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「現代は本が読まれる」最新号が完売続出した『文藝』、仕掛け人に聞く大胆リニューアルのねらい

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BLOGOS編集部

1933年創刊の、日本で最も歴史の古い文芸雑誌のひとつ『文藝』が4月発売の夏季号で大幅なリニューアルを敢行した。“文芸誌らしくない”ポップなデザインへの変更は、本好きにとどまらずネット上でも注目を集めていた。

さらに、7月発売の秋季号は発売数日で完売が続出。買いたくても買えなかった読者の声を受け、同誌としては2002年冬号以来17年ぶりとなる重版を決定した。(*その後さらに増刷が決定し、1933年創刊号以来の3刷となった)

文学が売れない時代だと言われて久しいが、『文藝』編集長の坂上陽子さんは、「個人的には昔よりも読まれている気がする」と話す。同誌リニューアルのねらいとは、そして今後目指す雑誌のあり方とは、大胆な刷新を仕掛けた坂上さんに聞いた。

「文芸誌はもっと目立たないと」

—1933年創刊の歴史ある『文藝』ですが、前号から大胆にリニューアルしました。きっかけはどのようなものだったのでしょうか。

編集長になることが決まったとき、文芸誌編集の経験値があまりなかったもので、どうしたものかと悩み、しばらくは書庫で過去のバックナンバーを見返していました。それで気づいたのは、「文藝」はその時々の編集長によって誌面から受ける印象が全く違うということ。特に季刊誌となった80年代後半以降はその傾向が強くて、今回もその文藝らしい伝統に則って、思い切ってコンセプトを変えてみようかな、と考えたのが最初でした。

—「文藝らしさ」というのは、どういうイメージですか?

文学における新しい場所を常に創るために、新しいことに挑戦してきた、というこことが「文藝」らしさかと思います。実際、今編集部にいる私たち自身もそれが伝統を受け継いでいくために課せられた使命だと思っています。改造社から創刊されて、戦時中唯一発刊され続けたのが「文藝」です。その後1957年に会社の状況が悪くなった際、一度休刊していますが、その後1962年に、坂本龍一さんのお父さんである坂本一亀さんが復刊して、「文藝賞」を創設。その文藝賞の第一回長編受賞作が高橋和巳「悲の器」でした。うちの会社は規模が大きくありませんが、振り返ってると試行錯誤の連続の中で文学シーンに新しいものを投入してきたという伝統があると思います。

この20年でも、J-文学といったムーブメントを仕掛けたり、綿矢りささんが文藝賞を17歳で受賞、またその後『蹴りたい背中』で史上最年少で芥川賞を受賞して100万部を越えるベストセラーになったことは記憶に新しいところです。最近だと若竹千佐子さんが63歳の新人として『おらおらでひとりいぐも』で芥川賞を受賞し、これも50万部を超えるベストセラーとなりました。もっと前、80年代には、田中康夫さんや山田詠美さんが文藝賞からデビューしていますが、物議を醸しながらもベストセラーとなりました。「文藝」から生まれてきた作品は、「これは文学なのか、文学じゃないのか」という境界線を常に壊してきた面はあるのかな、と。

—表紙からして、文芸誌らしくないポップなイメージでした。

確かに、ガラッと変わったという印象を持つ人もいるのかなとは思います。ただ、今現在でいうと他の文芸誌とは少し毛色が違うかもしれませんが、もっとアバンギャルドな誌面を作っていた時代もあるので、自分たちの意識としてはそんなに大幅な変更をしたとは考えていませんでした。

表紙は、とにかく目立ちたいな、と(笑)。文芸誌はもっと目立たないと、ということを一番考えました。表紙の文字数はあまり多くないほうがいいかな、とか、デザインは佐藤亜紗美さんにお願いしたいな、とか、やりたいことを挙げていって。結果、佐藤さんにお引き受けいただけたことは、本当によかったです。デザインはやはり雑誌の顔でもあるので。こちらの意図を常に的確に汲み取っていただき、さらには新しいアイデアもたくさんいただき、無理なお願いも聞いていただき、佐藤さんにとっては本当に大変だったかと思いますが、リニューアル号に向けての日々のやりとりは毎日刺激的で楽しかったです。イラストのクイックオバケさんは、私が前々からネットで見ていてファンだったんです。リニューアル前に、海外の文芸誌をいろいろ調べていた時にアメリカの文芸誌「New Yorker」の表紙がWEB上で動いているのを見つけて、これは面白いかも、クイックオバケさんでこういうことを実現できたらおもしろそうと思い、表紙はGIF動画込みで作っていただくこをお願いしました。

\「文藝」夏季号発売!/新ADに佐藤亜沙美さん@satosankai を迎え約20年ぶりの大リニューアル&平成最終号!表紙はクイックオバケさん @QuickObake 、特集「天皇・平成・文学」、古谷田奈月の長編「神前酔狂宴」370枚一挙掲載! #文藝リニューアル #表紙が動くよ #文芸再起動https://t.co/nrc2rOPPch pic.twitter.com/4gaeTgDjhZ

