた課題となったころである。それまでは「スポーツ」と「文化」の融合がオリンピズムの柱とされていた。

クーベルタンは考えた。心身ともに調和のとれた若者を育成するためには、スポーツだけではなく芸術は欠かせない、と。その思いは「芸術競技」という形で実現した。1912年、第5回ストックホルム・オリンピック。日本が初めて参加したオリンピックである。

芸術競技は「ミューズの5種競技」と呼ばれた。ミューズとは、ミュージックやミュージアムの語源ともなった文化を司るギリシャの女神だ。ミューズがかかわる建築、彫刻、絵画、文学、音楽の5つの部門で「スポーツに関係のある作品」を条件に競われた。上位入賞者の作品は大会期間中に展示、上演され、スポーツの勝者と同様、メダルも贈られた。クーベルタンは偽名を使って文学部門に応募、金メダルを獲得するなど、芸術競技に深い思い入れを示した。芸術競技は1948年、第14回ロンドン大会まで実施され、4000作品を超えるエントリーがあったという。日本では1936年、第11回ベルリン大会の絵画部門で藤田隆治「アイスホッケー」(油絵)、鈴木朱雀「日本古典競馬」(水彩画)がともに銅メダルを獲得している。一方、棟方志功や東山魁夷は応募しながら落選の憂き目にあった。

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