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「参議院不要論」―存在意義なくした参院は不要だ―



【正論】日本財団会長・笹川陽平 
2012年5月14日
産経新聞 東京朝刊

 「日本の政治はなぜ、何事も決まらないのか」。外国を訪問して要人と話すと、しばしばこんな質問を受ける。開会中の国会を見ても喫緊の課題である東日本大震災からの復興や財政再建に対する熱気は伝わってこない。とりわけ参議院はねじれ国会の中で数の論理ばかりが先行し、「良識の府」としての本来の機能を失っている。

 ≪衆院のカーボンコピー≫
 私は2010年4月の本欄で「衆議院300、参議院100」の定数削減を提案して以来、この考えを堅持してきたが、この際、あえて参院不要論に転向し、定数300の一院制への移行を提案する。国民のいら立ちと失望は頂点に達し、一院制に向け憲法改正を模索する動きが政界からも出てきている。存在意義をなくした参議院はもはや不要である。

 12年度予算は14年ぶりに成立が新年度にずれ込んだばかりか、約4割、38兆円分を賄う赤字国債発行法案は成立の目途が立っていない。消費税増税法案など関連法案の行方も含め引き続き混迷政局が続くと思うと、果たしてこの国は大丈夫か、暗澹(あんたん)たる思いがする。

 200年近くも前のフランスの政治家エマニュエル=ジョゼフ・シェイエスは「両議院が対立すると、これほど有害なことはないし、同じ議決となれば、これほど無駄な審議はない」と二院制を批判した。

 衆院通過から1カ月近くも経て本会議で予算案を否決した参議院の審議経過は、最初から「結論ありき」で目新しい議論があった記憶もない。両院協議会の議論も形骸化し、参議院は衆議院のカーボンコピーと化している。迅速な決断が求められる中、“時間の浪費”と批判されても仕方がない。

 ≪自身の責任で決断すべきだ≫
 サッチャー元英首相を取り上げた映画「鉄の女の涙」が評判を呼んでいる。3回お会いしたことがあるが、最初の1984年6月は首相6年目。亡父・笹川良一と私をダウニング街10番地の首相官邸に招待され、夕食後、われわれを閣議室に招き入れて亡父を首相席に座らせ、「このいすに長時間、たった一人で座り、1万6000キロの大遠征を孤独に決断した」と、その2年前のフォークランド紛争を問わず語りに述懐された。

 「困難な政治問題は多数意見に追随するのではなく自分自身の責任で断固決断し、人々を納得させなければならない」「コンセンサスはさほど重要と思わない。あれは時間の浪費のようなものです」とリーダーとしての覚悟、自信も語られた。先が見えない混迷の時代に政治家に求められるのは、鉄のように固い信念である。

 情報が瞬時に世界を駆けめぐり情勢が刻々と変化する外交の世界においては、なおさらである。北朝鮮の核、ミサイル開発が問題となる中で3月26、27の両日、韓国ソウルで開催された核安全保障サミット。野田佳彦首相のソウル入りは参院予算委員会集中審議出席のため26日夜に遅れた。結局、オバマ米大統領ら各国首脳との個別会談は実現せず、日本の存在感の薄さだけが目立つ結果になった。

 これでは外交は成り立たない。首相以下、閣僚があまりに国会日程に縛られる政治の現状は、かねて日本外交不在の一因と指摘されてきた。時代の変化に合わせ、もう少し工夫できないものか。東日本大震災の復興を見ても、過疎に直面してきた被災地を21世紀型の新都市に再生させるチャンスは、停滞する政治の前に失われつつある。

 何も決まらぬまま低迷が続く政治の作り替えこそ、“待ったなしの課題”であり、そのひとつの方法として定数削減が検討されてきた。民主、自民両党とも公約に明記しており、実現すれば議員の歳費や文書通信交通滞在費、公設秘書3人の給与など議員1人当たり年間1億円以上の節約になる。議員数が減ればその分、議員の顔が見えやすくなる効果もある。

 ≪増える廃止論、無用論≫
 しかし、遅々として進まない政治改革の現状を見れば、いたずらに定数削減の実現を待つのは、かえって国民の政治不信を助長する結果になりかねない。有権者の政党離れや参議院廃止論、無用論の増加は、未曽有の国難を前にしてなお政策より政局が優先する政治に対する国民の怒りが深く静かに広がっていることを示している。国民が政治に背を向けたとき、この国の将来は危うくなる。

 ならば、存在意義をなくした参議院を廃止し、一院制に移行した上で議席数を大幅に絞り込んだ方が政治の緊張感も増し、再生への近道となる。衆議院480、参議院242の議員数は明らかに多すぎ、この点が個々の政治家の存在感、責任感を希薄にしているからだ。一院制になり議席も絞られれば、モノ言わぬ政治家、行動せぬ政治家が生き残る道はなくなる。

 いつの時代も政治に求められるのは、スピード感のある決断と実行力である。参議院廃止による一院制移行は、これを実現するため早急に検討されるべきテーマである。政治家諸氏が責任と覚悟を持って取り組まれるよう求める。

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