— 河出書房新社 文藝:shaved_ice:秋季号86年ぶり3刷 (@Kawade_bungei) April 5, 2019

\「文藝」秋季号発売!/568pに80万字:ピカピカ:ポップな文学の鈍器:グーパンチ:【特集 韓国・フェミニズム・日本】対談:斎藤真理子×鴻巣友季子、チョ・ナムジュ、イ・ラン、西加奈子ら日韓作家10人競作【創作】山崎ナオコーラ「リボンの男」吉村萬壱「流卵」【新連載】磯部涼「移民とラップ」https://t.co/nrc2rOPPch pic.twitter.com/WqGD0Bwmbw

— 河出書房新社 文藝:かき氷:秋季号86年ぶり3刷 (@Kawade_bungei) July 4, 2019

—表紙が動くっていうのは、すごく新しいですね。

どうなんでしょうね。文芸誌では先例はなさそうですが。とにかく新しいことをやらざるを得ない状況に追い込まれていたし、私自身が現代の文学シーンに少し閉塞感を感じていたところもあります。私は今の部署の配属前は5年間『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集』というシリーズの編集に携わってきました。作家の池澤夏樹さんが個人で編集した「全集」です。そのシリーズの特徴のひとつでもある、「古典作品を現代作家が新訳する」というあまりない業務の中で、様々な勉強をさせてもらいました。作業を通して強く感じたのは1000年以上にわたり培われてきた日本語の世界が、想像以上に豊かだということ。それまでは恥ずかしながら古典を読む機会はそれほど多く持ってこなかったんですけど、昔の人もおもしろい文芸と接した時の受け止め方は、現代人それほど変わらないな、という気づきもあって。

そこから現代文学のシーンに戻った時に考えさせられることがたくさんありました。リニューアル号の「文芸再起動」というフレーズに当初は特に深い意味を込めてはなかったのですが、今から思うと、そこにいる自分たちがその言葉によって鼓舞されたかったのかもしれません。かつて「文藝」が創刊された1933年当時は、小林多喜二が警察の拷問により亡くなったり、日本が国際連盟を脱退したりで政治状況の見通しの暗さもあり、「文芸復興」ということがよく言われていたようですし。

本の未来に悲観はしていない

—リニューアルして最初に出した前号の執筆者を見ても、坂上さんのこれまでの経験や問題意識が感じられます。

いまは小説は小説、詩は詩、批評は批評、とジャンルがはっきりと分かれていますよね。そうではなく、そこが交わるような文芸、日本語の世界の面白さをしっかり見せたいな、ということは考えていました。小説が文学のメインになったのはここ100年くらいのことだと思うので「言葉」というものを、より根源的なところで捉えていきたいとは思っています。なのでいわゆる作家以外の表現者の方々にもたくさん登場いただきました。

ただ、これも私たちが急に始めたことではなく、『文藝』はこれまでもミュージシャンやアーティストなど様々なジャンルの人に書いてもらってきたという伝統があるので、そうした誌面作りはこれからもやっていきたいと思っています。だいたい、過去の先輩方が作ってきた誌面に元ネタがあるんですよ。


—新しいことをしているつもりはなく、どこかに元ネタがあると。

最新号「韓国・フェミニズム・日本」では、文藝のための書き下ろし原稿が欲しいということで韓国の作家ハン・ガンにお願いしました。海外作家に直接原稿を依頼するというのは珍しいと思いきや、改造社時代の『文藝』の創刊号には、ロシアのゴーリキーが書き下ろした原稿が載っていたんですよ。これにも元ネタがあったのかって(笑)。

—今後は海外文学にも力を入れていくんですか?

そうですね。海外文学は一つの軸にしていきたいですね。それも、海外の作家をただ紹介するだけじゃなく、今回のような形で「生の作品」をちゃんと載せていきたいです。

今号は最近の韓国文学がすごく面白いよね、というところからスタートしたんですけど、これまで「海外文学」と言っても、アメリカやイギリス、フランス、といった欧米圏の作品が主流で、韓国の文学にはそこまでこれまで目が向けられていなかったと思うんです。それが今はここまでたくさんの作品が書店に並んでいる。斎藤真理子さんという素晴らしい翻訳者の力は大きいと思います。「こんなに近い国に、こんなに面白いものがあったのか」と思わせてくれる、素晴らしい作品がどんどんと世に出ている。チョ・ナムジュの『82年生まれ、キム・ジヨン』が13万部売れていることも衝撃的でした。

—面白い本はしっかりと読みたい人に届く、と。

よく言われているように、出版業界の売り上げは低迷していて、書店の数もどんどん減っているという状況はあります。これはとても厳しいことで「本」という存在を目にする機会が減ってしまうことに対しては、危機感を覚えています。

その一方で「本」というものを新しく捉え直す動きや新しい媒体、新しい形の編集や面白い届け方も登場してきているので、そこまで悲観はしていません、何より、読めば面白い本、つい人に勧めたくなるような本が、一生かけても読めないくらい、世界中で今も次々生まれていることは最高に楽しいことじゃないですかね。

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