記事

歯科医の5割が口に入れる器具を使い回す

1/3

「歯科業界では他の歯科医が行った治療を批判しない」。これまで歯科医療関係者を100人以上取材してきた岩澤倫彦ジャーナリストが受けたくない治療を語る。

銀歯▼歯を失う「負の連鎖」と手抜き治療にご用心

虫歯治療といえば、歯を削った部分(窩洞)を銀歯にするのが主流だった。1960年代から80年代にかけて、虫歯患者が爆発的に増えた時期を「虫歯の洪水時代」と呼ぶ。

この当時、大量に行われた銀歯の治療が、歯を失う「負の連鎖」を引き起こしていることは、ご存じだろうか?

現在、初期の虫歯は「再石灰化」によって回復することがわかっている。しかし、かつては早期治療と称して、大きく削って銀歯にするのが一般的だった。これによって「再石灰化」のチャンスを失っていたのだ。

さらに、銀歯を装着するために、虫歯が小さくても健康な部分も削って大きく拡げていた。小さい銀歯は、外れやすいからである。

加えて、歯ブラシが届きにくい部分を削って、銀歯に置き換えていた。「予防拡大」という100年以上前に確立された、虫歯治療の基本原則による教えがあったからだ。

いわば「転ばぬ先の杖」だが、現在では「余計なお世話」だったことがわかっている。歯を大きく削ることが、歯の寿命を縮めていたからだ。

銀歯を固着するセメントも、大きな問題となっている。経年劣化したセメントが溶けて隙間ができ、そこにプラークが侵入して、虫歯の再発原因になっているのだ。

再発した虫歯が進行すると、歯の中心部に通る歯髄(神経や血管)にまで感染が及び、「歯髄炎」が起きる。これは強い痛みを伴う。そして重度の「歯髄炎」になると、歯髄を抜かざるをえない。

また、歯根の先端にも感染が起きると、膿が溜まる「根尖病変」となる。こうした銀歯による「負の連鎖」で、歯が失われているのだ。

小さすぎる銀歯。(写真は『やってはいけない歯科治療』より)

銀歯の「手抜き治療」も横行していた。X線画像のように、歯の形状に合っていない銀歯が多いのだ。当然、虫歯の再発リスクは高い。

銀歯の問題は、歯科医の間で周知の事実だったが、患者に伝えられることはなかった。歯科業界には「他の歯科医が行った治療を批判しない」という不文律が存在しているからだ。

手抜き治療を見つけて、指摘や告発した歯科医が、地域の歯科医師会などに組織ぐるみで圧力をかけられたケースも聞いた。

レジン▼虫歯以外は削らずにすむ合理的な治療法

日本で銀歯が主流だった頃、コンポジット・レジン修復という虫歯治療が開発された。レジンはプラスチック系素材で、歯の色に近いペースト状になっている。

虫歯部分だけを削った後、レジンを充填して光を当て固める。ただし、虫歯の範囲が大きいとレジンが使えない場合もある。

2002年、国際歯科連盟はミニマル・インターベーション(歯に対する最小限の侵襲)という概念を提唱した。これを具現化した虫歯治療が、レジンだった。当時からスウェーデンなどはレジンが主流だったが、日本は銀歯に固執していたのだ。

初期のレジンは、銀歯に比べると摩耗が早く、欠けやすいなどの欠点があった。それを理由に今でもレジンの使用に消極的な歯科医がいる。

だが、80年代にフィラー(セラミックなどの粒子)をレジンに混入する技術開発で、飛躍的に性能が向上。長崎大学・久保至誠准教授らが、レジンと銀歯の耐久性に有意差がないことを科学的に立証した。

銀歯とレジンは、治療技術が根本的に異なることも無視できない。銀歯の製作は歯科技工士が行い、歯科医は型取りと装着のみで効率的だ。

一方のレジンは、歯科医が何回にも分けて重ねるようにレジンを充填しなければならない。光を照射して固める時間や、患部との距離も耐久性に大きく影響する。レジンは手間と時間が必要となるのだ。

東京医科歯科大・田上順次副学長は、「レジンの普及が遅れた最大の要因は、保険の診療報酬」と指摘する。

05年当時の試算では、クリニックの利益(粗利)が「銀歯:約4000円」に対して「レジン:2700円」。レジンは、時間と手間が必要なうえに利益が少ない。つまり歯科医にとって、レジンはコスパが悪かったのだ。

ようやく日本でもレジン修復が普及してきたが、現在でも銀歯のインレー(小さい虫歯治療)は1カ月に約70万本行われている(厚労省統計17年6月分)。

歯根 破折▼1度壊れると再治療が難しい「メタルコア」

虫歯によって歯髄炎や感染を起こしたとき、歯を残す最後の手段となるのが「根管治療」。歯髄を根管から除去した後、殺菌して空洞部分をガッタパーチャなどで封鎖する。そして人工歯の支台となる「コア」を根管に入れる。

日本では、堅牢な銀合金など金属製のメタルコアが主流だ。しかし、メタルコアが原因で「歯根破折」が頻発、抜歯になるケースが続出していた。強い咬合力がかかると、硬いメタルコアが、楔のような役割をして、歯根の象牙質を割ってしまうのだ。「歯根破折」が起きると、大半の歯科医は抜歯を選ぶ。

こうした問題点を解決できるのが、根管の弾性率に近い「ファイバーコア」。16年に「ファイバーコア」が保険適用になったが、1カ月間のファイバーコア使用量約5.7万本に対して、メタルコアは約20万本である(厚労省統計17年6月分)。

「ファイバーコアを使用すると、採算が合わない」と本音を漏らす歯科医もいる。

残念なことだが、患者の歯よりも、コスト=利益を最優先にする歯科医が少なくない。

今後、根管治療を受ける場合は、「支台にはファイバーコアを使用してほしい」と歯科医に要望したほうがいいだろう。

根管治療は「ラバーダム」というゴム製シールドで患部が唾液に触れないようにするのが大原則。これを使用しない根管治療は、失敗する確率が高いので、避けたほうが賢明だ。「ラバーダム」を使用しない理由もコストだという。

あわせて読みたい

「歯科医療」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    元オウム死刑囚の帰依心消えた夜

    篠田博之

  2. 2

    中露側との連携に舵切った文政権

    赤池 まさあき

  3. 3

    石破氏「日韓の歴史を学ぶべき」

    石破茂

  4. 4

    日米を敵に回し北朝鮮選んだ韓国

    AbemaTIMES

  5. 5

    「GSOMIA報道は感情的」に反論

    小林よしのり

  6. 6

    韓国暴走か 日本は立場表明せよ

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  7. 7

    GSOMIA破棄 米では日本批判なし

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

  8. 8

    ユニクロと無印良品の決定的違い

    PRESIDENT Online

  9. 9

    GSOMIA破棄 画策したのは中国か

    文春オンライン

  10. 10

    民主主義を取り戻せ 若者の挑戦

    たかまつなな

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。