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「契約書のない契約」という“闇”~吉本興業の「理屈」は、まっとうな世の中では通用しない

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しかし、有名な芸人でも無名の芸人でも、吉本の興行に出演した場合には、興行主の吉本との間の「出演契約」に基づき、吉本に対価を請求できる。そういう意味では、出演する芸能人は「債権者」であり、吉本は、その対価を支払うべき「債務者」だ。両者は、利害が対立する契約の当事者である。その一方の吉本が、圧倒的な「優越的地位」の下で、報酬も明示しないで出演を依頼し、その対価を、「債務者」のお心次第で決めることができるなどというのは、まともな会社が行う「契約」として、あり得ない。

本来、興行を行うことを事業とする会社であれば、出演させる芸人については、キャリア・芸のレベル・人気度・集客力等を評価し、それに応じた相応の報酬額を合意し、興行にかかるコストを確定させた上で、興行を行うのが当然であろう。その上で、収益が上がるかどうかは、会社の責任である。

このように、利益相反が生じる関係であるからこそ、合意の段階で契約内容を明確化して、各当事者が、それぞれどのような義務を負うのかを明らかにしておかなればならない。会社としての利益と芸能人個人の利益との間で利益相反が生じる得る場合には、利益相反を防止するために、両者の立場を分けることを合意する必要がある。

そういう意味では、このような契約関係について、契約書で、契約内容を明確化しておくことが不可欠なのである。

口頭での「契約」の是非

大崎会長は、

芸人、アーティスト、タレントとの契約は専属実演家契約。それを吉本の場合は口頭でやっている。民法上も、口頭で成立します。

と言い切っている。

確かに、契約締結の形式は「契約書」に限らず、口頭でも成立する。例えば、小売店で商品を買うのも「売買」だが、商品を選択して代金を払うことで売買契約は完了し、その後に契約の履行が生じる余地がないので契約書は不要だ。また、業者が作成している「料金表」を確認した上で業務を発注し、業務終了後に請求書を受領して支払うという場合には、特に契約書を交わさない場合も多い。契約の内容と対価の関係が明確で争いが生じる可能性が低いため、契約書を作成する必要性も低いからだ。

しかし、吉本と芸人の関係は、それとは全く異なる。「契約書」を作成し、契約内容、対価を明確にし、利益相反が生じないようにしておく必要がある場合の典型だ。まさに、「契約書のない契約」による「闇」だといえる。

芸能事務所とタレントの契約と労働法上の問題

芸能事務所とタレントとの契約関係は、仕事のマネジメントをするという面においては「専属マネジメント契約」が一般的なようだが、実態として芸能事務所とタレントとの間に「使用従属関係」があり、労務の提供に対して賃金が支払われる関係であれば、雇用契約とみなされ、労働基準法9条に定める労働者としての保護を受けることになる。この場合、労働基準法により、就業規則を定めることや、労働条件通知書の交付が義務付けられる。

吉本とその傘下の6000人にも上るという芸人との関係は、一部の有名芸能人以外は、「使用従属関係」が認められる可能性がある。それは、今回の宮迫氏らの問題で用いられた「闇営業」という言葉に表れている。吉本所属の芸人が「会社を介しての仕事しか受けてはならない」という義務を負っているとすると、芸人の仕事はすべて会社の使用従属関係の下で行われていると認定され、雇用に該当するので、労働条件通知書を交付しないことが違法とされる可能性が高い。

そのことを意識しているからか、大崎会長は、BIのインタビューで、以下のように述べている。

闇営業という言葉を、今回のことで初めて知りました。要は会社を通さない仕事で、ぼくが入社したときからあって、いまもある。

そもそも「闇営業」という言葉もなく、会社を通さない仕事は自由に行えるというのである。そうだとすれば、芸人は労働者ではなく、個人事業者であり、事業者として自由に営業を行うことができ、吉本側からは制約を受けないということになる。

しかし、仮にそうだとすると、その「個人事業者としての自由な営業」の相手方の「反社チェック」を行うことは事実上不可能であり、今回のような問題の再発を防止することは難しいということになる。

日本の芸能事務所をめぐる法律上の根本問題

今回のような問題が発生した背景に、日本の芸能事務所とタレントの関係が、芸能活動に関するサポート業務を包括的に引き受けているという構造がある。それは、両者の関係の「一体化」を招き、「契約の当事者」という認識を希薄化させることになっている。

芸能事務所とタレントとが一体化していることで、タレント側は、芸能事務所側に生殺与奪の権利をすべて握られ、出演の対価の決定もすべて芸能事務所側に握られている構図になっている。このように明らかにタレント側に不利な構図であっても、外部的な問題が発生せず、タレント側がそれに甘んじている限り、特に問題が具体化することはない。しかし、今回のように、タレント個人が、反社会的集団・犯罪集団等との関わりを持ったとされることで社会的非難を浴びるという局面になり、個人の利害と芸能事務所の利害とが相反しかねない関係になると、その「一体的関係」のもとで、利益相反を防止するための措置すら明確ではない曖昧な契約関係の問題が一気に具体化することになる。

組織も個人も社会から複雑多様な要請を受け、それに応えていかなければならない「コンプライアンス」が重視される世の中では当然のこととも言えるのである。

タレントに仕事の斡旋を行うエージェントと、日常的なサポートを行うマネジメントが分化しているアメリカでは、かねてから、エージェントに関する法律も定められてきたが、日本は、この領域については、ほとんど「無法地帯」であったと言っても過言ではない。

吉本は、日本を代表する芸能事務所であるともに、一つの大手企業である。それだけではなく、2019年4月20日には、安倍晋三首相が吉本新喜劇の舞台に上がり、新喜劇の芸人たちと歓談し、それを大手メディア各社が「ニュース」という扱いで全国に報じるなど、一国の首相ともつながりを持っている。

上場企業ではないと言っても、それだけ大きな社会的影響を持つ企業なのであるから、その事業運営の適正さ、公正さが強く求められることは言うまでもない。

吉本の代表である岡本社長、そして、大崎会長には、吉本という会社が、江戸時代の「置屋稼業」のような事業から脱却し、タレント・エージェンシー企業として、契約の適正化・明確化を実現することが求められている。

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