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「合意なき離脱」に突き進む英国一の「お騒がせ男」ボリス・ジョンソン首相

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Getty Images

「10月31日にEUを離脱する」

[ロンドン発]欧州連合(EU)離脱交渉を座礁させた責任を取って辞任したテリーザ・メイ英首相の代わりに「英国一のお騒がせ男」ボリス・ジョンソン前外相(55)が24日首相に就任しました。

ジョンソン首相は与党・保守党党首に選ばれた23日、こうスピーチしました。「保守党と支持者はひるんだように見えるか。ひるんだように感じるか。私が思うに、ひるんだようには見えない」

「すべての離脱懐疑派に告ぐ。我々は祖国を鼓舞する。10月31日にEUを離脱する。やればできる新しい精神を吹き込み、すべてのチャンスを活用する」

ジョンソン首相は合意があってもなくても期限までにEUを離脱すると改めて宣言しました。

2007年秋の英金融機関ノーザン・ロックの取り付け騒ぎ以来、世界金融危機、欧州債務危機、欧州難民危機、ポピュリズムの台頭を欧州の最前線で取材してきた筆者は「政治危機」の到来に慄(おのの)いています。

議会制民主主義のお手本とされてきた「英国の民主主義(ウェストミンスター・モデル)」がこれほど短期間に、これほどまでに完璧に壊れてしまうとは思いもしませんでした。

保守党党首選でジョンソン氏が獲得した党員票はわずか9万2153票。たったこれだけの意思で国連安全保障理事会常任理事国の首相とEU離脱を巡る国の行方が決まってしまうのです。

「2級市民」「2級国家」に転落してしまう危機感

島国の日本は鎌倉時代の中期、元寇(げんこう、1274年と1281年の蒙古襲来)で「神風(暴風雨)」に守られたと伝えられてきました。

同じ島国の英国も1588年、風を味方につけスペイン無敵艦隊(アルマダ)を粉砕しました。ジョンソン首相のEU離脱交渉にも「アルマダの海戦」と同じような風が吹くのでしょうか。

ジョンソン首相には風向きとその強さを巧みに使う知恵が必要です。

イングランドを征服してノルマン朝を開いたウィリアム1世「征服王」以来、他国の侵略を許したことがない英国の精神風土は「現実主義」「用心深い保守主義」と言われてきました。

今や英国はスペイン無敵艦隊を撃破したフランシス・ドレーク艦隊司令官の「向こう見ずな海賊魂」と、「尊大な大英帝国主義」に取り憑かれているかのようです。

しかし、その裏側にはこのままでは自分たちはEUに飲み込まれて「2級市民」「2級国家」に転落してしまうというグローバリゼーションの負け組たちの自己防衛本能が働いています。

EU離脱で損なわれる英国の競争力

メイ首相が党首辞任に追い込まれるまで、EUとの新たな通商関係はこれからどうなるか分からないものの、英国は離脱協定書に基づいてEUを離脱するというのが筆者の想定したメインシナリオでした。

それしかEUから円滑に離脱し、経済へのダメージを少なくする方法がないからです。しかし今や良くて「秩序だった合意なき離脱」が市場のメインシナリオのようです。ポンド・円の為替相場の動きと筆者の足跡を簡単に見てみましょう。

2007年7月、1ポンド=250円(筆者、産経新聞ロンドン特派員として英国に赴任)
09年1月、1ポンド=119円(世界金融危機の影響、円資産をポンドに替えていた筆者は大損)
12年1月、1ポンド=117円(欧州債務危機)
15年7月、1ポンド=195円(2012年に50歳で産経新聞を早期退職して退職金を受け取り、英国永住を決めた筆者は束の間の幸福感に浸る)
16年6月、国民投票で英国がEU離脱を選択
19年7月、1ポンド=133円(円高でポンド換算の原稿料は膨らむ)
19年10月末、英国の国立経済社会研究所(NIESR)が「秩序だった合意なき離脱」でも通貨ポンドは対ドルで約10%下落、インフレ率は4.1%に加速と予測(筆者の老後に暗雲。ロンドン発のニュースへの関心が急激に低下し、誰も読んでくれなくなる恐れも)

日本貿易振興機構(JETRO)の直接投資データを見ると、日本から英国への直接投資は16年に急激に増えた後、EU離脱決定を受けて落ち着いています。日系企業も筆者と同じように英国の魅力、すなわち国際競争力が落ちることを恐れています。


「経済」より大切な「国のかたち」

ブレグジット(英国のEU離脱)は「経済論争」ではありません。英国人にとっては「国のかたち(主権)」こそが問題なのです。「合意なき離脱」でEUとのバリューチェーンが寸断され、製造業が壊滅に近い状態に追い込まれたとしても、彼らにとっては「国のかたち」の方が大切なのです。

離脱の争点は3年前の国民投票では明らかにEU移民の急増でした。しかし昨年秋の保守党大会では「自由貿易」になり、今では征服王以来の「千年王国」を守れ、英国の主権をブリュッセルから取り戻しさえすれば、永遠の繁栄が訪れるというように急激に変わってきました。

「合意なき離脱」派に抗議して選挙区の保守党協会に続き、保守党からも離党したニック・ボールズ下院議員にどうして争点が変遷したのか質問したことがあります。ボールズ氏はこう答えました。

筆者の質問に応えるボールズ下院議員(筆者撮影)

「メイ首相の離脱案は私が賛成できる中で最もハード(強硬)な離脱でした。それが駄目なら2回目の国民投票で民意を問うしかないと考えています」

「もう保守党のメンバーではないので気軽にお話できますが、政治には非常に大きなシフトがありました。このシフトがどれだけ長く続くのかは分かりません。経済を議論し、票を入れているのではありません」

「文化こそが問題なのです。日本の安倍晋三首相なら知っているでしょう。経済や安倍首相の経済政策アベノミクスが問題と言いながら実は文化的なルーツやアイデンティティーにアピールしているのです」

「ハンガリーやトルコ、ブラジル、フィリピンなど世界中にこのシフトは当てはまります。歴史的に説明可能なこうした反応は経済的なクラッシュで人々が不確実さに覆われていることに深く関係しています」

「保守党も主権に取り憑かれ、延々と第二次世界大戦やダンケルクの戦い、ノルマンディー上陸作戦を語り続けているのです。しかし、現在の問題に対しては文字通り何の意味もないのです」

保守党と労働党の二大政党による政権交代が定着してきた英国の政治に地殻変動が起きています。保守党と労働党の政党支持率は各25%前後、中道の自由民主党と新党ブレグジット党が各20%前後と4党が拮抗する時代に突入しています。

今、私たちが目の当たりにしているのはまさに「政治危機」なのです。「合意なき離脱」を止めるために経済をいくら議論しても何の意味もないのです。

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