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本当の友達は"嫌なら辞めれば"と言わない

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「野党は批判ばかり」は野党の封じ込めだ

「呪いの言葉」というキーワードを念頭に置いてみると、労働の場面だけでなく、あちこちに呪いの言葉があふれていた。政治の場面もそうだ。

私は2018年の通常国会において、働き方改革関連法案をめぐる国会審議に注目して、日々、ツイートしていた。長時間労働の是正をうたいつつも、残業代を払わずに長時間労働させることを可能とする「高度プロフェッショナル制度」の創設を、抱き合わせの一括法案によって実現しようとする、その政府の姿勢に強く反対していた。

しかし、「野党は反対ばかり」「野党はモリカケばかり」「野党は(国会審議を拒否して)18連休」、そんな表層的な批判が、ツイッターにあふれていた。それに対して野党側から、成立に賛成している法案のほうが多いと反論がなされる状況にあった。

違うのだ。賛成している法案のほうが多いというのは、相手の土俵に乗せられたうえでの反論でしかない。「野党は反対ばかり」と言いつのるのは呪いの言葉なのだから、その相手に返すべき言葉は、「賛成もしています」ではなく、「こんなとんでもない法案に、なぜあなた方は賛成するんですか?」なのだ。

切り返すことで本当のねらいを明るみに出せる

そう問い返すことによって、「野党は反対ばかり」と言いつのる相手がねらっていたのは、まともな審議を実現することではなく、野党の指摘を無効化することであると明るみに出すことができる。法案を通したい自分たちの意見を正当化できないからこそ、正当な指摘をおこなっている野党を、そのような呪いの言葉で抑え込みにかかっているのだ。呪いを呪いとして認識すること、呪いの言葉による抑圧の構造を可視化することこそ、必要なのだ。

そう思った私は、さまざまな「呪いの言葉」に対する切り返しかたをツイッター上で募集することにした。「#呪いの言葉の解き方」というハッシュタグを作って、自分でも文例を示して見せた。

「若さ」という呪い

参考にしたのは、ドラマ化されて話題となった海野つなみのコミック『逃げるは恥だが役に立つ』(『逃げ恥』)(講談社、2017年)の、土屋百合の言葉だ(第9巻)。

百合は、結婚も出産もせずにキャリアを手にしてきたが、親子ほども歳が離れた風見涼太から恋愛感情を告げられて心が動く。しかし、みずからの年齢を考えてその思いを受け入れないことを伝えていた。その事情を知らない五十嵐安奈が、風見の彼女のポジションをねらって百合に近づき、こう語る。

やっぱり若さというのは価値の一つだと思うんです

アラフィフの百合に圧力をかける言葉だ。

その言葉に百合は「呪いね」と応じ、こう続ける。

自分で自分に呪いをかけているようなものよ
あなたが価値がないと思っているのはこの先自分が向かっていく未来よ
それって絶望しかないんじゃない?

自分が馬鹿にしていたものに自分がなるのはつらいわよ
「かつての自分みたいに今周りは自分を馬鹿にしてる」と思いながら
生きていくわけでしょ

そんな恐ろしい呪いからはさっさと逃げてしまうことね
あなたがこの先楽しく年を取っていきたいと思うなら
楽しく生きている年上の人と友達になるといいんじゃないかな

あなたにとっての未来は誰かの現在であったり過去だったりするんだから

自分自身を「呪縛」から解き放った

百合は五十嵐の呪いの言葉に縛られない。逆に、百合を抑圧しようとする五十嵐に対し、それは「呪い」だと告げる。呪いの言葉で相手を支配しようとする、その構造を可視化させる。そのうえで、「あなたが価値がないと思っているのはこの先自分が向かっていく未来よ」と、問いを相手に返していくのだ。

そして、五十嵐にそう語ることによって、百合自身が呪縛から解き放たれていく。

彼女に偉そうに言いながら
一方で自分の言葉に驚いていた

だって

一番年齢や周りの目を気にしていたのは
他ならぬあたしじゃない

そう気づいたあとで百合は、風見のことをどう思っているのかと問う五十嵐に向かって、緊張の取れた笑顔でこう答えるのだ。

大好きよ
あなたもそうなんでしょ?

その下に、この言葉。

するりと言葉がこぼれて
心に気持ちの良い風が吹いた

切り返せれば「自由で柔軟」になれる

この百合のように、呪いの言葉を投げかけてくる相手に、切り返していくこと。それができるようになれば、私たちはより自由に、より柔軟に、状況を把握し、恐れや怯えや圧力から、心理的に距離を置いたうえで、状況への対処方法を考えられるようになるのではないか。

そう考えて、「呪いの言葉」への切り返しかたを文例として集め始めた(2018年6月18日)。どなたかまとめていただけないだろうかとツイッター上で呼びかけたら、面識のないフォロワーであった@tokitaroさんというかたが、その日のうちに手を挙げてくれて、翌日には「#呪いの言葉の解き方」という素敵なサイトを作ってくださった。

その後、さらに文例が増えて、「政治参加・市民運動」編、「労働法制」編、「野党は」編、「いろいろ」編と分けて、文例を収録いただいた。

心理的距離を置いて、相手の言葉を「無効化」する

上西充子『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)

たとえば、「結局選挙で勝つしかないでしょ?」には、「選挙まで黙っていろと? 嫌です」と切り返してみる。相手の土俵に乗せられずに、こちらを自分の土俵に乗せようとする相手のねらいを俯瞰するかたちで切り返せば、相手の呪いの言葉は無効化できるのだ。

もちろん気持ちのうえで呪縛から距離を置くことができても、現実に自由の身になれるわけではない。けれども、まずは自分が相手の「呪いの言葉」の呪縛の中に押し込められ、出口のない息苦しさの中でもがいている、その状態を精神的に脱することが必要だ。そのための切り返しかたが、ここに集められた文例だ。

なお、これらは呪いの言葉から心理的に距離を置くための思考の柔軟体操なのだととらえていただきたい。こういう言葉で実際に相手に切り返した場合には、逆切れされて反撃される恐れもある。その点は注意していただきたい。


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上西 充子(うえにし・みつこ)
法政大学 キャリアデザイン学部 教授
1965年、奈良県生まれ。東京大学大学院経済学研究科第二博士課程単位取得中退。日本労働研究機構(現・労働政策研究・研修機構)研究員を経て、法政大学キャリアデザイン学部教授・同大学院キャリアデザイン研究科教授。著書に『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)など。
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(法政大学 キャリアデザイン学部教授 上西 充子 写真=iStock.com)

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