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キャリアパスポートは教育の仕事ではない

文部科学省は、2020年4月から小中高校生に対し、学校生活の目標を自ら設定して、どの程度を達成できたのかを評価するための「キャリアパスポート」を導入することを決めたという。(*1)

要は、学校の中で目標とすることを建てて、それをどのように実践するか、それができたか、できなかったかを自己評価し、それに対して教師がアドバイスをするというものだ。(*2)

ぶっちゃけ、このシステムには「いかにも一直線に生きて成功を掴んできた、優秀な官僚様が思いつきそうなことだなぁ」という感想しか出てこない。

自分が考えているライフプランを文字に書き、学校や家族と共有する。それをみんなが支えて実現する。

こうやって文字列にして書くだけなら簡単なことでも、実際に現場でそれをやらされる側の苦労は並大抵のことではない。学校の教師が1クラス分、すべての生徒の人生目標に責任を持てとでも?

教師たちは授業の準備や様々な書類の作成、行事の準備や部活動など、日々の仕事に追われている。教師の長時間労働は、ここ最近のトピックスでもあるのだが、まさか文部科学省の官僚様は、そんな事も知らないのだろうか?

また、現代の子供たちの置かれた環境は、裕福な家庭もあれば中流や貧困の家庭もある。移民や片親、親からの暴力に悩む子供など多種多様である。

多分、官僚様の感覚としては、工場での製品管理なのだろう。この「製品」はどのような過程をたどって完成するのか。それを教師という工員が逐次チェックしていくイメージだ。

こうしたやり方は「短期的なゴール」が決定しているときには効率的であるが、まだ手探りで人生を歩んでいる、これから長い人生が待ち受ける最中の子供に対して行うことは、目標と手段が短絡的に結びつけて考えるような視野狭窄に陥らせるだけではないだろうか。

それにしても、学校というのは大変である。

これまでの社会では子供の親や、地域の大人たちが担っていた、子供たちの人生すら、官僚を始め社会やその子の親までもが、学校に担わせようとしている。そうやって「親は仕事へ。子供は学校へ」と、居場所を1つに決めてしまい、そこから外れた生き方を否定する。要は、学校に子供の人生のオールインワン化を任せているのである。

その結果、学校での立ち振舞は子供の一生を左右するものとなり、スクールカーストの下位に位置する子供たちは、生涯に渡って苦難を強いられることになる。

そうならないために、子供たちはキャリアパスポートを通して、スクールカースト上位の座を目指すのだろう。それこそ文部科学省で、大人たちが仕事そっちのけで派閥を固め、立身出世を目指すのと同じように。

キャリアパスポートの存在は、子供の人生を窮屈なものにする。

なぜなら、子供の人生を学校のシステムに紐づけて、成功体験を学校教育上という、守られた場でしか描けなくなってしまうからだ。

学校のような全員が所属し、ある程度同じ尺度で評価されることが義務付けられているシステムの上で成功体験を重ねた場合、同じ尺度で評価されない場での成功と失敗をも、さも同じ尺度で評価された結果であるかのように混同してしまう。

すなわち、文科省の官僚のような人が成功体験を重ねるのと、就職氷河期世代のフリーターを同じ尺度で見積もり「あの人は成功しているのに、この人は失敗している。自己責任だ」などと考えてしまう。そうした視野の狭い子供を育ててしまいかねない。というか、すでにそうなってしまっている。

しかし、本来の学校教育の目的は、どのような環境にいようとも、自分で自分の人生を切り開くことのできる力を育むことであるはずだ。

生き方は多種多様だ。それは決して理想論ではなく、全員が同じスタートに立てない以上は、多種多様にならざるを得ないという意味である。

人生に有利不利があっても、そこで生き残る術を教えるのが、学校教育の大前提だ。

だからこそ、学校はそうした生徒個人に対して、全員の人生が異なるという前提の下に、教育を行わなければならないのである。

それをキャリアパスポートのようなもので一律に規範化して、官僚が望む意識の高い方向に導くというのは、決して教育の仕事ではないと、僕は思うのである。


*1:文部科学省は、小中高校生が学習や学校生活の目標を設定し、達成度を自己評価する教材「キャリア・パスポート」を2020年4月から全国の小中高校で導入する方針を決めました。自己肯定感、学習意欲の向上を目指します。
*2:「キャリア・パスポート」導入に向けた調査研究協力者会議(文部科学省)

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