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新海誠監督語る『天気の子』 天気と人間の関係が変わった

新海誠監督(左)と雲研究者・荒木健太郎さん(右) 撮影/田中智久

祈ることで、空を晴れにすることができる不思議な力を持った天野陽菜(C)2019「天気の子」製作委員会

離島から家出をしてきた高校生の森嶋帆高(C)2019「天気の子」製作委員会

 長野県の小さな町に生まれ育った新海誠監督(46才)。その両脇の町には電波天文台がある。星がきれいに見える場所だったという。季節によって見え方が変わる空を眺めて幼少期を過ごした監督が、最新作のテーマに選んだ「天気」。彼は天気の何を切り取り、どのように描いたのか。
 雲研究者・荒木健太郎さん(34才)による気象監修のもと完成した映画『天気の子』に込めた思い、人間と天気の関係を2人が語り合った。

【写真】祈ることで、空を晴れにすることができる不思議な力を持った天野陽菜

荒木健太郎(以下、荒木):そもそも今回の作品はなぜ「天気」をテーマにしたのですか?

新海誠(以下、新海):映画の公開前までは、「天気は地球規模の巨大な循環現象なのに、個々人のメンタルやフィジカルに影響を与える面白いテーマだから」と説明していました。でも実をいうと、もう少しストレートな理由があったんです。

荒木:え? そうなんですか。

新海:はい。それはやっぱり、“天気と人間の関係”が変わってきたということです。これまでもぼくは作品の中で、梅雨や紅葉といった日本の美しい四季を意識的に描いてきました。しかし、『君の名は。』以降の数年間で、季節や天気が「情緒的で心地よいもの」から「何か備えなければいけないもの」に変わった気がしたんです。

──日本だけではなく、海外でも大ヒットした『君の名は。』から3年。新海監督の待望の新作アニメーション映画『天気の子』が公開を迎えた。

 本作のテーマはズバリ「天気」。新海さんはこれまでの作品でも美しく繊細に天気を表現してきた。たとえば『秒速5センチメートル』(2007年)では優しく降り積もる雪が、『言の葉の庭』(2013年)では多彩に降り続ける雨が、「新海ワールド」を色鮮やかに浮かび上がらせた。

 晴れ、雨、曇り、雷といった多彩な天気が登場する本作は、雲研究者の荒木さんが気象監修を担当した。天気のスペシャリストである荒木さんの参加で、本作の表現はさらに深みを増したという。

 そんな2人が映画公開を機に、本誌にそろって登場。世界的にも異常気象への警鐘が鳴らされる中、天気を愛する新海さんと荒木さんが存分に語り合った。

『君の名は。』以降の数年間で、天気は“脅威”に変わった

荒木:極端な気象が増えてきたともいえますね。

新海:そうです。いわゆる「気候変動」です。天気予報でも「今年は夏がとても暑くなるから、命を守る行動をとりましょう」「経験したことのないものすごい雨が降ります」「とても強い寒波がきます」と警告することが増えました。

「えーっ、天気って、そんなに人間と敵対するものなの!?」という気分がここ数年で高まった気がします。ぼくだけじゃなく、周りの人も同じように感じているはずなので、今回の作品では天気をテーマにしてみたいと思いました。

──天気の変化はデータ上でも明らかだ。昨年1年間だけでも、夏は記録的な猛暑となり、7月に埼玉県熊谷市で国内観測史上最高の41.1℃を記録。台風も続々とやって来て、なかには東から西に進む珍しい台風もあった。梅雨前線が停滞し続けたことで、7月には西日本を中心にもたらされた豪雨による死者は200人を超えた。

 日本だけではない。世界気象機関(WMO)は7月12日、ロシア・シベリアなどの北極圏で記録的高温となって山火事が多発し、アメリカやバングラデシュでは洪水が発生、欧州やインドなども熱波に襲われるなど、今年6月以降、世界各地で異常気象が相次いでいると警告を発したばかりだ。

荒木:ここ40年くらいの観測データを見ると、1時間で80mmの猛烈な雨の発生回数は有意に増えています。新海さんが感覚的にとらえている天気の変化は実際に起こっていると考えていいかもしれない。

新海:ただ世の中には、気候変動そのものを認めない人もいますよね。地球温暖化対策への協力を渋ったりする政治家などが典型的ですが、社会的、政治的な立場によって「天気の変化と人間の活動は関係ない」と主張する人が少なくない。そうした見解は、研究者の目からはどのように見えるのですか?

荒木:気象学は科学なので、個々人の思い込みを議論するのではなく、研究の積み重ねから客観的な事実を見出します。その観点からいうと、地球温暖化の影響で気候変動が起き、異常気象が発生するということは実際に起こっている。そのうえで、気温上昇や海水温上昇などそれぞれの条件が、大雨や猛暑などの現象にどのような影響を及ぼすのかについての研究が進んでいます。

──実は本作で荒木さんは気象の監修をしただけでなく、本人役で声の出演を果たした。

新海:今回の映画を作ろうと思ってから、きちんと天気を勉強しようと、荒木さんが書かれた『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)を読んだんです。それがすごく面白くて、こちらからお願いして、作中での天気にかかわる現象や雲の形まで細かくアドバイスしてもらいました。

荒木:新海さんと最初にお会いした時、「コリオリ力」(地球の自転が気象に影響すること)や「スーパーセル」(巨大な積乱雲)といった専門的な気象用語がたくさん出てきて驚きました。本当によく気象のことを勉強されていて、気象予報士より詳しいんじゃないかと思ったほどです。

新海:いやいや、そんなことはないですよ(笑い)。荒木さんの本で多くのことを学びました。本作は多くの人に見てもらう映画になるだろうから、フィクションを描くとはいえ、科学的な整合性にはこだわりたかった。その面で荒木さんにはずいぶんお力をお借りしました。

荒木:それにしても、まさか本人役で出演するとは思いませんでした(苦笑)。

新海:(主人公の)帆高が天気の研究者を取材するシーンですね。実際に荒木さんをモデルにしていたので、一応正式にオファーをいたしまして…あれ、お伺いしましたっけ?

荒木:いや、私はビデオコンテを見て、「あれっ、出てる!?」とびっくりしました。

新海:失礼しました(笑い)。荒木さんが登場する場面ではきちんとプレートに『荒木研究官』と名前が入っているので、映画を見る人はぜひ探してみてください。

【プロフィール】
◆新海誠(しんかい・まこと)/1973年2月9日生まれ、46才。長野県出身。2002年、監督・脚本・美術・編集などの制作作業をほぼ1人で行った短編アニメーション『ほしのこえ』で鮮烈なデビューを果たし、数々の賞を受賞した。その後もきめ細やかな映像美とセンチメンタルな脚本で観客の心を打つオリジナル作品を次々と発表。2016年に公開された『君の名は。』は記録的な大ヒットとなり、『千と千尋の神隠し』(2001年)に次ぐ邦画歴代2位の興行収入を記録した。

◆荒木健太郎(あらき・けんたろう)/1984年11月30日生まれ、34才。茨城県出身。雲研究者。気象庁気象研究所研究官。学術博士。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事した後、現職。防災・減災に貢献することを目指して、豪雨・豪雪・竜巻などの激しい大気現象をもたらす雲の仕組み、雲の物理学の研究に取り組んでいる。著書に『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)、『雲を愛する技術』(光文社新書)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)などがある。

※女性セブン2019年8月8日号

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