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吉本会見 なぜ岡本社長は「失敗」し、宮迫・亮は「成功」したのか――臨床心理士の分析 - 岡村 美奈

 7月20日、雨上がり決死隊の宮迫博之さんと、ロンドンブーツ1号2号の田村亮さんが開いた会見と、それを受けて22日に行われた吉本興業の岡本昭彦社長の会見。前者を「成功」とするならば、後者は「失敗」と言わざるを得ないだろう。

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吉本興業の岡本社長 ©吉田暁史

 振り返ると、いくつかの点でその違いが見えてくる。といっても、宮迫さんたちの会見は約2時間半、岡本社長の会見に至っては5時間半。長すぎる会見は誰にとってもマイナスにしかならない。

宮迫・亮の会見が成功した理由

 まず宮迫さんたちの会見が「成功」したのは、聞き手や視聴者の感情を刺激したことにある。宮迫さんは、自分たちに起きたことを時系列に沿って分かりやすく整理し、シンプルな言葉で、聞きやすいテンポで話していた。声の大きさや抑揚がコントロールされていることで、聞いている側は、自ずと彼らの感情を想像してしまう。

「保身からくる軽率な嘘から始まっています。全責任は僕にあります」(宮迫)

 冒頭、前を見つめて大きく息をついた宮迫さんだが、会見中、彼が見つめていたのは空だった。記者たちとアイ・コンタクトを取らず淡々と話し続けたことで、かえって彼の中にある後悔や罪悪感を印象づけた。

つい手を差し伸べたくなる「アンダードッグ効果」

 先輩にも嘘をついたのかと問われた時は、言葉を詰まらせ、何度もマイクを口元に上げてはうつむき、項垂れた。

「もうお会いすることはできません」(宮迫)

「どういう風にしたら、こいつらがちゃんと謝れるのかを手伝って欲しかった」(田村亮)

 号泣する2人を見て、彼らが嘘をついていたことは一旦、横に置いて、かわいそうだと思った人は多いだろう。田村さんが実際に経験した感情を、臨場感を持って語ったことで、聞いている側は、より強い感情を刺激されることになる。また、このような情けなく弱みを見せる人、涙するかわいそうな人には、つい手を差し伸べたくなるのが人間である。この「アンダードッグ効果」という心理効果によって、視聴者は強く感情を揺さぶられることになった。

批判の矛先は、宮迫・亮から岡本社長へと変わっていった

 真摯に反省している姿を見せた宮迫さんは、金をもらっていたことを会社に話すと「静観です」と言われ、謝罪したいと申し出ると「やってもいいけど全員連帯責任でクビにするからな」と社長に言われたことを明かした。印象に残りやすい、インパクトのある言葉が並べられ、自分たちの無力感をアピールしたことで、聞き手の頭には、謝罪したかったのに止められたことが事実となり、背景には世間が一番問題視する隠蔽やパワハラがあったことになる。だがそこには、彼らの吉本への熱い想いもある。聞き手側はこれによって、考えを変えていくことになった。

 批判の矛先は謝罪をさせなかった吉本興業へ、パワハラともいえる発言をした岡本昭彦社長へと変わっていった。

「なによりも、おとつい宮迫博之くんと田村亮君にああいう記者会見をさせてしまったことに関して、二人に対して深くお詫び申し上げます」(岡本社長)

 冒頭、岡本社長は緊張した面持ちでこう述べて、丁寧に頭を下げた。宮迫さんの処分の撤回を発表。今後は、コンプライアンスの徹底と芸人ファーストで物事を考えるという2点も強調し、芸人たちとのコミュニケーション不足が一番の反省点だと、書面に落としていた視線を上げ、単調ながらもはっきりと述べた。

宮迫・亮の話を信じたくなる岡本社長の話ぶり

 ところが質疑応答に入ると、岡本社長の口調が一変する。最初は口が重くても頼りなくても、徐々に話がわかりやすく滑らかに展開した方が、人の心をひきつけるといわれる。この会見は、その逆の展開になってしまった。

 返答は回りくどく、歯切れが悪く、要領を得ない。質疑がかみ合わない場面も多く、言い訳がましい釈明にしか聞こえない。記者からは確認のために、同じ質問が繰り返される。論点が分からず、言いたいことがわからないし伝わらない。人は自分がわかりやすい、脳が処理しやすいものを真実と認知する傾向がある。これを「処理の流暢性」という。双方の話に食い違いが起きても、訳のわからない岡本社長の話より、宮迫さんたちの話を信じたくなってくる。

 質問されると言葉につまり「う~ん」と考え込む。身体を揺らし、目をしばたたかせる。言葉を選んでいたのかもしれないが、これらの仕草から、社長は本当のことを話しているのだろうかと疑ってしまう。吉本興業の社長なのに、なぜこんなに話が苦手なのか、反応が遅いのかと驚いた人も多いだろう。

「1つは冗談で、『テープ録ってるんちゃうの?』」(岡本社長)

「うーん。僕的にはそう思っていないが、相手がそう感じているならそうですね」(岡本社長)

 社長と芸人らの間のコミュニケーション不足や、コミュニケーションギャップは至るところで見受けられた。

接続詞「ただ」の多用がマイナスの印象に

「クビにする力がある」と言ったかという質問には、標準語で怒ることはないため、そういう言い方はしないと答えた。多くの質問において、的を得た、わかりやすい答えが返ってこない。宮迫さんと亮さんと社長の言い分が食い違うのは、言葉や会話に対する社長の感覚のずれもあるだろう。

 また、会見で岡本社長は時おり、「ただ」という接続詞を使っていた。「ただ、本当はこうなんだ、事実はこうだ」と吉本や自分が置かれていた状況を釈明したいという気持ちが、その言葉に強く表れていたように思う。このような会見では接続詞の使い方だけでも、言い訳がましく聞こえてくるものだ。

聞き手側が「吉本は何も変わらない」という印象を持った理由

 また使った言葉の時制を見ていくと、過去形や現在形で話す事が多く、未来形で話すことが少なかった。説得の方法においては、過去形は非難や罰を印象づけ、現在形は価値観を、未来形は決断、選択や利益を表すといわれている時制の使い方だけでも、吉本が未来に向かっているという印象が薄くなった。

 特に「思います」「思っています」という感情的な言い方が多く、「こうする」「こうしたい」という行動に移すような言い方が少なかったため、岡本社長も吉本も何も変わらない、動きがない感じが強くなった。

 1年間50%の減棒を発表し、辞任しない理由を聞かれると「うー」と答えに窮してしまう。絞り出すように「今の状況を変えるためにやりにいく」と前を向いて答えたが、「岡本さんにしかできないことは」と問い返されると、視線を横に向けて再び沈黙。

「みんなにあとで聞いておきます」(岡本社長)

 吉本はこの社長の下で変わっていけるのだろうか。

(岡村 美奈)

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